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老人と海/ヘミングウェイのあらすじと読書感想文

2011年9月8日 竹内みちまろ 参照回数:

老人と海/ヘミングウェイのあらすじ


 『老人と海』(福田恆存訳)は、キューバの海辺の丸木小屋に住む老漁師サンチャゴと、全長18フィート(約5.5メートル)のカジキマグロとの3日間にわたる戦いを通して、厳しい自然と、その中で生きる人間を描いた小説です。

 不漁が84日間も続いていたサンチャゴは、朝のコーヒーと、船の上での水と、少年の差し入れだけで毎日、船を出していました。40日以前は、サンチャゴの船には少年が助手として同船していましたが、少年の両親のいいつけで、少年は別の船に乗り、漁で成果をあげていました。往年の漁師の中には不漁が続くサンチャゴを見て顔を暗くする者もいましたが、漁師仲間たちはサンチャゴを「いい慰みものにして」話し掛けます。サンチャゴはそんな連中とも愛想よく話をし、四肢がやせこけ、皮膚には褐色のしみができていましたが、目には不屈な生気をみなぎらせていました。

 サンチャゴは85日目も独りで漁に出ました。海岸線付近の仲間の船から離れた沖で、サンチャゴの仕掛けに、獲物がかかります。サンチャゴの船は、海の下にいる獲物にひかれ、海岸線が見えない沖まで来ました。ようやく海の中から姿を見せた獲物は、サンチャゴの船よりも大きなカジキマグロでした。サンチャゴは漁の途中で左手が動かなくなったりしますが、船上で釣り上げたマグロを食し、生まれて初めて見る大魚が弱るのを待ち、ついには、カジキマグロの横腹にモリを突き刺しました。仕留めた獲物は大きすぎるため船の中に引き上げることができず、舷側に横付けして縄でしばりました。

 しかし、陸へ向かう途中、サンチャゴの船は、サメに何度も襲われます。サンチャゴは棍棒やオールなどで戦いますが、四分の一を喰われ、半分を喰われたりするうちに、小さな港に辿り着いた時には、この一匹で一人の人間が一冬の間、生活できるという、巨大で良質なカジキマグロは骨だけになっていました。

 漁師たちはサンチャゴの小舟の「横にくくりつけられた異様な物体をながめ」、サンチャゴは、少年と「みんな、おれを探しに出たかい?」「ああ。沿岸警備隊と飛行機が出たよ」などと話すうちに、話し相手がいるということがどんなに楽しいことかを理解します。

 カジキマグロの骨は潮の流れにまかせて港の外へ出ようとしており、サンチャゴは、ライオンの夢を見ながら眠りに落ちていました。

老人と海/ヘミングウェイの読書感想文


 『老人と海』には、ストーリーの難しさや、人名や地名らをはじめとする固有名詞のわかりにくさはありません。初読でも、一文、一文をていねいに追いながら、情景を思い浮かべたり、登場人物に思いを馳せたりしながら読むことができます。

 同じくヘミングウェイの『誰がために鐘は鳴る』や『日はまだ昇る』などの時同様、『老人と海』でも、主人公が自分自身と対話をする場面に引き込まれました。例えば、カジキマグロが仕掛けに食いついてから迎えた夜、別の餌に反応があり、サンチャゴが大物を得るために、その仕掛けや綱をナイフで切り落として捨てる場面がありました。サンチャゴは「あの子がついていてくれたらなあ」と、一人で漁に出るようになってから始まった独り言を口にします。しかし、「なにをいうんだ、いま、お前には少年はついていない、とかれは思いなおす」。「お前にはただお前だけしかついてはいない。なんとしてでもやるんだ、さあ、いますぐ、暗かろうと暗くなかろうと、最後の綱にとりかかるにこしたことはない。それを断ち切って、控え綱をもう二本つないだほうがいい」

 メルビルの『白鯨』でも思いましたが、そのような場面を読むと、読者としては神秘や自然に立ち向かう主人公の姿にロマンを感じます。しかし、劇中の登場人物たちにはそんな俯瞰的な発想はなく、純粋に今を生きているだけです。しかしむしろそのことでかえって、人間の思想とでもいうべきものが浮き彫りにされるのかもしれません。

 また、文庫『老人と海』(ヘミングウェイ/福田恆存訳)には、翻訳者による解説的文章「『老人と海』の背景」が収録されていました。「現代アメリカ文学はどこか間がぬけているといった感じがする」と指摘する福田恆存は、その理由として、人物描写の方法の背景に過去に遡る歴史までもが彫り込まれているヨーロッパ文学に比べ、アメリカ文学には、はてしなく広がる現在という空間の中にしかうちたてられていないことを指摘していました。しかし、ヘミングウェイは、同じくフランス文学の影響下に成長したフォークナーと並び、「Aという人物が過去から累積してきた無意識の領域にさかのぼるという縦につながる時間的な方法を採用した」と紹介されていました。過去から受け継がれてきた人間の発想や遡及する思想、またそれらが無意識的に反映される生き様というものは、描こうとして描けるものではなく、結果として描かれてしまうものなのかもしれませんが、それゆえに、作品に奥行きを与えるのかもしれないと思いました。


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