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色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年/村上春樹のあらすじと読書感想文

2013年5月10日 竹内みちまろ 参照回数:

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年のあらすじ


 名古屋の公立高校を卒業し、東京の工科大学の土木工学科に進んだ多崎つくる(36)は、東京の鉄道会社に就職し、駅舎を設計管理する仕事をしています。紹介で知り合った大手旅行代理店勤務の木元沙羅(38)と3度目のデートで体を交わし、4度目のデートのとき、高校時代に仲良し5人組を形成していた4人から、大学2年生のときに突如、理由も告げられないまま絶交を言い渡されたことを語ります。5度目のデートで、沙羅から、なぜ4人から絶交されたのか「あなた自身の手でそろそろ明らかにしてもいいじゃないかという気がするのよ」と告げられます。つくるは、4人の名前と高校時代の住所と電話番号を、沙羅に送りました。

アカ:赤松慶(あかまつ・けい)
アオ:青海悦夫(おうみ・よしお)
シロ:白根柚木(しらね・ゆずき)
クロ:黒埜恵理(くろの・えり)

 つくるは、名古屋で働くアカとアオに会いに行きます。アオはトヨタ自動車のショールームで高級車レクサスを販売し、アカは社員教育カリキュラムを実践する会社を経営。2人とも成功していましたが、16年ぶりに会ったアオとアカから、シロが、つくるが大学2年のとき、つくるからレイプされたと訴えたことを聞きます。つくるには覚えがなく、アオもアカも当時は半信半疑でしたが(現在はそんなことはあり得ないと確信)、シロは妊娠していました。一人で産み育てる決意をしたシロですが流産。そして、つくるは、シロが音楽大学卒業後、ピアノを教えていた自宅を出て、浜松に移り住み、2年後にマンションの自室で絞殺されたことを知ります。

 クロは、フィンランド人の陶芸家と結婚し、フィンランドに住んでいました。つくるは休暇を取り、沙羅が手配してくれた飛行機でフィンランドに飛びます。

 クロから、そのときのシロが精神的に混乱していたこと、クロは最初から、つくるがシロをレイプしたことを信じていなかったこと、それでも、クロはシロを護るためにシロを100%受け入れ、つくるを100%捨てなければならなかったこと、クロがつくるのことを好きだったこと(つくるは気付いていなかった)、シロは最後までつくるにレイプされたことが本当に自分に起こったことだと信じていたこと、なぜシロがそんな妄想に取りつかれたのかクロには今でも理解できないこと、などを聞きます。

 クロと話をしたり、クロをハグしたりするうちに、つくるは、これまで自分のことを犠牲者だと考えてきましたが、知らないうちに周りの人たちを傷つけてきたのかもしれないと思います。つくるは、クロから、沙羅について、「君は彼女を手に入れるべきだよ」と告げられます。

 帰国したつくるは、沙羅に、フィンランドでの出来事を話します。「君には僕のほかに誰か、つきあっている男の人がいるような気がするんだ」と告げます。「君のことが心から好きだし、君をほしいと思っている」とも。沙羅は、「あなたが正直になったんだから、私もあなたに対して正直になりたいと思う。でもその前に少し時間をもらえるかしら?」と答えます。沙羅は、「三日くらい」と告げます。

 2日目、仕事を終えたつくるは、新宿駅に行きました。つくるは駅のベンチに座って、駅や、人々の様子を眺め続けることが好きでした。つくるは、人生が20歳の時点で実質的に歩みを止めてしまった気がしたり、あまり話をしたことがなかった父親のことを考えたりします。部屋に戻ったつくるは、沙羅に電話をかけますが、3コール目ではっと我に返り、電話を切ります。折り返し、沙羅からだと思われる電話がかかってきましたが、つくるは、電話に出ませんでした。

 つくるは、フィンランドで、クロとの別れ際に言うべきだったのにそのときは言葉にできなかった、「すべてが時の流れに消えてしまったわけじゃないんだ」「僕らはあのころ何かを強く信じていたし、何かを強く信じることのできる自分を持っていた。そんな思いがそのままどこかに虚しく消えてしまうことはない」という言葉を見つけます。

 つくるは心を静め、目を閉じ、眠りにつきました。

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色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年の読書感想文


 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(村上春樹)は、読み終えて、人間同士が横に並んで同じ物を見つめることのすばらしさを感じました。

 主人公の多崎つくる(作)は、東京の工科大学の2年生の時、名古屋で仲良し5人組を形勢していた4人から、突然、理由も知らされることなく絶交を言い渡されます。一時は死を深く考えましたが、死への憧憬はなんとか断ち切ります。新宿に本社を置く電鉄会社に就職し、名古屋とは疎遠になります。つくるは、紹介で、2歳年上の旅行代理店勤務の木元沙羅と知り合いました。

 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』では、沙羅の人柄が一番印象に残りました。沙羅は、つくるから、4人の話を聞き、つくるに4人を探し出して、話を聞くべきだと告げます。

「あなた自身の手でそろそろ明らかにしてもいいじゃないかという気がするのよ」

「あなたはたぶん心の問題のようなものを抱えている」

「ナイーブな傷つきやすい少年としてではなく、一人の自立したプロフェッショナルとして、過去と正面から向き合わなくてはいけない。自分が見たいものを見るのではなく、見なくてはならないものを見るのよ」

 つくるが沙羅に4人の名前と、高校時代の住所と連絡先を教え、沙羅が、現在の4人のことを調べます。つくるはかつての親友たちに16年ぶりに会うため、名古屋とフィンランドへ行きます。

 つくるは一人で旅立ちましたが、つくるのかつての親友たちを尋ねる旅はつくる一人にとってではなく、沙羅にとっても大切な旅になったのではないかと思います。沙羅は、つくると体を合わせているときに、つくるに「隔たりに似た感触」を感じ、いまのままのつくると交際することは難しいと本能的に感じていたようでした。

 沙羅は、4人の消息を調べ、つくるのフィンランドへの旅を手配します。旅から戻ったつくるから話を聞きます。

 つくると沙羅は、同じものを見ていたのではないかと思いました。もちろん、つくるの旅がどのような結果をもたらすのか、つくるにも、沙羅にもわかりません。しかし、それでも、沙羅は、つくると、つくると自分のこれからの関係のために、旅をするつくるを見守ります。つくるの旅は、つくるがナイーブな少年から大人になるための内面世界への旅だと思います。そしてそれはつらいものとなり、いうなれば、戦いの中でも最も過酷と言われる撤退戦のようなものにも感じられたのですが、夢を実現するための行動でも、趣味の行動でも、仕事や生活のための行動でもないところがよかったです。つくるがいうように、人生の特権ともいうべき高校生の青春時代の輝きは、つくるにも、沙羅にも、もうありません。それでも、人間は何かを見つめて、何かをなすために、ときに撤退戦にも挑まなければならないことがあると思います。

 ミッションへ挑むつくるを、つくるといっしょに見つめてくれる沙羅は、つくるにとって大切な人になったのだと思いました。


→ つくるの旅について


→ アカ(赤松慶)について


→ アオ(青海悦夫)について


→ シロ(白根柚木)について


→ クロ(黒埜恵理)について


→ 悪いこびとたちにつかまらないように…


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