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映画「白夜」ルキノ・ヴィスコンティのあらすじと感想

2007年4月22日 竹内みちまろ 参照回数:

監督:ルキノ・ヴィスコンティ(1957年/イタリア)
主演:マルチェロ・マストロヤンニ、マリア・シェル、ジャン・マレー、クララ・カラマーイ、ダーク・サンダース

 「白夜」は、はじめて見たときも、この原稿を書くために見返したときも、心がとろけてしまった映画でした。白夜とは、沈んだ太陽が水平線のすぐ下にあるために、空がうすぼんやりとしている状態のことです。北欧では真夏には太陽が沈みません。一日じゅうがお昼のように明るいです。緯度が下がったり、夏至から遠ざかると、白夜という現象が発生するようです。北緯の高いサンクト・ペテルブルグなどでも見られるのかもしれません。みちまろは北欧を放浪したことがあります。夜行船でヘルシンキからストックホルムに渡ったり、夜行列車でラップランドを北上したりしました。真夜中に目を覚ますと、窓の外には、おとぎ話に出てくるような幻想的な景色が広がっていました。

 「白夜」は、うすぼんやりとした夜に、二人が出会う物語でした。こじんまりとした田舎町のようです。ネオンが輝く短いメインストリートが一本あるだけの、端から端まで歩いて1時間で行けてしまうような小さな町に見えました。真夜中にヒロインが橋の上で泣いています。うしろを通りかかった男が足を止めました。バイクに乗った不良たちがヒロインをからかいます。男が不良を追い払います。二人は言葉を交わすようになりました。

 ヒロインはお針子のようでした。スラヴ系の移住者のようです。祖父はじゅうたんを扱う商人で、盛況したようです。しかし、祖父が死んでからは傾きました。いまでは家でじゅうたんの修理をしているようです。ヒロインは、視力のない祖母と、修理を手伝う老婆と三人で暮らしていることを語りはじめました。男は、転勤してきて友達が一人もいないようです。もともと無口な性格なようで、上司の家族に招待されてもほとんどしゃべらなかったそうです。でも、いい人たちだったと語っていました。

 「白夜」では印象に残っている場面があります。ヒロインは、家の二階に部屋を借りていた下宿人の男を一年間ずっと待ち続けているようです。下宿人の男は、若者と言える年齢ではないようです。世の中の酸いも甘きもしゃぶり尽くしたような顔をしていました。ヒロインは一目見て恋に落ちてしまいました。下宿人の男は、ヒロインは祖母の犠牲になっていると言います。いまどきの若い娘が家に閉じ込められているのを見るに忍びないと言いました。下宿人の男はわざわざ祖母の部屋に来て、ヒロインを外に出してあげるために、一家をオペラに誘いました。しかし、下宿人の男は、わけありのようです。「今は結婚できる状態にはない」、「一年間、ここを離れなければいけない」と言います。下宿人の男は、旅立ってしまいました。ヒロインは、橋の上で知り合った男に、「あの人を待っているの」と告げます。男は、あきれてしまいました。でも、男も根がやさしいようで、ヒロインの手紙の代筆をしてあげたりします。ヒロインが文面を口頭で告げる場面がとても印象に残っています。男は、こんなはじめ方はどうだと「丸一年たちました」と言います。ヒロインは、「そうでなくて、”希望に満ちた幸福な日を送りました”」と文面を訂正します。ヒロインの夢見るような表情がとてもすてきでした。一年の間、行方も知らず、帰るあてのない下宿人の男を待ち続けてきた日々を愛しそうに回想しています。別の場面では、ヒロインは「一年間、彼を愛し続けたわ」と夢がかなった少女のような顔をしていました。

 「白夜」は、ヒロインや男の物語がセリフを通して垣間見えたりもするのですが、難しいことを考えずに、うすぼんやりとした数日間の夜に起こった恋物語をたっぷりと堪能する映画だと思いました。二人がバーに入る場面がありました。バーでは若者たちが今風に踊っています。二人ははじっこの席に座っていました。ネクタイをしめた男と、帽子で髪の毛を隠すヒロインには、ちょっと場違いのような気もします。しかし、当の二人はそんなことは気にもかけていないようです。若者たちを見ているうちに、ついに、二人も踊りはじめます。若者たちが粋なところを見せて、そんな二人を、うまく踊らせてあげていました。バーに哀愁のある曲が流れはじめます。チークダンスがはじまりました。最初はためらっていたヒロインも男の首に両手をまわします。ヒロインは「私もこれで踊ったことがあると言えるわ」とうれしそうに言いました。男は「僕も幸福を味わったって言えるね」と返します。世間慣れしていない(と言うか世間というものを知らない)ヒロインと、内面世界に閉じこもることで孤独を慰めてきた男が幸せを感じる場面が白黒の映像でゆっくりと流れます。みちまろの心はとろけてしまいました。

 「白夜」は、最後の夜に雪が降ります。町がまだ寝静まっている朝方でした。運河の町には一面の銀世界が出来上がっていました。拾い上げたコートの背中には粉雪が残っています。セットだとは思うのですが、踏みしめる足音まで聞こえてきそうなくらいに、すてきな雪景色でした。「白夜」は、夜が明けて、橋の場面で終わる映画でした。映画の中で男が「僕は夢を見ていたんだ」と語る場面がありました。その言葉のとおりに、「白夜」は夢の中の出来事のような物語でした。「白夜」は、登場人物の表情やセリフをアップで捉えた映像を人間の目線の高さでつなぎ合わせるというよりは、一段高い次元にある視線から町の風景ごと恋物語にスポットライトをあてたようなカメラワークがほどこされた映画だと思いました。「白夜」は、うっとりとする幻想的な物語を描きながらも、そんな物語に向けられたどこかさめたような視線も感じる作品でした。そんな視線が結果として作品に後味の良い格調を与えているのかもしれないと思いました。


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