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ハッピーバースデー/青木和雄のあらすじと読書感想文

2013年1月1日 竹内みちまろ 参照回数:

ハッピーバースデーのあらすじ(ネタバレ)


 横浜の小学5年生の藤原あすかは、11歳の誕生日の日、何度も柱時計を見上げ、母親の帰りを待っていました。名門私立中学3年生の兄・直人は、レトルトのカレーをあすかの分も取り分けながら、「おまえ、生まれてこなきゃよかったよな。」と楽しそうに話します。あすかは、心を痛めると、あざができるほど、のどを強くつまんでしまう習慣がついてしまっていましたが、あすかは、去年も、一昨年も、誕生会を開いてくれたと、兄にくいさがります。直人は、「あれは、ママのためのセレモニーだよ。よい母であるための年中行事ってやつさ。」「ママはおまえの誕生日よりずっとずーっと大事なもんが、山ほどあるのさ」と、動揺するあすかを楽しそうに見つめます。あすかは、直人にコップの水を拭きかけて、部屋にこもります。直人が入ってこれないようにドアの内側にバリゲートを築き、いつのまにか寝入ってしまいました。深夜、母親と直人の話し声を聞きます。母親はあすかの誕生日を忘れていました。加えて、「ああ、あすかなんて、ほんとうに生まなきゃよかったなあ。」。あすかは、窓を開けて、「助けて!!」「だれか、あすかを助けて!!」と叫びます。しかし、声が出ませんでした。あすかは、しゃべることができなくなってしまいました。

 担任の橋本敦子先生が、学校で、あすかの異変に気がつきます。母親を呼び、ストレスに押しつぶされそうになっていることを告げます。母親は、フランス語の通訳の仕事を始め忙しく、ボランティアで日本語教室の教師もしているなどと、自分のことばかりを話します。橋本先生が問い詰めると、母親は、「あすかはダメ。あの子は愛せないの。」と涙と鼻水をハンカチで押さえながら、首を横に振るばかり。橋本先生は、「一日も早いほうがいいです。あすかちゃんといっしょに、カウンセリングを受けてみてください。」と訴えますが、母親は聞く耳を持ちませんでした。

 あすかは日に日に感情を失い、直人が頭をこづいてもふらりと揺れるだけになりました。雨の日、直人が家に帰ると、びしょ濡れのあすかが玄関でうずくまっていました。あすかは高熱を出していました。直人は後悔と反省の念を持ちますが、母親は徹底してあすかの存在を避け続けます。直人は母親の態度に怒りを感じ、「おれたちは、藤原裕治と静代夫妻のペットじゃないんだ」などと怒りをぶつけます。直人は、あすかに、「あすか、おまえ、このままじゃダメになるぞ。」「おまえ、宇都宮に行け。ばあちゃんとじいちゃんのところへ行って、心を休めてこい。いいか、ママをあてにするな。じいちゃんの力を借りて、自分をとりもどすんだ」と、あすかを、母親の実家である宇都宮の祖父母の家へ送りました。

ハッピーバースデーの読書感想文


 ストーリーはここから2転、3転するのですが、感想へ移りたいと思います。

 『ハッピーバースデー』は、宇都宮で言葉を取り戻したあすかと家族の出発の物語でした。あすかは、祖父母の教えを守り、感情を表してみようと思います。マンションを購入したため転校することになりましたが、6年生として通い始めた学校では、クラスにはびこるいじめに直面し、校舎がつながっている養護学校では重い障害を持って生まれた子どもたちと触れ合います。祖父母の家で、母親に16歳の時に死んだ姉がいたことを知りますが、母親へ、「もう、ママとは呼ばない。きょうから、ママのことは静代さんと呼ぶことにする。あすかを、自分の一部のようには、もう思わないでよね。」と通告します。母親は、「問題は、わたしの心にあったんだわ……。」と目頭を押さえ、直人から連絡先を渡されたカウンセリングに通うようになる、という展開をします。

 印象に残っている場面があります。

 あすかは、クラスメイトの金沢順子へ残酷ないじめが行われていることを目の当たりにしますが、翌日、登校するときに、同じマンションに住むクラスメイトから、「うちのクラス、おどろいたでしょ。先生があの調子だからね。」と声を掛けられます。担任は、いじめを行っている男子生徒たちがふざけておどけると、自分も楽しそうに耳を傾けるような男でした。ただ、生徒たちは、教室ではにこにこしていても、心の中では、あの教師は生徒に甘えているだけと、しっかりと見極めていました。子どもたちは、仮に言葉にして理解することはできなかったとしても、現実をしっかりと見ており、同時に、教室では現実に気づいていないふりをしたり、気づいていない自分を演じることで自分を守ったりしているのかもしれないと思いました。

 母親が持つトラウマは根深いものがあり、気づいていないふりをしているというレベルではありませんでしたが(=専門医による治療が必要なレベルでしたが)、生徒たちも含めて、人間は、例え周りが見えたとしても、自分自身は見えないことがあるのかもしれません。ただ、子どもたちが、小学生のうちから、周りの大人の態度の裏にあるものを感じ取ってしまったり、教室では黙っていますが、裏であきらめきった顔でぼやくということは、それだけ、世の中が、うさんくさい大人たちで満ちており、かつ、(子どもたちがあきらめてしまうくらいに)そのうさんくさい大人たちが楽しそうに大手を振ってはびこっているということかもしれません。子どもたちの姿は、大人たちの姿の、合わせ鏡なのだと思いました。

 『ハッピーバースデー』は、心温まる話でした。銀行マンで単身赴任や出張ばかりをしているくせに世間体だけを気にする父親へ、直人が、「夢を見てはいけないの? おれ、まだ十五歳だよ、パパ。夢に向かって生きたいよ。」という場面もよかったですし、祖父の「あすかの病気を治そうなどとは思わんことだぞ、ばあさん。あの小さな胸の中につまっている苦しみを、あすかが出しきるまで、じっくり見守ってあげようや」という言葉も心に染みました。


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