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映画「ストーカー」アンドレイ・タルコフスキーのあらすじと感想

竹内みちまろ 参照回数:

監督:アンドレイ・タルコフスキー、1979年/ソ連
主演:アレクサンドル・カイダノフスキー、アナトリー・ソロニーツィン、アリーサ・フレインドリフ。

 「ストーカー」はSF作品でした。映画の冒頭で、物語の設定がノーベル賞を受賞した科学者の報告という形で語られます。「隕石が落ちたのか、宇宙人が来たのか分からない。とにかく、ある地域に奇怪な現象が起きた。そこがゾーンだ。軍隊を派遣したら全滅してしまった。……」と語られます。亜空間のような地域が発生して人間の力ではどうにもならないようです。ゾーンが封鎖されたことが語られました。

 「ストーカー」は、3人の男がゾーンと呼ばれる地域に侵入する物語です。ゾーンに侵入して、ゾーンの中を旅する姿が語られます。男たちは、「中に入れば望みがかなう」と言われる部屋の入り口にたどり着きます。「ストーカー」というのは、「望みがかなう部屋」への「案内人」という意味で使われていました。ゾーンの中にある「望みがかなう部屋」の噂を聞きつけたシャバの人間たちが闇で「ストーカー」に接触するようです。ゾーンへ侵入するには封鎖された入り口を強行突破して、警備隊の銃撃をかいくぐります。ストーカーに案内を依頼した2人の男のうちの一人は、作家でした。美人の女性をはべらせて「現実世界はゆううつだ。中世はまだよかった。家には霊が住み、教会には神がいた」などとくだをまきます。ストーカーもストーカーに案内を依頼する人間たちも、いずれにせよ、カタギの人間たちではないようです。

 ストーカーである男はゾーンには何度も来たことがあるようです。2人の男は、はじめてのようでした。ゾーンに入ってから草原が映されました。焼けただれた軍用車両が映ります。戦車は、砲身をむなしく空に向けたまま丸こげになっています。ゾーンは恐ろしい場所のようでした。ゾーンはそれ自体が意志を持った生命体なのかもしれません。

 「ストーカー」で語られるのは、ゾーンの謎というよりは、ゾーンに侵入した3人の男たちの物語でした。ゾーンを旅する3人は、ときに仲間割れをしながら、「望みがかなう部屋」へ向けて進みます。「ストーカー」は、ノーベル賞科学者の語りが終わったあとに、ストーカーである男の部屋の様子が映されます。列車が家の真上でも通るのでしょうか、家が今にも壊れてしまいそうに震動します。ストーカーである男は、妻と子どもを起こさないようにベッドから降ります。一人で台所に入ります。様子をかぎつけた妻が「時計を返して。また行っちゃうの?」と男に詰め寄ります。「家族のこと考えて」、「職に就くって約束したじゃない」、「あの子はあなたになつく暇もないわ」と叫びます。妻は「今度つかまったら最低10年よ。ゾーンも何もない。私だって生きちゃいない」と泣き崩れます。男は「俺にはどこだって牢獄だ」と言い捨てて、行ってしまいました。ゾーンに入ってから、ストーカーである男は、案内をする2人にゾーンについて語る場面がありました。ゾーンは、不幸な人間だけが入ることを許される場所とのことでした。

 「ストーカー」では、案内を頼んだ2人の男の物語も語られます。作家の男は、売れっ子のようですが、「書くことなんて大嫌いだ」とはき捨てます。現実世界では、それでも、書くことを課せられているようです。もうひとりの男は自分で「教授」と名乗っていました。何か人を寄せ付けない雰囲気があります。集団の中にいても少し離れた場所で黙って様子を観察しながら、宝箱を見つけたとたんに、みんなを押しのけて自分ひとりで中身を見ようとするタイプのように思えました。この男は多くを語りませんが、「望みがかなう部屋」の入り口についたとたんに、友だちといっしょに作ったという20キロトンの爆弾をリックサックから取り出して信管をつけはじめます。どうやら、ゾーンの謎を把握している権力の中枢に近い場所にある研究所から抜けだしてきたようでした。

 ゾーンの中に、「肉びき通路」という場所がありました。ゾーンが認めない人間を食い殺してしまう通路のようです。肉びき通路をくぐり抜けたあとに、ストーカーである男が、ここで食い殺されたストーカー仲間のことを話しはじめました。ストーカー仲間は心優しき詩人だったようです。ストーカーの男は、彼の詩の朗読をはじめます。心優しき詩人の詩は「幸せというだけではさみしい」と悲しくうたっていました。詩人は心で何を望んでいたのでしょうか。人から認められたい気持ち、自分を代弁してくれる詩、自分をなぐさめる(だけの)作品、「幸せというだけではさみしい」とうたってしまうところに、十分な不幸を感じました。しかし、ゾーンはそんな詩人を許さなかったようです。

 「ストーカー」のクライマックスは、「望みがかなう部屋」の前にたどり着いた3人が激しい言葉でやりあう場面でした。作家の男は途中の部屋で「おもしろいものがあったぞ」と言いました。作家が手に取ったのは、茨で作られた冠でした。作家は、茨の冠を頭にのせて「そうか、これか。わかったぞ」と言って何やら納得していました。ストーカーは、部屋の入り口の前で、この向こうが「望みがかなう部屋」だと2人に告げます。作家は、「お前らストーカーは部屋には入らないそうだな」と蔑むように言います。ストーカーは、俺は現実世界では何の役にも立たない人間だけどここは居心地がいいと泣き叫びます。ゾーンなら、不幸な人間たちを「望みがかなう部屋」へ案内することで役に立てると言います。

 作家は、「わかったぞ。ここでは、心の中でほんとうに願っていることが実現するんだ。ヤマアラシが願っていたことは、弟を生き返らせることじゃなくて、金だったんだ。ヤマアラシはそれがわかったから自殺したんだ」と言います。「望みがかなう部屋」は、甘っちょろい場所ではないようでした。「本当の自分を映し出してしまう魔法の鏡」のような、恐ろしい場所に思えました。作家は、「俺は入らないぞ。本当の自分の姿なんて見たくない」と叫びました。茨の冠を投げつけます。教授も「わからなくなった」と言って爆弾を投げ捨てました。ストーカーはなす術もなく、泣くだけでした。「ストーカー」では、「望みがかなう部屋」の入り口は映りません。3人が入り口の前で座り込んで呆然とする姿が横から映されます。作家は、「望みがかなう部屋」を理解しようとしたように思えました。教授は、「望みがかなう部屋」を裁こうとしたように思えました。ストーカーは、誰も「望みがかなう部屋」のことなんて信じちゃいないんだとなげきながらも、自分では「望みがかなう部屋」には入ろうとしません。「信じる」という行為に固執しながらも境界線を越えることを恐れているようにも思えました。3人と「望みがかなう部屋」の間には、入り口をふさぐ大きな一枚岩が立ちはだかっているように思えました。3人はその前でただもうどうすることもできなくなってひれ伏していました。

 「ストーカー」は、2部構成でした。3時間の長い作品でした。「ストーカー」は、けっきょく「望みがかなう部屋」には入らなかった3人が現実世界に帰ってきた場面で終わります。ストーカーは家にたどりついて力尽きました。妻はそんなストーカーをやさしくいたわります。「ストーカーと結婚しても幸せになんてなれない、ろくな子どもが生まれないと言われたけど、そのとおりだった」と語ります。でも、後悔はしていないようでした。

 「ストーカー」は、ラスト・シーンが圧倒的な作品でした。それまでずっと語られてきた物語は、正直に言うと、何がなんだかわからない話でした。核心に迫る物語が語られそうになると、3人の男たちはきまって口を閉じてしまいます。抑えの効いたストーリーは、疑問を積み重ねるだけでした。でも、わずか数分のラスト・シーンを見て、「ストーカー」という作品は、この場面を描くためだけに作られたのかもしれないと思いました。「ストーカー」のラスト・シーンでは、ストーカーの子どもの物語を暗示させる一瞬の場面が映ります。子どもはスカーフを頭にまいています。毅然とした顔をして難しそうな本を読んでいます。子ども向けの本というよりは、父親であるストーカーの本棚からとってきた真理を探求する者が手に取るような本に思えました。どこかロシア正教の聖像画に登場する聖母の胸に抱かれている子どものような雰囲気があります。理解しようとする心、裁こうとする心、恐れる心、そして、信じたり、信じようとしたりする心、そんな心は、現実世界に染まってしまった大人たちの人間的な悲しい行為でしかないのかもしれないと思いました。信じているのか否かを問題にしている時点で、すでに、境界線は越えられないのかもしれません。ストーカーの子どもは、そんな人間的な行為を超越していました。さわっただけで視力を持たない人に光を与えて、足を悪くした人を立ち上がらせるような存在に思えました。大人になれば神殿を3日で建て直すことすらできそうな雰囲気があります。ストーカーの子どもは、わざわざ「望みがかなう部屋」に行くまでもなく、すでに、境界線を越えていると思いました。


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