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映画「ベニスに死す」ルキノ・ヴィスコンティのあらすじと感想

2007年4月15日 竹内みちまろ 参照回数:

監督:ルキノ・ヴィスコンティ(1971年/イタリア/フランス)
主演:ダーク・ボガード、ビョルン・アンドレセン、シルヴァーナ・マンガーノ

 「ベニスに死す」の時代設定は1910年代です。ミュンヘンから高名な作曲家の男がベニスを訪れました。男は汽船のデッキで哀愁に包まれています。遠くにベニスの風景が見えてきます。水上に浮かぶ中世の町のように見えました。男は本に目を戻しますが、次の瞬間には、首をふってぱたんと閉じてしまいました。男は特に目的があってベニスに来たわけではないようでした。静養のためというよりは、何かを忘れ、何かから逃れるためにベニスに向かったように思えました。男はホテルのロビーにいた妖しく気品のある美少年に心を奪われました。

 「ベニスに死す」では、回想場面を利用して男の物語が語られます。男が友人から詰め寄られる場面がありました。男は「美と純粋さの創造は精神的な行為だ」と言います。友人は「いや違う、美は感覚だけに属するものだ」と答えます。男は「感覚への完全な優位を保つことによってのみ、真の英知に到達できる。さらに真理と人間的尊厳へも」と反論します。友人は「英知? 人間的尊厳? それがなんになる」と一蹴しました。男は「芸術家はバランスと力の象徴でなくてはいかん」とつぶやきます。友人は男に詰め寄ります。

「恥ではない恐怖だ。君に恥辱感などない。感情がないからだ。人間嫌いの逃避者であり、傍観者だ。他人と接することを恐れている。いじけた道徳観が完ぺきな作曲を妨げている。小さな過失も忌み嫌う」

「私は汚れた」

「そうだ。官能に打ち負かされ、本当の汚れに身をさらせ。それが芸術家の喜びだ。健康など味気ないものだ。特に魂の健康はね」

「バランスを保ちたい」

「芸術は個人の道徳と無関係だ、さもなければ君は最高の芸術家だ。ところで、君の芸術の根底には何がある? 平凡さだ」

 男はベニスのいたるところで友人の言葉を思い起こします。

 「ベニスに死す」では印象に残っている場面があります。男はいったんはミュンヘンに帰ることにしました。汽車の切符を買います。男の荷物が別の場所に送られてしまうというアクシデントがありました。誤送を告げられた男は逆上します。今すぐここに持って来いと激昂します。荷物が届くまではベニスを離れないとどなります。観光で生計をたてているベニスの人々はみんな申し訳なさそうな顔をして「それがよろしいかと思います」と厳粛に答えます。男は苦笑しながらも、どこか、うれしそうな顔をしていました。ベニスにとどまることにしてもう一度ホテルに向かうときの男は、最初にベニスに来たときとは別人の顔をしています。小さな過失も忌み嫌い完ぺきさを追い求めてきた男は、アクシデントを楽しんでいるようにも見えました。男はホテルの部屋に帰ります。窓から海岸を見渡します。砂浜に美少年がいました。

 砂浜に出た男は濃紺にドットのネクタイをしていました。男のうかれた心を表しているように見えました。男は用意させた椅子に深く腰掛けて浜辺の人々を楽しそうな顔をして眺めています。海から美少年が走ってきました。母親に貝殻をプレゼントします。美少年はタオルをガウンのように羽織ります。男は深くもたれていたソファーから立ち上がります。テーブルにつきました。カバンから紙を取り出します。紙がつっかかってなかなか出てきませんでした。男はいらだたしそうに紙をテーブルに広げます。ペンのふたをはずします。一心不乱になにかを書きはじめました。タオルに体を包んだ美少年が男の前を通り過ぎます。男は美少年を見つめます。美少年が振り返ります。2人は見つめあいました。男は何を書いていたのだろうと思いました。手紙、評論文、あるいは、音楽かもしれないと思いました。絶対の厳しさを自分にかして、感覚を封じ込めて、形式の完全性を追い求めてきた男は、美少年を見つめながら、うまれてはじめて、官能に身を沈めたのかもしれないと思いました。「ベニスに死す」ではこの場面でだけアリアが流れていました。

 「ベニスに死す」はベニスの町が疫病に襲われることでクライマックスに向かいます。男は疫病の事実を知ってもなおベニスから離れようとしませんでした。男は人気がなくなった砂浜に出ます。すでに疫病におかされていたのでしょうか。足元がふらついています。管理人の肩をかりて椅子にたどり着きます。美少年が浜辺を走っていきました。ひざまで海につかった美少年は太陽を浴びて輝いています。ギリシャ彫刻のアポロンのようにも見えました。男ははるか遠くにいる美少年を抱くようにして息絶えました。


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