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映画「地獄に堕ちた勇者ども」ルキノ・ヴィスコンティのあらすじと感想

2007年5月23日 竹内みちまろ 参照回数:

 「地獄に堕ちた勇者ども」という映画をご紹介します。(監督:ルキノ・ヴィスコンティ、1969年/イタリア/西ドイツ/スイス、主演:ダーク・ボガード、イングリッド・チューリン、ヘルムート・バーガー、ウンベルト・オルシーニ、シャーロット・ランプリング、ルネ・コルデホフ、ヘルムート・グリーム、ルノー・ヴェルレー、フロリンダ・ボルカン、アルブレヒト・シェーンハルス)

 「地獄に堕ちた勇者ども」の時代設定は1930年代のドイツです。第1次世界大戦に破れたドイツは荒廃しました。不況とインフレにあえぎマルクは紙きれになります。ドイツはやり場のない屈辱感と、はけ口をみつけられない絶望感に満ちていました。ドイツでは1930年に「嘆きの天使」が公開されて大ヒットします。「嘆きの天使」では、場末の歌姫を演じたマレーネ・ディートリッヒが、男たちを見下ろして「私が欲しいのは本当の男」と居丈高にポーズをとっていました。ドイツ社会は、古き過去との決別と、栄光に満ちた輝かしい未来の到来を渇望していたのかもしれません。1933年に、国会議事堂炎上事件が起きます。共産党員のしわざと発表されましたが陰謀のようでした。事件の翌日に、かねてから準備されていた反ナチ派の一斉逮捕がはじまります。翌年には、ヒトラーと密約を結んだ国防軍が突撃隊を殲滅しました。大衆は、ヒトラーに希望を見たのかもしれません。ヒトラーは、政治と軍を掌握していきます。マレーネ・ディートリッヒは「嘆きの天使」の成功を見届けずにアメリカに渡りました。この時代、多くの知識人たちが祖国ドイツを捨てて国外に逃れたようです。「地獄に堕ちた勇者ども」では、焚書の場面がありました。教授が学生たちに「ハインリッヒ&トーマス・マン、アンドレ・ジイド、ヘレン・ケラー、……」と焼きだす本の著者の名前を次々に読み上げていきます。大量の著作物が火にかけられます。煙の向こうでは鍵十字の旗が振られていました。

 「地獄に堕ちた勇者ども」はドイツで鉄鋼会社を所有する一族の跡目争いがメインストーリーになっていました。「地獄に堕ちた勇者ども」は一族の家長である男爵の誕生日を祝うパーティーの場面からはじまります。男爵は、慎重で思慮深い人物のようです。大戦のときもその後の混乱のときも会社と一族を守り続けてきたことが語られました。食事の場面でした。男爵が机を静かにたたきます。みなぴたりと動きを止めました。男爵は「かねてから言おうと思っていたことを話す」と切り出しました。私は一度も「あの紳士」に協力したことはなかったが、これからは、現政権に近い人物が私の側近に必要になるだろうと言います。ナチを公然と批判していた男が「いつでも辞表を出してやる」と席を立ちました。男爵は「しかたがないのだ」となだめます。席を立った男は副社長で男爵の娘婿のようでした。男は「ナチは我々が創ったのだ」と悲痛を混めて嘆いていました。パーティーには親衛隊の幹部である大佐もいました。男爵とどういう関係にあるのかはわかりませんが一族の者というよりは客人のように見えました。大佐が席を立った男の言動に目を光らせていました。男は「もう手遅れだ」と言い残して国外に逃げていきました。

 「地獄に堕ちた勇者ども」では印象に残った場面があります。ドイツは敗戦国から生まれ変わろうともがいていました。富国強兵がドイツ建て直しの急務となっていた時代です。鉄鋼会社を所有して産業界に権勢をふるう一族の跡目争いは政権の行方に大きな影響を及ぼします。跡目争いは、陰謀と策略がはりめぐらされた血なまぐさいものとなりました。ギュンターという青年がいました。大学生で、誕生パーティーではバッハの無伴奏チェロ組曲を弾いていました。教授からは「男爵」と呼ばれています。家長の男爵の甥にあたる若者かもしれません。ギュンターの父親は、跡目争いのなかで殺されてしまいました。ギュンターの父親を殺したのは、新しく社長に就任した男爵の長女の娘婿である男でした。親衛隊の大佐がそのことをギュンターに告げます。ギュンターは「殺してやる」とつぶやきます。親衛隊の大佐の瞳が輝きました。

「ギュンター、君は今夜、驚くべき何かを身につけたのだ。父の冷酷さ、フリードリッヒの野心、マルティンの非情さ、だが君にはそれ以上のものがある」

 親衛隊の大佐は恍惚に満ちた表情で続けます。

「憎悪だ。君には、憎悪があるのだ。若く純粋で絶対な憎悪だ。だが、用心したまえ。貴重な怒りのエネルギーを私怨には使うな。浪費だ。フリードリッヒを殺すなどくだらん。青蛇にもできる。来たまえギュンター。教えよう、その力が最上に生かせる方法を」

 ギュンターは、大佐といっしょに部屋を出て行きました。

 「地獄に堕ちた勇者ども」は、誕生日を祝ってもらった男爵の孫であるマルティンが鉄鋼会社の権力を手にした場面で終わります。「地獄に堕ちた勇者ども」の主人公でもあるマルティンの物語は、マルティンのセリフをとおして語られます。母親に愛されずに育ったマルティンは、いつのまにか、母親を憎むようになっていました。母親への憎悪がマルティンの心のなかにエネルギーを生み出していました。「地獄に堕ちた勇者ども」は、現実に妥協した老男爵、野望に生きるフリードリッヒ、理想に価値を置くヘルベルト、愛に生きる母親、それらはみな破滅して、憎悪にかられたマルティンが頂点にのぼりつめる物語です。「地獄に堕ちた勇者ども」ではギュンターの物語はほとんど語られませんでした。しかし、親衛隊の大佐は、母親への復讐をやり遂げたマルティンよりも、どうすることもできない怒りだけを心に刻まれたギュンターのなかに、輝きを見出したようです。「地獄に堕ちた勇者ども」を見終わって、人々のやり場のない怒りが渦となってもの凄いエネルギーを生み出していったドイツの歴史を感じました。


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