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いっしょに泳ごうよ/石川ひとみのあらすじと読書感想文

2005年12月5日 竹内みちまろ 参照回数:

いっしょに泳ごうよ


 石川ひとみさんは、アイドル歌手として出発した人のようです。B型肝炎を克服されたようです。講演会や執筆活動などを加えて、ミニコンサートなど、精力的で、幅広い分野で活躍をされているようです。

 石川ひとみさんは、一九七八年にデビューして、一九八一年に「まちぶせ」という歌で紅白歌合戦に出場しました。石川ひとみさんが紅白に出たときには、みちまろは、小学校の三年生でした。「石川ひとみ」という名前にも、「まちぶせ」という曲名にも、ピンときません。みちまろよりも上の世代、一九六〇年代生まれの人たちを中心にして、思い入れがあるのかもしれないと思いました。

 そんな石川ひとみさんの著書『いっしょに泳ごうよ―愛が支えたB型肝炎克服記』では、各章の扉に、石川ひとみさんのモノクロの写真が刷られています。やや横向きの格好で、上にあげた顔をこちら側に向けて笑っています。若いころの写真だと思います。きれいな人だとは思いますが、写真からは、どこかぎこちない、人工的な不自然さを感じました。本書を読んだ後に、改めて、写真を見ると、石川ひとみさんは、ご本人とカメラマンが合意の上で切り取った外見的(=商業的)な価値(だけ)を提示するような写真を掲載するよりも、一人の女性としての時間を重ねてきたありのままの姿を写した写真を掲載したほうが、ご本人の人間的な魅力を切り取ることができるのではないかと、(一人で勝手に)思いました。写真というものは、ある一面だけを意図的に切り取った現象だと思います。この写真は、ご本人の思いが込められたものなのかもしれません。ファンへの配慮という可能性もあると思います。また、石川ひとみさんは、発病するB型肝炎のウイルスを持っています。もろもろの理由が積み重なった結果として、このような写真が掲載されているのだと思います。写真について細かいことをごちゃごちゃと書いた理由は、本書を読み終えて、石川ひとみさんは、生きた時間を重ねれば重ねるほどに、美しくなっていくタイプの女性だと感じたからでした。

いっしょに泳ごうよ/石川ひとみのあらすじ


 石川ひとみさんは、一九八七年に、ミュージカル公演のリハーサル中に、発病していたB型肝炎のために倒れたようです。B型肝炎とは何かを説明します。専門的な知識がないので、本書で紹介されていた現象を、みちまろなりに理解して、簡潔かつ客観的に書くように努めます。以下の記述は、あくまでも、本書の第一刷りが発行された一九九三年の段階で本書に記載された現象という限られた情報がもとになっています。

 B型肝炎は、病気です。発病の原因は血液の中にあるウイルスです。ウイルスを持っている人が必ず発病するわけではないようです。発病する割合は、2、3割だと書いてありました。7、8割の人は、ウイルスを持っていても(キャリアであっても)、ウイルスを持っていない人と、まったくに同じ人生を送るということです。日本では、百人に、2、3人の割合で、キャリアがいるようです。

 B型肝炎に感染するのは、エイズと同じように、「性行為」、「血液感染」、「母子感染」の三つだと言われているようです。人間の体は免疫機能を持っています。ハシカは一度かかってしまえば、その後は、たとえ感染しても、通常では、二度と発病することはありません。血液の中に抗体ができて、ウイルスを退治したあとも、抗体が生き残るからです。B型肝炎ウイルスにも抗体があります。正しい治療を行えば、普通の社会生活を送ることができると、あとがき「B型肝炎への正しい知識を」の中で、医師が書いていました。

いっしょに泳ごうよ/石川ひとみの読書感想文


 石川ひとみさんは、<はじめに>の中で、「なお、タイトルの『いっしょに泳ごうよ』という言葉にはさまざまな思いがあります」と書いています。リハビリとしてはじめたスイミングスクールで、同じプールを使っている幼児の母親たちから、病気が感染するから石川さんをスクールから止めさせてほしいという苦情が寄せられたようです。石川ひとみさんは、「そんなことでは絶対に感染しないのに!」と、「!」マーク付きで書いていました。本書は、予備知識なしで、読みました。<はじめに>を読み終えて、本文に入るときに、どんな内容かに、目星をつけました。闘病記であると同時に、B型肝炎への誤った偏見への告発記でもあるのかしれないと思いました。

 第一章の最初の小見出しは、「部屋がまわっている!?」でした。本書は、リハーサル期間中に発病したエピソードの紹介からはじまっていました。具体的なエピソードというものは、どんどんと、読み進めることができます。後半で書かれていたスイミングスクールに通おうと思ったキッカケを紹介するエピソードでは、石川ひとみさんが小学生だったころは、「たしか、十五メートルくらいは「めちゃくちゃクロール」で、浮き沈みしながらも泳げた、とは思う」と書いていました。飾りけのない素直な言葉で書かれた文章を、ときにほほ笑みながら、どんどんと読みました。B型肝炎の発病のために倒れたあとの様子が、特に、印象に残っています。石川ひとみさんは、入院していたときに、「安静」にしているようにと指示を受けました。石川ひとみさんは、売店へ行って、何か買ってこようと思います。しかし、医師や看護士から、禁止されました。医師や看護士がいう「安静」とは、何もせずに体を横たえているという現象を示した言葉でした。上半身を上げてしまうと、それだけで、体力を消費するという意味のようでした。小説を読んでしまえば、あれこれとイメージを思い浮かべてしまい体力を使います。映画を見てしまえば感動して体力を使ってしまいます。「安静」というのは、何も考えずに体を横たえている状態のようでした。

 そういった石川ひとみさんのエピソードが紹介されているうちに、いつのまにか「いっしょに泳ごうよ」を読み終えてしまいました。<はじめに>を読み終えたときに、「これは告発記なのだろう」という目星を付けました。肩透かしをくらったように感じました。B型肝炎への正しい知識を持たない社会を告発するような内容が、ほとんど、書いていなかったと感じたからです。

 最後まで読み終えて「おやっ」と思ってから、ページをパラパラとめくってみました。たしかに、ご本人のくやしさが伝わってくるようなエピソードも記載されていました。ただ、そういった出来事は、間接的に書かれていました。スクールの母親たちから苦情を受けた出来事は、石川さんに止めてもらうつもりはないと断言したスクール側の対応を紹介するエピソードの中に埋め込まれていました。退院後に、芸能プロダクションから契約打ち切りを宣言された出来事は、それを告げるときの芸能プロダクション社員の苦渋を噛みしめるようなひきつった表情の中に人間としてのやさしさを見たというエピソードの中に埋め込まれていました。リハーサル直前で倒れたという現象は、主役の一人を失った人たちに、いかに迷惑をかけたのかというエピソードの中に埋め込まれていました。

 「いっしょに泳ごうよ」を読んで、B型肝炎ウイルスの発病という現象に直面して、石川ひとみさんの人生が一転したことがわかりました。でも、辛い体験は、それによって知りえた人々の温かさというヴェールに包みこまれていました。B型肝炎への社会的な偏見を紹介するエピソードを記載する個所では、ご自身の体験とは距離を置いていました。B型肝炎の子どもがクラスで仲間はずれにされているという記事を引用したり、「AIDSセミナー」に出席したときに感じた違和感などをとおして、書かれていました。石川ひとみさんは、叫びたくなるような怒りや、止むことのない涙を行間に閉じ込めて、その代わりに、退院してから一年目に、京本雅樹さんが座長を勤める舞台への出演を誘われたときに、どれほどにうれしかったのかを悦びいっぱに書いています。

 本書は、発病してからはじめて知りえた人間の尊厳とやさしさを、自分を支えてくれた芸能関係者や病院関係者、家族や友人たち、そして、最愛の人への思いにのせて、書きつづった本だと思いました。石川ひとみさんが、「いっしょに泳ごうよ」というタイトルに、どのような思いを込めたのかは、本文には書かれていませんでした。一人の読者としては、「いっしょに泳ごうよ」というタイトルには、被害者や犠牲者としての怒りや悲しみよりも、B型肝炎ウイルスの発病をとおして成長した石川ひとみさんの心の大きさを示しているように感じました。

  みちまろは、「石川ひとみ」という名前を聞いても、「まちぶせ」という曲名を聞いても、ピンときません。テレビや雑誌で見たこともありません。ファンや、ラジオのリスナー、講演会の聴講者としてお人柄に触れたこともありません。したがって、石川ひとみさんが、どのような人なのかは、わかりません。ただ、「いっしょに泳ごうよ」を読み終えて、石川ひとみさんは、美しい人だと思いました。


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