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おかあさんの木/大川悦生のあらすじと読書感想文

2015年6月2日 竹内みちまろ 参照回数:

おかあさんの木/大川悦生のあらすじ


 1927年(昭和12年)、日本と中国は全面戦争に突入し、やがて、連合国を相手にした太平洋戦争に発展しました。

 そんな時代に、7人の息子を持つひとりの母親がいました。母親は、息子たちが兵隊にとられるたびに、裏の空き地に、キリの木の苗を一本ずつ植え、「一郎」「二郎」「三郎」と名前もつけました。「一郎、おはよう。」「二郎、おはよう。」「三郎、おまえも戦地で元気かいな。ひきょうなまねはせんと、お国のために、手柄を立てておくれや。」などと声を掛けました。

 3年が過ぎ、4年が過ぎ、キリの木は5本に増えて、一郎が中国大陸で「名誉の戦死」を遂げたと知らされました。お葬式では涙も見せなかった母親は、一郎の木にとりすがり、「一郎、一郎、さぞつらかったろうね。弾にあたって、どんなにかいたかったろうね、死にたくなかったろうね。」と泣きました。

 一郎が戦死してから、おかあさんは変わり、「戦争に協力しない非国民といわれます。世間の口はうるさいで、気いつけなされ。」と近所の人が声を掛けてくれても、「今だからいうよ。おまえが、お国のお役に立てて、うれしいなんて、ほんとうなものか。戦争で死なせるために、おまえたちを生んだのではないぞえ。一生けんめい大きくしたのではないぞえ。」と一郎の写真を抱き締めて声に出したりしました。

 やがてキリの木は7本に増え、戦争が終わり、一郎に続いて、二郎は日本軍が全滅した南の島で死に、三郎は船と一緒に水底に沈み、四郎はガダルカナルで戦死し、五郎はビルマのジャングルで行方不明となり、六郎は沖縄で死に、七郎は特攻隊で死にました。それでも、母親は、「ひとりでいいに、ひとりだけでいいに、どうぞ帰してくだされや」と祈り、秋が来てキリの葉が落ち始めると、「この大きいのは、二郎の葉……」などと呟きながら、拾いました。冬の夜中に風がコトンと戸を叩けば、「四郎かや、五郎かや」と起きたりしていました。

 ある日、ビルマのジャングルで行方不明になっていた五郎が戻ってきました。が、母親は、拾ったキリの葉を抱き締め、五郎の木にもたれたまま死んでいました。

 五郎はしばらくして、母親の思い出に、甘い実のなるクルミの苗を1本、植えて大事に育てました。20年の月日が過ぎ、キリの木はあらかた切られてしまいましたが、クルミの木は立派に育ち、五郎の子どもたちは「おばあちゃんのクルミがなった。とうさん、とろうよね。」と言って、採って食べます。五郎はいつも、母親の思い出を話しました。

おかあさんの木/大川悦生の読書感想文


 「おかあさんの木」は学校で習いましたが、改めて読み返してみると、母親の愛情の深さというものを感じました。

 母親は戦争に行った7人の息子全員と生きて再び会うことはできませんでしたが、キリの木を植えるという行動で、息子たちとの絆を更に深めていたのだと思います。そんなことをしても何の役にも立たないとか、息子たちが帰ってくるわけではないと真正面から言われてしまえば、反論することはできませんが、キリの木を植える姿に理屈ではない愛情の深さと、人間としての温かさを感じました。

 もちろん、息子が戦争に行くたびに植えられるキリの木は増えないことを願うばかりですが、例えば、子どもが生まれた記念に木を植える話などは耳にします。思い出だけではなく、そういった形に残るセレモニーがある家庭は温かいなと思いました。逆に、そんなことをしても何の役にも立たないと切り捨ててしまう家庭は、何か大切なものが欠けている気もします。

 もう一つ、思いを声に出して言うことの力のようなものを感じました。母親は戦争中も、戦争に行かせるために生んだのではないなどと声に出していました。また、キリの木に向かって本当の心を声に出して告げていました。ときには心にしまうことも大事かもしれませんが、本当に大切な思いこそ、声に出して言わないと、実現しなかったり、伝わらなかったり、その思い自体を大切にできなかったりするのかもしれないと思います。

 「おかあさんの木」は悲しい話ですが、同時に、“おかあさん”の温かい愛情に触れることができ、心が温まる物語でした。


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