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岳物語/椎名誠のあらすじと読書感想文

2012年12月28日 竹内みちまろ 参照回数:

岳物語のあらすじ


 『岳物語』は気軽に書き始めたエッセイがまとめられた本とのこと。「岳(がく)」とは椎名誠さんの息子さんの名前で、『岳物語』には、幼稚園から小学校高学年までの岳君の姿が、父親の目線から描かれています。ほか、椎名さんの家庭や、椎名さん自身の少年のころの話もあり、「あとがき」には、『岳物語』は「私小説」と記されていました。時代はバブル前の日本。椎名さんは、文筆をしながら、仕事でシベリアや南極を駆けまわっていました。

 『岳物語』は、「きんもくせい」という小品から始まります。幼稚園生である岳君と、同じ幼稚園に通う健二郎君、そして健二郎君の一つ上の小学1年生の兄・昇君の交流、まあた、健二郎君たちの母親の「小柄で細おもての、眼鼻だちのはっきりした美人」とのふれあいが記されていました。椎名さんは、家に遊びに来た健二郎君と昇君に、特製の冷やしそばや焼きソーメンを振る舞います。子どもを預けに向かう途中、母親はいつも、椎名さんにお礼を言っていました。子どもたち3人が畑を掘り起こしてしまった「サツマイモ騒動」の際、椎名さんは、母子家庭で大変だろうからと、全額を椎名家で弁償することを申し出ます。妻から、「そうかそういえば昔からあなたはああいうタイプが好きだったもんね」と嫌味を言われてしまいました。健二郎君たちは、冬に、「いるまぐん」へ引っ越していきました。

 小学校に入るまでに事前教育というものをしないと決めていた椎名家の岳君は、ピカピカの1年生のクラスでは、ただ一人、読み書きができませんでした。しかし、椎名さんとのプロレスごっこで鍛えた体は頑丈で、けんかが強く、クラスの人気者。岳君が小学4年生の時のバレンタインデーは日曜日で、岳君はまだ寝ていましたが、3人の女の子がチョコレートを岳君へ渡しに来ます。玄関のドアを開けた椎名さんが、しどろもどろする「タンポポ」では、幼稚園からの同級生の女の子や、同じクラスの女の子、子どもたちのうわさをする両親たちの姿が微笑ましく描かれています。チョコレートを渡しに来た3人は「マキエちゃん」「川西ブー」「八津島さん」でした。岳君は、マキエちゃんが「いっとう好き」とのことでしたが、マキエちゃんにはふられてしまったようです。

 岳君は、4年生の時に、椎名さんの親友の川の冒険家・野田知佑さんが住んでいる千葉の亀山湖へ行き、釣りの魅力にはまったようです。それから、自分で釣りの本を買って、仕掛けを覚えたりしていました。『岳物語』は、椎名さんと岳君が一泊二日で釣りに行く「二日間のプレゼント」で終わります。椎名さんは、オーストラリアとニューギニアの1か月の旅から帰り、一週間後には、2か月以上のシベリアの旅へ出なければならないというタイミングでした。しかし、椎名さんは、釣りが好きな岳君のために、一週間のうち2日間を、岳君のために使いました。あいにくの天候で狙った獲物を釣り上げることはできませんでしたが、椎名さんは岳君と2日間を過ごし、厳寒のシベリアへ旅立ちました。

岳物語の読書感想文


 『岳物語』では、印象に残っている場面があります。「二日間のプレゼント」の中で、椎名さんが、旅から戻ったときの岳君の様子を紹介している場面でした。

 3年生になるまでは、椎名さんが玄関先に着いて、トランクを下ろすと、岳君が部屋から飛び出してきて、椎名さんにしがみついたり、椎名さんのお腹に坊主頭を押しつけたりしてきたとのこと。しかし、5年生のなったとき、椎名さんがスリランカから帰ると、岳君の様子が違ったようです。岳君は、トレーナーのズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、にやりと笑い、「おとう、帰ってきたか」と口にしたとのこと。

 「二日間のプレゼント」で、椎名さんは無理をして岳君と2日間の釣りの旅をしました。椎名さんには、岳君を連れて釣りの旅に出ることが、そう近くはない未来にできなくなる、あるいは、今のような子どもの岳君を連れて歩けるのは、もしかしたら今回が最後というような漠然とした思いがあったのかもしれないと思いました。

 『岳物語』は、20年以上前に出された本で、個々の原稿の中には、もしかしたら30年前に書かれたものもあるかもしれません。岳君が飛び回っていたころから時代は変わり、バブル崩壊、万年不興、超氷河期などいろいろな言葉が使われました。そして、今は、「震災後」と言われています。しかし、『岳物語』で描かれている、椎名さんと奥さんの若い2人が築き上げようとしているつつましい家庭と、そこで伸び伸びと育つ岳君の姿は、現在にも通じるものがあるし、通じてほしいと思いました。


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