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チア男子!!/朝井リョウのあらすじと読書感想文

2016年8月15日 竹内みちまろ 参照回数:

チア男子!!のあらすじ


 柔道部の坂東晴希は、春に命志院大学に入学した1年生。晴希は4歳の頃に姉の晴子が初試合に臨む姿を見て、柔道を始めた。晴希の自宅に併設された「坂東道場」は、昔から命志院大学の公式の道場として使われており、晴希の両親も命志院大学柔道部出身で、顧問のような立場で部に出入りをしていた。

 晴希が入学して3か月、同じく命志院大学柔道部の晴子が先輩に混ざって出場した全日本学生柔道優勝大会の女子5人制団体戦で優勝を飾った。晴希は試合の途中から晴子を立ち上がって応援し、晴希の声援を受けて大活躍した晴子は、大会で4人だけが選ばれる優秀選手に選出された。

 晴希は、春に練習試合で肩をケガして柔道ができない状態だった。晴希は、幼なじみで同じく命志院大学柔道部員の橋本一馬に、「俺さ……肩ケガして柔道できなくなったとき、ほんとはホッとしたんだよね」とこぼした。

 一馬は小学3年生のときに事故で両親を失い、祖母と暮らすために晴希が通う小学校に転校してきた。晴希と意気投合し、坂東道場にも通うようになった。

 子どものころから晴子は柔道で才能を発揮していた。一馬は晴子ほどではないにしても、高校生の時にインターハイ出場を果たした。晴希はどんなに頑張っても、柔道で勝ち進むことができなかった。そんな晴希を励まそうと、晴子は「結果なんて、努力次第でどうにでもなるんだよ」などと声を掛け続けた。晴希には、どんなに努力をしても越えられない壁があると痛感していたが、そのことを晴子には告げなかった。

 一馬のたった1人の肉親である祖母は、病院に入院しており、半年以上前から、一馬が見舞いに訪れても何の反応もしなくなった。そんな祖母が、高校野球のテレビでたまたま映った黄色と白のユニフォームを着たチアリーダーが笑顔で踊る姿を見て、「一美……」と、祖母の娘であり亡くなった一馬の母親の名前を呼んだ。

 一馬の母親はチアリーディングをやっており、実業団時代には世界大会に出場するようなチームに所属していた。一馬の父親は大学時代にチアリーディングをしていた母親のコーチだった。一馬は、幼い頃に何度も、「チアリーダーとは、観客も選手も関係なくすべての人を応援し、励まし、笑顔にする人のこと。そして、そのために自らの努力を惜しまない人のこと」と聞かされていた。

 一馬は、「やっぱり俺もやりたい……俺がやらなきゃって、思ったんだ」という。一馬は、柔道部を辞めて、チアリーディングのチームを作ってステージに立つことを決意した。同じく柔道部を辞める決心をした晴希に「俺は、ハルと新しいことを始める」と告げた。

 一馬は、大学の掲示板に「男子チア」と大きく書かれたチームメイト募集の貼り紙をした。貼り紙には「誰かを応援することが、主役になる」、「誰かの背中を押すことが、自分の力になる」とも記されていた。チラシを見て、名言ばかりを口にするが陸上で長距離をやっていた溝口渉(1年生)、スポーツ経験がなく力士のように太った遠野浩司(1年生)が応募してきた。

 さらに、1年生の“イチロー”こと総一郎と弦(げん)のコンビがチームに加わった。一馬は、10月2日に開催される学祭で初舞台を踏むことを提案し、「一人メンバーを増やして、まずは七人でやりたい。オリジナルメンバーで初舞台だ」と告げた。潜入している体育の授業で見つけた徳川翔を仲間に加え、7人のメンバーが揃った。

 命志院大学の女子だけで構成されるチアリーディングチーム「DREAMS」は、圧倒的な実力で王者として君臨する陽明大学の男女混成チーム「SPARKS」に肉薄する実力チーム。溝口が話を付けて、「DREAMS」と合同練習をすることになった。翔は、名門の高校でチアをやっていたが、「俺、その合同練習には行けない」と理由を告げずに参加しなかった。

 7人はスポーツ経験者や運動神経のあるメンバーが多かったものの、チアはまったくの初心者だった。合同練習に参加すると、「DREAMS」を指導していたOGの高城コーチは、晴希たちのやる気は認めたものの、ため息をついて、「まず基礎を覚えなさい」などと諭した。高城コーチは、なぜか、その日は参加していなかった翔の名前を知っていた。

 7人は、「チアは女がやるもんだって固定観念も、七人じゃ少なすぎるだろうっていう冷たい目も、二カ月でできるわけないってバカにしてくる奴らも、全部壊したいんだよ。俺たちの演技を見てくれる人の常識と、俺たち自身を壊したいんだよ」と話し、チーム名を「BREAKERS」と決めた。

 高級料亭の息子でお金に困ったことがない溝口が、マット、飛び箱、トランポリンを買い込み、坂東道場の屋上に配達させた。毎日、練習に取り組んだメンバーたちは、練習のたびに筋肉が付き、体にチアリーディングが染みこんで行く興奮を味わい、チームが一つになっていく高揚感を感じていた。

 学祭のステージで、、7人はできる精一杯の演技を披露した。晴希は、チアリーディングをしていることも学祭で初舞台を踏むことも晴子に告げることはできなかったが、「DREAMS」と同時刻の出演になったにも関わらず、「BREAKERS」のステージを「DREAMS」の高城コーチが見守った。

 「BREAKERS」の学祭でのステージはミスだらけだったが、新たに8人のメンバー(3年生の金田保と、金田を兄貴としたう「銀」と「銅」、1年生の安藤タケル、3年生の鍋島卓也、弟で2年生の鍋島卓己、“サク”こと1年生の佐久間隆造、「SPARKS」に入りたかったという1年生の森尚史)が「BREAKERS」への参加を希望した。

 そして、高城コーチが、専任コーチとして、「BREAKERS」を指導することになった。高城コーチが翔のことを知っていたのは、翔が、陽明大学の「SPARKS」に毎年、メンバーを送り込むチアの名門・陽明高校でエースとしてチアリーディングをやっていたからだった。

 命志院大学の中国語の教授の息子で、中国では日本でいうところの国体の体操選手だった留学生の陳が加わり、「BREAKERS」は16名のチームになった。

 高城コーチは、メンバー一1人に1冊ずつノートを渡し、毎日練習が終わった後に、「反省ノート」として思ったことを何でもよいから書き続けるように指示を出した。そして、「男子が力でやってしまうことを、女子は努力で成功させる。それはつまり、男子が力に頼らないで努力を重ね続ければ、女子よりも美しいチアができるかもしれないってこと」と告げた。「強いチームの特徴は、キャプテンと練習長が分かれていること」といい、一馬をキャプテンに、翔を練習長に指名した。

 「BREAKERS」は、1月末に開催される予選を突破して、千葉・幕張メッセで行われる全国選手権に出場することを目標に掲げた。

チア男子!!の読書感想文


 「チア男子!!」は、ページをめくる手が止まらず、寝る間も惜しんで一気に読みました。

 一馬と晴希がチアを始めることにして、溝口、遠野、イチロー、弦がすぐに仲間になります。すると、一馬が「仲間が六人になりました」とメールを送ったり、溝口がヒマワリ食堂の店長といつの間にか仲良くなっていたり、「チアリーディングは、観客との呼応ができるんだ」「やっぱそれがすげえと思うんだよな。そんなスポーツって他にないだろ? だって観客が参加するんだぜ」などと興奮して声を掛けあったりします。

 さらに練習が進むと、「思い立つたびに倒立をしていると、回数を重ねるたびに安定していくのがわかる。これがチアの技に繋がっていくと思うととても気持ちがいい」と感じたり、「今まであまり使ったことのない筋肉が、内側から肉体を補強しているような感覚だ。他のスポーツをやっているときとは違い、内部に溜まっていた邪魔な液体や脂肪が、汗と筋肉に生まれ変わっていくようだ」と興奮したりしていました。

 「チア男子!!」に引き込まれていったのは、そんなワクワク感が心地よかったからだと思います。

 大学生は何かを始めようと思えばどんなことでもできる一方、何もしないでいることもできると思います。

 ただ、何もしなければ仲間が自然と集まることもなく、自分の身体が変わっていく高揚感を味わうこともなく、新しいことを知る興奮に心を躍らせることもありません。

 ストーリーが進んでいくと、さらに、できるわけがないと思っていた難しい技を成功させることができたり、何よりも、本番の試合に出場していきます。

 メンバーたちは、どんなチームの演技でも技が決まるたびに会場中から大歓声が沸き起こるチアリーディングの試合の雰囲気を体験し「すげえ」と声をあげ、「成功、失敗、関係なく、演技が終わると盛大な拍手が送られる。選手皆、泣き顔のような笑顔で会場を去っていく。その前のチームのエネルギーが、生命力がそのまま残った舞台を、次のチームが受け継ぐ」、「チアリーディングは、チームの関わりがチームを強くしていく。そして、チーム同士の関わりが、チアリーディングそのものを輝かせる。そんな競技、他にない」と知ります。

 そして、高城コーチは、「大会に出ると、どのチームも練習の何倍も美しくパワフルな演技ができる。それは、自分たち以外のチームがいるからよ。敵じゃなくて、同志がいるから。その快感を体験したら、もう誰もチアをやめることができなくなる」と告げます。

 高城コーチが言ったことは、「BREAKERS」のメンバーたちにとって、チアリーディングを始める前は想像することすらできなかったことだと思います。

 「BREAKERS」のメンバーたちは、それぞれに事情を抱えており、どちらかというと、陽の当たる場所を何の心配もなく胸を張って歩ける人というよりは、どこか陰があって自分ではどうすることもできない何かを抱えている人たちだと思いました。

 でも、そんな「BREAKERS」のメンバーたちも仲間と出会って、チアリーディングに真剣に取り組んだからこそ、興奮や高揚感を味わい、世の中には思いも付かないものが存在することを知りました。

 ワクワクやドキドキというものは、何もしなければ生まれるはずがなく、逆に、どんなことでも何か新しいことを始めれば誰でも体験することができるものなのかもしれないと思いました。

  「チア男子!!」を読み終えて、ワクワクをいくつ作り出せるのかで、幸せというものが決まるのかもしれないと思いました。


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