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カラフル/森絵都のあらすじと読書感想文

2012年7月28日 竹内みちまろ 参照回数:


 「カラフル」は、死んでしまった中学3年生の「ぼく」が、天使のボスの気まぐれで、再挑戦のチャンスを与えられる物語です。「ぼく」の魂は3日前に服毒自殺をはかった小林真(まこと)の体に入り込み、真として生活を始めます。再挑戦の期間は約1年。その間に、前世で犯したあやまちの大きさを自覚すれば、ぶじに「ぼく」の魂は昇天し、輪廻のサイクルに戻ることができます。

 「ぼく」は、前世の記憶も、真に関する知識も何も持たないのですが、医学的に「臨終」を宣言された真の体に入り込んで、目を覚まします。驚がくする医師に、歓喜のあまり泣き叫ぶ両親、そして、すこし距離を置いて見守る兄の満を見つけます。「ぼく」は、喜んでいるこいつらもどうせ一皮むけば、と冷めた目で家族を見守ります。案の定、父は自分さえよければいいという身勝手な男で、母は先日までフラメンコの講師と不倫、兄は真の顔を見れば嫌味ばかりを言う性格のねじ曲がった男でした。

 1週間の入院を終えて「ぼく」は学校へ行きます(生徒たちには病気ということになっていました)。「ぼく」は、内にこもりがちで友だちがいない真の生活を少しずつ理解していきますが、同時にフラットな目で、真やクラスメイトを見渡して、気軽に話しかけたりもしていました。

 「ぼく」は、「もういちど見知らぬ家庭に生まれつくことや、その世界でまた一から他人との関係を築いていかなきゃならないことに対して」「思っていた以上に不安や恐怖を抱いていることに気がつ」きます。そして、真が好きだった美術室へ行くようになりました。真は絵を描くことだけは子どものころから得意でした。「ぼく」も、不思議と美術室では心が落ち着きます。真がしていたように油絵を始めると、絵を描く楽しみを知りました。そして、美術室にくれば、一つ下の学年で茶髪でぽっちゃりした桑原ひろかに会えます。もっとも、「ぼく」が苦手な同じクラスの「チビ女」こと佐野唱子もいますが。

 「カラフル」のストーリーは、真の体を借りている「ぼく」の進路の話が持ち上がることで展開します。両親や兄、担任の先生や美術部の顧問の先生たちも活躍しますが、「ぼく」は自分の希望を伝えます。しかし、それはあくまでも「ぼく」の気持ちであり、本物の真の気持ちじゃない、また、家族の愛情も真へ向けられたもので、「ぼく」へ向けられたものではないと悩みます。ほんとうにこれでよいのかと思いつめた「ぼく」は、天使に、この体を真に返してやりたいと切り出しました。記憶を失っていた「ぼく」に、自らが犯したあやまちの重大さを実感するという最後の試練が課されました。

 「カラフル」は、真の体は蘇生しましたが、中身はまったく別人で、しかし、周りの人たちにとっては、まぎれもなく真が生き返ったという設定に引き込まれて、ページをめくる時間も惜しんで一気に読みました。自分の人生のリセットではないことを分かっている「ぼく」が、どうせ他人とどこかで割り切りながら、真の人生を冷めた目で見つめていたところも印象に残っています。ただ、中年おやじとの援助交際がやめられないひろかに、「でも、死ぬのはやめたほうがいい」と告げたせりふは、真でもなく、真の体を借りている「ぼく」でもなく、ただ純粋な「ぼく」の心から出た言葉だと思いました。

 「この世があまりにもカラフルだから、ぼくらはいつも迷ってる」、そのことを知った「ぼく」は、ラスト・シーンで、新しい世界へ向けて歩き出していました。それは、リセットのきかない自分自身の人生を生きるということの意義を問いかける後ろ姿だと思いました。


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