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風姿花伝/花伝書のあらすじと読書感想文

2005年10月31日 竹内みちまろ 参照回数:

申楽(さるがく)


 「風姿花伝/花伝書」(世阿弥編/川瀬一馬校注・現代語訳)は、観阿弥が口述したものを、息子の世阿弥が筆記、編集した書のようです。観阿弥(1333-1384、*1333年は、後醍醐天皇が親政を開始した年です。足利尊氏が幕府を開いたのは、1336年)は、申楽(さるがく)一座の棟梁でした。申楽に芸術性を加えて、現在の能楽につなげた人物のようです。観阿弥の時代には、武家階級は田楽を愛好して、申楽は、もっぱら地方農民が楽しむものだったようです。申楽一座は、戸籍を持たない集団として、大衆の心をくすぐる卑俗でこっけいな物まねをしながら、地方を流浪していたようにみうけられました。観阿弥は、申楽の内容の充実をはかり、同時に、申楽者たちの身分の向上につとめたようです。申楽は、足利将軍が正式に鑑賞するまでに高められました。

 「風姿花伝/花伝書」は、芸の奥義を伝える書だと思いました。「秘すればこそ花になる」とあるように、一子相伝の秘伝書でした。「観世の家の大事なことで、一代には一人だけ受け伝えるというものである。たとい、一人っ子であろうとも、才能の無い者には伝えてはならぬ」と書いてありました。「芸の家というものは血統が続くのが家ではない、芸の真髄が続くのが家である」という古人の言葉も引用していました。

見られてこそ、芸


 「風姿花伝/花伝書」は七つの段落から構成されていました。七つの段落で構成されているのは、単行本にするさいに、校注・現代語訳者がそうしたようです。最初の段落では、申楽者がそれぞれの年齢ごとに気をつけるべき心得が書いてありました。17、8歳からの心得のところに、たとえ人から笑われても、それを気にしないで稽古にはげんで、心のうちでは一生涯をかけて能を捨てない決心を固めるほかにはないという内容のことが書かれていました。また、昼に行う能と夜に行う能では、観客の心をとらえる方法には違いがあることや、観客を含めた場所と融合することが能を成功させる糸口であり、見物人がおもしろいと感じるポイントであることも書かれていました。

 「風姿花伝/花伝書」には、目先を追って奇抜なことばかりをしたり、一時的な名声に捕われて目標を失うのは、もってのほかと書かれていました。このへんは、源氏物語の「雨の下の品定め」の場面で、左馬頭(さまのかみ)が言うことと同じような内容でした。(序)の中で、観阿弥は、申楽道を極めようとする者は、申楽の芸以外のことはしてはいけないといいながらも、ただし、和歌の道は芸に風情を加えるので大いにやってよろしいと言っていました。また、老人や狂人や中国人などを演じるときは、写実とは違った形で演じることがコツだとも言っていました。創作はあくまでも創作であり、現実のとおりに演じることが必ずしもいいわけではないと伝えたかったのだと感じました。

 「風姿花伝/花伝書」を読んで、観阿弥は、申楽能を、「芸術」というよりは、どちらかと言うと、「芸能」ととらえているように感じました。そして、上達の奥義としては、たとえ笑われようとも、とにもかくにも、人前で発表して、広く批判をこい、それを肥やしとして、さらに芸を磨くことしかないように思いました。

幽玄


 「風姿花伝/花伝書」のなかで、観阿弥は、どう見ても見飽きのしない役者が「強い」のであり、どう見ても美しい役者が「幽玄」であると言っていました。一時的な美しさを手に入れたり、競演で若手が名人と言われる役者を負かしてしまうこともありますが、「上手」と「まことの花」は違うと言っていました。観阿弥は、「上手な役者は目が利かない観客の気に入ることはむつかしい。逆に下手な役者は、目の利く観客には問題にされない」と言っています。しかし、道を極めた役者で、芸を発揮する技巧を兼ね備えている者であれば、目の利かない観客にも「おもしろい」と思わせることができるはずだという内容を書いていました。観阿弥は、奥義を極めた役者は、たとえ老木になっても、花だけは枯らさずに咲かせ続けると言います。「世の中は一切みな因果の関係であ」り、「因果の花をさとること、これが極意であろう」と言っていました。

 己を知り、芸を極めて、そして、それを観客に「おもしろい」と思わせるための技を身につけて、はじめて、「まことの花」を咲かせることができるのかもしれないと思いました。その極意は、言葉では説明できませんが、人間の心の根っこの部分に訴えかけるような「因果の花」を悟ることなのかもしれないと思いました。


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