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大いなる遺産/ディケンズのあらすじと読書感想文

2004年8月9日 竹内みちまろ 参照回数:


 「大いなる遺産」(ディケンズ/山本政喜翻訳)は、姉夫婦に育てられた孤児の人生の旅です。主人公の少年は貧しい生活を送っていました。が、謎の贈与者が現れて、莫大な財産を遺されます。孤児は、ロンドンに送られて紳士として教育を受けました。

 「大いなる遺産」は、少年だった主人公が沼地で脱獄した囚人を助ける場面からはじまります。「大いなる遺産」は、少年が中年にさしかかるところまでの長いスパンをカヴァーします。物語の途中で、定期的に囚人を助ける冒頭の場面へと回帰します。最初に印象的な場面を提示して、たびたびその場面に戻ることにより読者に安心感を与えています。長い物語が単調になるのをふせぎ、囚人の謎がじょじょに明かされていくという構造が読者を飽きさせません。

 「大いなる遺産」では、以前にご紹介した「二都物語」と同様に、多数の印象的なキャラクターが登場します。少年だった主人公は2人の少女に出会います。ひとりは、少年と同じように貧しい家の娘で、少年の姉が重症を負ったあとに、少年の家にやって来て一家の世話をします。誠実でやさしさがあり、勉強熱心で必死に文字を覚えようとします。もう一人の少女は、少年が手間賃をもらうために通っていた富豪の家の養女でした。わがままで、階級意識が高く、労働者である少年を見下していじわるをします。しかし、少年は、貧しい家の少女ではなくて、養女の背筋を伸ばした冷酷な美しさに惹かれます。

 「大いなる遺産」は、囚人の謎が明かされたのちに、主人公が、また貧しい元の家に戻ってくる場面で終わります。そこで主人公は、人生の険しさを知ります。主人公がようやく帰るべき場所に戻ってきたと思ったその日は、幼なじみの貧しい少女の結婚式の日でした。少年は、自分の居場所はもはやここにはないことを悟ります。少女を祝福して、その場所を去ります。そして、主人公は、心の中にいつまでも消えないもうひとりの少女、風の噂で今は惨めな生活を送っていると聞いた養女をさがす旅に出ます。

 「大いなる遺産」は、ディケンズの最高傑作とも言われているようです。ディケンズの作品は、イギリス・アメリカ・カナダ・オーストラリアなど英語を話す国や地域では、もはや古典的財産として広く人々に愛されていると聞きます。「サイダーハウス・ルール」に登場する孤児院では、孤児たちに、繰り返し、この「大いなる遺産」と「ジェーン・エア」を読み聞かせていました。

 「大いなる遺産」に登場する2人の少女は、労働者階級と貴族階級の象徴として描かれていました。少年は、貧しさを嫌い、紳士や淑女たちのきらびやかな生活にどうしても憧れてしまいます。しかし、財産を手にした少年は、幸せにはなれませんでした。むしろ、人間の欲望や心の闇を垣間見てしまいます。けれど、そんな数奇な運命を送る中でも、少年は、謙虚でたくましい意志を持って自分の人生を歩み続けます。そんな主人公の姿を提示することが「大いなる遺産」のメッセージであり、ディケンズの作品が時代を超えて人々の心を捉えるゆえんだと思いました。


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