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映画「夏の嵐」ルキノ・ヴィスコンティのあらすじと感想

竹内みちまろ 参照回数:

 「夏の嵐」(監督:ルキノ・ヴィスコンティ 、1954年/イタリア、主演:アリダ・ヴァリ、ファーリー・グレンジャー、マッシモ・ジロッティ、ハイツ・モーグ、リナ・モレリ、クリスチャン・マルカン)という映画をご紹介します。「夏の嵐」の舞台は1866年のイタリアです。「夏の嵐」はベネティアからはじまります。クレジットタイトルのバックではオペラが上演されている場面が流れ続けます。クレジットタイトルが終わって、舞台の役者たちが観客に向かって高らかに歌声を上げました。一幕が終わったようです。円形のオペラハウスは拍手に包まれます。歓声のなかから「オーストリアはイタリアから出て行け」、「ベネティア万歳」という声が混じりました。イタリア国旗の色のビラがばら撒かれます。オーストリア軍人たちがやじを飛ばすイタリア人たちを牽制します。オーストリアは北部イタリアの占領軍としてベネティアに駐留しているようです。登場人物たちのセリフから、イタリアの将軍がプロイセンと組んでオーストリアと戦うための兵を募ることが語られました。「夏の嵐」はそんな時代の物語です。

 「夏の嵐」は、イタリアの伯爵夫人とオーストリア将校の恋物語です。伯爵夫人は、オペラ会場で将校を見かけました。独立運動の活動家である伯爵夫人の従兄のロベルトがオーストリア将校ともめたことがきっかけでした。「夏の嵐」は伯爵夫人の回想という形式をとります。「夏の嵐」では、伯爵夫人が語り手の視点から物語を語る場面があります。伯爵夫人は、オーストリア将校ともめたために流刑になった従兄のロベルトを見送りに行きました。その帰りに、オペラ会場で出会ったオーストリア将校から声をかけられます。将校は、暗いので家まで送りますと告げます。伯爵夫人は、断ります。しかし、将校は、伯爵夫人といっしょに歩きはじめました。2人は一晩じゅうベネティアの町を歩いて語らいます。伯爵夫人は、朝方に、屋敷に帰っていきました。その場面で伯爵夫人の語りが流れます。

「私は恥ずかしいと思いました。知ったばかりの男と朝を一緒に迎えたとは! オーストリアの将校と! 夫のあるイタリア人の私が! 一度たりとも軽率な行いをしたことのない私が! それから四日間が、彼と再び会うことを願って空しく過ぎていきました。四日目に、私は彼のもとへ走りました。彼だけがロベルトを救えると信じて。私にその義務があると信じて」

 伯爵夫人は、オーストリア将校の宿舎にひとりで入りました。宿舎には、服をはだけたむさくるしい男たちが頭をぽりぽりかきながら廊下を歩いています。伯爵夫人を見かけた将校のひとりは「淫売か」と蔑むような目で伯爵夫人を一べつしました。伯爵夫人は、例の将校の前に歩み寄ります。2人は、見つめあいます。将校は「天国も地獄も忘れよう」と甘い言葉をかけます。伯爵夫人の頭には、ロベルトの嘆願のことなど最初からなかったようです。2人は、くちびるを交わします。伯爵夫人は、将校が逢引のために借りたアパートに通うようになりました。しかし、2人は、揺れ動く激しい歴史の中を生きていました。イタリアとオーストリアの間で戦闘がはじまりました。伯爵夫人の夫は、戦乱を避けるためにベネティアを発つことを決めました。伯爵夫人は、なんとか出発を引き伸ばします。伯爵夫人は、なぜか行方をくらましてしまったオーストリア将校を探し回ります。あるとき、伯爵夫人のもとに男から連絡がありました。伯爵夫人は、待ちわびた心を抑え切れません。男の部屋に入る現場を夫に取り押さえられますが、「私には好きな人がいます。どうなってもかまいません」と、夫の腕を振り切ります。部屋にいたのは、オーストリア将校ではなくて、従兄のロベルトでした。伯爵夫人はベールでかくした顔に絶望を浮かべます。ロベルトは、そんな伯爵夫人の動揺に気が付きません。ロベルトは、レジスタンスが組織化されて義勇軍となろうとしていることを告げます。ロベルトは、伯爵夫人や部屋にいたレジスタンスの仲間たちを勇気付けています。レジスタンスたちは、イタリア独立のために全てを捨てていました。伯爵夫人は、独立に命をかけるロベルトの言葉に、放心しながらうなずくだけでした。伯爵夫人は、愛しい将校には会えないまま、郊外にある別荘に移って行きました。

 「夏の嵐」のストーリーは、北部イタリアに戦闘が広がることで展開します。オーストリア将校の部隊もベネティアから移動していました。オーストリア将校は、真夜中に、伯爵夫人の別荘に忍び込んできました。伯爵夫人は「なんでいまさら」と悲痛を浮かべます。伯爵夫人は「あのとき、あなたではなくて、独立のために命を捨てる同志たちに会って、ようやく決心できたのに」と泣きくずれます。しかし、恋しい気持ちを抑え切れませんでした。伯爵夫人の恋心は、後戻りができない領域に踏み込んでしまいます。伯爵夫人は、恋心の虜となってしまいました。

 「夏の嵐」はクライマックスが見ごたえのある映画でした。普墺戦争(プロイセンvsオーストリア)では、イタリアはプロイセンに、バイエルンはオーストリアにつきます。イタリア軍は、クストーザの戦いでオーストリア軍に大敗北を喫します。しかし、7月3日に、プロイセンがサドワでオーストリアを破りました。オーストリア軍の死傷者は4万人以上にのぼります。北ヨーロッパの覇権がパプスブルク帝国からプロイセンに移りました。伯爵夫人は、オーストリア軍の占領地域で恋しい将校と再会しました。オーストリア将校は身を崩して落ちぶれていました。オーストリア将校は「物語の主人公はもうたくさんだ」と告げます。危険を冒して会いにきた伯爵夫人をののしりはじめました。オーストリア将校は、酒をあおります。辛らつな言葉を口にするようになりました。自分自身をあざ笑う心が浮かびだして、もう、どうにもなりませんでした。伯爵夫人は、ことあるごとに、「イタリア人としての義務」とか、「同志たちが命をかけて戦っている」とか、「家も名前も捨てて」などと口にします。しかし、オーストリア将校は、伯爵夫人に向かって、君は従兄を救うためには何もしていないじゃないか、それどころか、従兄を密告したのは俺だと知っていながら知らぬふりをしていたじゃないか、とはき捨てました。伯爵夫人は絶叫します。その場面の伯爵夫人を見て、人間というものは、こんなにも顔をゆがめることができるのかと思いました。伯爵夫人は、オーストリア将校の言葉の中に、何かを見たのだろうと思います。オーストリア将校は、伯爵夫人に、「君が頭に描く僕ではなく、本当の僕を見てくれ。君が僕について考えたことは夢だし創作だ。本当の僕ではない」と告げていました。みちまろは、この世で一番恐ろしいものは、「魔法の鏡」ではないかと思います。「魔法の鏡」をのぞきこんでしまった者は、自分の本当の姿を見てしまいます。

 「夏の嵐」は、幻を夢見て、幻を創りだし、幻に向かってかけていった伯爵夫人の物語だと思いました。


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