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天と地の守り人/上橋菜穂子のあらすじと読書感想文

2015年12月31日 竹内みちまろ 参照回数:

天と地の守り人(第1部、2部、3部)のあらすじ


 新ヨゴ皇国の皇太子チャグムは、王族に生まれた出生を嘆き、皇太子にはなりたいくないとこぼしていたが、隣国サンガル王国の罠で捕虜となり、南のタルシュ帝国に送られた。タルシュ帝国の圧倒的軍事力を見せつけられたチャグムは、タルシュ帝国で王位を争うラウル王子から、新ヨゴ皇国の帝になりタルシュ帝国の従属国となるように迫られ、船で新ヨゴ皇国に送られた。

 チャグムは、200年以上戦争をしたことがない新ヨゴ皇国をタルシュ帝国から守る道は、北の大陸の新ヨゴ皇国とロタ王国とカンバル国が軍事同盟を結んで、一丸となってタルシュ帝国に対抗するしかないと考えた。ロタ王に会い同盟を承諾させるには、船から逃げ出して、泳いでロタ王国までたどり着くしか道はないと考え、船にボヤを起こしたすきに、海に飛び込んだ。

 北の大陸と南の大陸の間に広がるヤルタ―シ海に浮かぶ島に泳ぎ着いたチャグムは、海の民の助けを借りて、船でロタ王国南部の港町ツーラムに上陸し、大領主スーアンの館を訪れた。ロタ王はタルシュ帝国を警戒していたが、スーアンは2年前からタルシュ帝国と通じており、タルシュ帝国を後ろ盾にし、ロタ王国南部の勢力を結集し、ロタ王国の支配を目論んでいた。

 チャグムは、スーアンの館の廊下で、カンバル国のカーム・ムサとすれ違った。カーム・ムサは、チャグムがかつて精霊の守り人となった時に助けられた女用心棒バルサの育ての親ジグロの兄であるカグロの長男で、「王の槍」と呼ばれるカンバル国の重臣の1人だった。チャグムは、カーム・ムサの名前を知らなかったが、ロタ王国の新王即位ノ儀の際に、カーム・ムサを見かけており顔は覚えていた。チャグムは、カーム・ムサがカンバルの武人の姿ではなく、商人の恰好をしていたことを不審に思った。

 チャグムは、すきをついてスーアンの館から逃げ出し、チャグムの動きを密かに見守っていたロタ王国の密偵「カシャル(猟犬)」たちに助けられた。病気を患っているロタ国王ヨーサムに代わってロタ王を代行しているヨーサムの弟・イーハン王子の居城があるロタ北部のジタンに向かった。

 タルシュ帝国では、皇帝の次男であるラウル王子が、チャグムを捕虜にした功績などが認められ、北の大陸に侵攻する権利を持っていた。しかし、ロタ王国南部の領主たちとカンバル国に調略を仕掛けていたのは、ラウル王子の兄で、北の大陸侵攻でラウル王子に後れを取ったハザール王子だった。タルシュ帝国の皇帝は病床にあり、2人の王子は次の皇帝に就くために争っていた。

 ラウル王子が圧倒的軍事力で北の大陸を制覇しその功績を認められて皇帝に選ばれることを恐れたハザール王子は、ロタ王国南部の領主たちとカンバル国を動かして、ロタ王とイーハン王子を支持するロタ北部に軍事侵攻し、ロタ王国を手に入れる策略を勧めていた。

 しかし、ロタ南部の領主たちとカンバル国は、北の大陸での軍の指揮権を持つのがラウル王子であり、ハザール王子が北の大陸に軍を送ることができないことを知らなかった。ハザール王子側の密偵たちは、北の大陸への侵攻の権利がハザール王子にはないことが、タルシュ帝国の内情を知るチャグムの口からロタ南部の大領主たちとカンバル国に伝わることを恐れ、チャグムを暗殺するための刺客を放った。

 チャグムは、ジタンに到着し、イーハン王子に新ヨゴ皇国とロタ王国の同盟を求めた。しかし、イーハン王子は、ロタ王国が新ヨゴ皇国と同盟を結ぶことを承諾しなかった。イーハン王子は南部の領主たちの反乱を恐れており、内戦の危機にある最中に援軍を新ヨゴ皇国に送る余裕がないと考えた。同時に、ロタ王国と新ヨゴ皇国の同盟を実現するためには、皇太子であるチャグムが父である帝を殺して帝になる必要があるが、チャグムには帝を殺すことができないと考えた。新ヨゴ皇国の帝は新ヨゴ皇国を天ノ神に守られた国と考え、他国に援軍要請をせず、タルシュからの最後通牒が届くとすべての国境を即座に閉じて鎖国をしていた。また、新ヨゴ皇国では、チャグムは死んだ者として扱われていた。

 イーハン王子は、チャグムから新ヨゴ皇国とカンバル国の同盟が実現したらロタ王国も同盟を考えるかと尋ねられた際、カンバル王もチャグムの立場の危うさを見抜くだろうと考え、うなずかなかった。チャグムは、ロタ王国との同盟をあきらめ、新ヨゴ皇国とカンバル国の同盟を実現するために、カンバル国へ向かった。

 チャグムに遅れて、バルサが、イーハンのもとに面会に現れた。イーハン王子は、バルサから、カンバル王がロタ王国との同盟を結ぶといったら受けるかと尋ねられ、「受ける」と答えた。

 バルサは、カンバル国へ向かう途中で、チャグムに追いついた。さらに、カシャル(猟犬)のシハナが追い付き、イーハン王子の親書をチャグムに渡した。新書には、ロタ王国がカンバル国との同盟を受ける意思があることと、チャグム皇太子がロタ王国とカンバル国の同盟を仲立ちをすることに感謝することをが記されていた。

 チャグムとバルサは、カグロの館に出向いたが、カーム・ムサによって身柄を拘束された。カーム・ムサからすでにカンバル王がタルシュ帝国側に付くことに決めていることを告げられるが、チャグムは、タルシュ帝国の枝国(しこく=従属国)になれば自治などありえず、国民が他国を攻める先兵にされるだけだといい返した。そして、カンバル王とロタ南部の領主たちが後ろ盾として期待しているハザール王子は北の大陸に軍を派兵できないことを告げた。しかし、そのことを告げた瞬間、ハザール王子側の刺客が、チャグムとバルサ、そしてカーム・ムサを暗殺するために襲って来た。

 カーム・ムサは一命を取り留め、カシャル(猟犬)の助けもありチャグムとバルサは逃げ出すことに成功した。チャグムは、カシャル(猟犬)から、タルシュ帝国の軍船150隻が新ヨゴ皇国とサンガル王国の国境線付近に現れ、新ヨゴ皇国海軍60隻に迎え討たれ半数以上を失うも、新ヨゴ皇国の船団が全滅したことと、2万のタルシュ帝国軍が上陸に成功したこと、サンガル半島に駐留していた騎馬兵団と歩兵団2万と合わせて新ヨゴ皇国へ陸路で侵攻する準備を整え始めていることを知らされた。

 チャグムは「新ヨゴへ帰る」と口にしたが、カシャル(猟犬)から、カーム・ムサがチャグムとバルサと探していることを告げられた。チャグムは、カーム・ムサもカンバル王もハザール王子が北の大陸での軍の指揮権を持たないことを知らなかったことに気が付いた。一方、カーム・ムサも、自分が集めてきた情報が不十分だったことをカンバル王に告白した。帝以外には誰にも膝を屈しない新ヨゴ皇国の皇太子であるチャグムが、カンバル王に膝を屈して、ロタ王国とカンバル国の同盟を願い、カンバル王は同盟を承諾した。

 カンバル王は、全軍の半数以上となる1万5000の兵団をロタ王国のイーハン王子のもとに送ることを決めた。チャグムは、遠征軍の指揮を執る「王の槍」のハーグとカームと共に、イーハン王子の居城があるジタンに到着した。

 新ヨゴ皇国では、タルシュ帝国軍の総司令官シュバル将軍に率いられた3万のタルシュ帝国軍が新ヨゴ皇国南部のタラノ平野に進軍した。2万5000の新ヨゴ皇国軍主力を壊滅させた。タルシュ帝国側の死者、負傷者は8000で、新ヨゴ皇国軍側の死者、負傷者は、2万3000。

 一方で、イーハン王子は、9万のロタ王国軍を3つに分け、2万5000を自国の守備兵団とし、海軍を含めた5万を「サンガル攻略兵団」とし、タルシュ軍の補給線を立つ作戦を開始。1万5000の兵を「新ヨゴ皇国守備兵団」とし、チャグムに与えた。

 タラノ平野で快勝したシュバル将軍は、長男ラシュバンに2万の兵を与え、西回りで、新ヨゴ皇国の都・光扇京を攻めるよう命令した。ラシュバンは、光扇京の西に位置するヤズノ砦に攻撃を開始。ヤズノ砦の指揮官のラクサム少将が全滅を覚悟したとき、チャグムが率いるロタ・カンバル連合軍がタルシュ帝国軍に襲い掛かった。タルシュ帝国軍は1万5000の死者、負傷者を出し、5000が敗走した。

 チャグムはロタ・カンバル連合軍を率いて光扇京に帰還した。その足ですぐに謁見ノ間に向かった。父である帝は「よくもどった」というも、「その姿はいったい何事だ。それが、父の前にひかえる姿か」と眉をひそめた。チャグムはひるむことなく、「清らかな皇子を装うつもりなど、毛頭ありません」などと言い返した。

 チャグムは、ナユグに春が来たために青霧山脈の万年雪が解け、青弓川が氾濫し、青弓川の三角地帯にある光扇京が洪水に襲われることを告げた。帝に、皇族を含めてすべての人を直ちに高台に避難させる命令を出すように迫った。

 チャグムは、父である帝の目に、哀しみの色が浮かんだのを見た。チャグムは、父がこの国に天子として生まれたことを痛感した。父は、天子が穢れない生をまっとうすることで新ヨゴ皇国がすこやかに保たれるのだと教えられ、それを信じて生きてきたことを悟った。

 帝の目から哀しみが消え、鋼のような光が浮かんだ。帝は「チャグムよ……」と声を掛け、「そなたは、そなたの道を行くがいい」と告げた。「大天災ノ告」を出して民を非難させ、王族を「山ノ離宮」に移してもよいと続けた。しかし、帝は、自分は光扇京に残ると付け加えた。

 帝は、チャグムに、「そなたが、なにを信じているのかは、聞かぬ」、「わたしと、そなた。……天ノ神は、いずれか、正しき者に、光をもたらすであろう」と告げた。

 帝の言葉を聞いたチャグムは、「これしか道はないのだ」と悟った。喉の奥から声を絞り出すようにして、「……父上、おさらば!」と叫んだ。

 タラノ平野にいたシュバル将軍は、サンガル半島から第二軍団が到着すると、補給部隊だけを残し、1万の兵を率いて、東から光扇京に向かった。

 光扇京では、シュバル将軍に率いられたタルシュ帝国軍と、帝から全軍の指揮権を渡されていたチャグムの軍が交戦したが、戦闘の最中に、青弓川が氾濫して濁流が襲って来た。新ヨゴ皇国軍は予定通りみやかに戦場から撤退し、一方で弓矢兵が高台から攻撃を加え、濁流から逃げ遅れたタルシュ帝国軍を壊滅させた。光扇京に残った帝は、天子が統治した国と共に消え去った。

 チャグムは、光扇京の南にある平野に、新たな都をつくることに決めた。タルシュ帝国から停戦の申し出があり、和睦の交渉が始まった。

天と地の守り人(第1部、2部、3部)の読書感想文(ネタバレ)


 『天と地の守り人』は、この世と重なり合って存在するナユグという世界を感じることができる皇太子チャグムの数奇な運命を描いた物語でした。呪術師のトロガイも大活躍し民俗的な視点から読むこともできます。ヒーローものの戦国物語として読んでも面白いです。

 ただ、読み終えて、『天と地の守り人』のクライマックスは、チャグムと父の対決だと思いました。

 王である父に疎まれた皇太子の物語は、大河ファンタジー小説では『アルスラーン戦記』(田中芳樹)があります。史実に基づいた物語でも無数に存在します。それぞれに、父と息子の対決が描かれますが、『天と地の守り人』の対決の場面は鳥肌が立ちました。

 帝である父は、自身と新ヨゴ皇国の神聖性を疑わず、国を亡ぼす選択を続けます。そんな父は、チャグムが新ヨゴ皇国のために、帝である自身と国の在り方、そして新ヨゴ皇国が築き、守ってきた歴史を根底から覆すことを理解しました。

 しかし、それでも、父は、チャグムを受け入れることをせず、自分が信じる生き方に殉じる選択をしました。チャグムは、父が心変わりをしてくれることを願っていたのかもしれませんが、父の姿を見て、「これしか道はないのだ」と悟りました。

 「……父上、おさらば!」と叫んだチャグムは、父を否定するわけでも、父に絶望するわけでもなく、ただ、父と別れたような気がしました。たとえ父と息子であっても、信じるものが違ったら、どんなに言葉を重ねても和解することはできず、かといって対決しても、もう一方の信じるものまでを壊すことができないのだなと思いました。

 父と別れたチャグムは、ある意味で、父を捨てたのだと思いました。もちろん、息子として父を思い、父を心配する気持ちは持ち続けていますが、天ノ神を信じ、天ノ神の子であるおのれを信じた父が最期の瞬間に何を思ったのだろうと思いを巡らずチャグムは、どこか、父を憐れんでいるようにも思えました。

 その場面を読んで、チャグムは、ようやく父の呪縛から離れて、自分の力で、自分の人生を歩き始めることができたのかもしれないと思いました。

 息子が父を乗り越える物語は無数にあると思いますが、『天と地の守り人』は、チャグムと帝を真正面から対決させて、2人だけの物語として完結させたところが、作品の質をさらに上げているのだと思いました。


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