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鹿の王/上橋菜穂子のあらすじと読書感想文

2015年12月13日 竹内みちまろ 参照回数:

鹿の王のあらすじ


 「鹿の王」(上橋菜穂子)を読みました。国や氏族の歴史や、登場人物の背景に焦点を絞りながら、あらすじと感想をメモしておきたいと思います。

東乎瑠帝国とアカファ王国


 アカファ王国は、強大な東乎瑠(ツオル)帝国に恭順し、帝国の中で属州として一定の地位を保っていた。アカファ人は帝国属州の平民の扱いを受けていた。しかし、アカファ王国の最西端・ドガ山地の各氏族は、西のムコニア王国の侵入に対しては「アカファの民」として戦うも、もともとは、アカファ王に恭順する代わりに緩い自治権を認められていた独立民であるため、東乎瑠帝国によるアカファ王国併合後も、東乎瑠帝国属州の平民とは見なされていなかった。

 東乎瑠帝国が長い年月をかけて進めてきたアカファ本土の属州運営が安定し、最後の仕上げとしてドガ山地の平定計画に本格的に着手した際、アカファ王は、ドガ山地の各氏族に、東乎瑠皇帝に恭順の意を示せば身の安全を保障するよう交渉できると伝えた。しかし、アカファ王ができることは、身の安全の保障までだった。辺境の小氏族が抵抗もせずに服従すれば奴隷に近い扱いを受けることは明らかで、東乎瑠は、下層民を意識的に故郷から引き離し、遠方の征服地に入植させる政策を取っていた。ドガ山地の各氏族は、故郷から引き離され、慣れぬ異郷で苦汁を舐めさせられることを恐れた。逃げようにも、西には、東乎瑠よりも残忍な支配を行うムコニア王国が立ちはだかっていた。

ドガ山地のガンサ氏族


 ドガ山地のガンサ氏族の長たちは、氏族が故郷に留まるために、東乎瑠に、ムコニア王国に対する防衛戦力として自分たちが役立つと思わせることを目論んだ。戦士団に徹底抗戦を叫ばせることで、容易く支配できる氏族ではないと思わせ、同時に、味方にすればドガ山地での戦いに精通した優秀な戦力と思わせる策を進め、その上で、東乎瑠が多少なりとも納得のできる条件を提示してくれれば支配下に入り、「西の国境を守る尖兵となろう」と交渉する腹積もりだった。

独角


 ガンサ氏族の切り札は、戦士団「独角(どっかく)」だった。独角は、神々が飛鹿(ピュイカ)の姿でこの世にあった頃に生まれたと言われる組織。独角は、何かの折に氏族の盾となって死ぬことを誓った男たちの集団。氏族の掟に縛られずに生きることを許されていた。普通の暮らしからはぐれてしまった者、脛に傷を持つ者、故郷に帰れない余所者でも、独角の一員に志願すれば、氏族の一員として認められた。

独角の頭・ヴァン


 妻のアリィサと幼い息子・モシルを病気で喪ったヴァンは、独角の頭だった。生きる目的を失い、一刻も早く死んで「常春の地」に行きたいと思っていた。ガンサ氏族の長から、「降伏した後、故郷の皆に生きやすい日々が訪れるよう、落としどころを探る駒になってくれるか」と言われた際、「心底ほっとし」、笑って、死兵の役目を引き受けた。

 ヴァンは、山岳戦で驚異的な力を発揮する飛鹿に跨り、独角を率いて、馬では自由の利かない険しいドガ山地で闘い続けた。抵抗活動は2年程続いた。東乎瑠軍兵士の心に、深い森の木陰や、急峻な崖から突如として現れる「飛鹿乗り」の恐怖が染み付き、東乎瑠帝国は氏族長たちに有利な条件での停戦を持ち掛け始めた。

 交渉が整う中で、独角は、氏族長の命令に従わずに徹底抗戦を叫んで孤立していく狂信的な戦士団を演じ続け、ついに、カシュナ河畔の戦いで、ヴァン1人を残して全滅し、その役割を充分に果たした。捉えられたヴァンは、アカファ岩塩鉱で奴隷として働かされた。

古オタワル王国


 数千年の長きに渡り栄えた古オタワル王国は、南はユカタ平原、北はオキ地方、西はドガ山地の辺りまでを緩やかに支配していた。オタワル人は、医療や土木技術、工芸に優れ、夢のような暮らしをしていたといわれる。

 247年前、古オタワル王国で、疫病である黒狼熱が流行り、6000人の死者を出した。黒狼熱は、ドガ山地に生息していたという黒狼(こくろう)や山犬(オッサム)に咬まれることで罹る病気とされており、恐ろしいのは、病んだ人間や獣を噛んだノミやダニ、蚊などが病を運ぶこと。

 黒狼熱が流行った際、古オタワル王国の王・タカルハルは、棄都の大号令を発し千年栄えた王都を捨てた。古オタワル王国の王都と主要な街は、広大な内海の中に浮かぶ3つの島にあった。外敵を退けることに適していたが、島ゆえに黒狼熱が蔓延した。タカルハル王は、病んだ者と、去るのを拒んだ者を捨て、王都に架かる長い橋を落として、黒狼熱に罹っていなかった者を救った。古文書によれば、王都を捨てた人々は、衣を脱ぎ、体毛をすべて剃り、列になって、泣きながら橋を渡った。

アカファ王国


 王都と病んだ人々を捨てたタカルハル王は、古オタワル王国の中で不思議なほど黒狼熱の被害が出なかった北西のアカファ地方の交易都市カザンに王都を移した。民を捨てた者には王たる資格がないと考えたのか、タカルハル王は、カザンの若き都主だったアカファ人に、多様な民族が暮らす地でそれぞれの統治権を認めながら緩やかに治めることを誓わせ、王国の統治権を譲り渡した。アカファ王国が誕生した。

 アカファ王国は夏が短い寒冷の地が多く農作物を育てるには厳しい地方だったが、「アカファの宝」と謡われた岩塩鉱から産出される塩と、深い森と山稜に生息する獣たちから得られる良質の毛皮を産出した。寒さが厳しいとはいえ、南部のユカタ平原には広大な草地があり、火を思わせる赤毛の良馬「アカファの火馬」が育った。

オタワル聖領


 生き残った古オタワル王国の貴人たちは、険しい山々に囲まれた盆地に「オタワル聖領」を築き、医療をはじめとする様々な技術を磨くことに専念した。国を持たずに生きることを選んだオタワル人は、貴人階級ではなくとも、幼い頃からオタワル聖領にある学問の中心地「深学院」で学び、成人してからは、多くの者が広く諸国に旅立ち、身に着けた技術や知識を活かして生きていた。深学院から生み出される技術や工芸品は、アカファ王国の富を支えた。

 また、オタワル人は、「奥」と呼ばれる組織を持った。「奥」の網の目は、アカファ王国に暮らす諸民族の隅々まで広がっており、統治権を委譲した後も、オタワル人は、「奥」を使って知り得た情報をアカファ王に伝えることにより、オタワル聖領からアカファ王国に影響力を発揮した。東乎瑠帝国が侵攻してきた際、アカファ王が小競り合い程度の戦をしただけであっさり降伏したのも、オタワル聖領の人々から東乎瑠の軍事力の強大さを知らされており、戦うよりも交渉することの利を説かれたことによるという。オタワル聖領自体は、いち早く東乎瑠に恭順し、驚異的な技術を売り物にして、巧妙に帝国の内部に入り込んでいた。医療面では清心教を信じる祭司医たちの反発にあっているが、架橋や隧道の掘り抜き、鉱山開発や冶金、土木や建築の分野などで、オタワルの技術者たちが、被支配民でありながら敬意を払われていた。

岩塩鉱


 独角の頭・ヴァンは、カシュナ河畔の戦いに破れ、奴隷として、アカファ地方にある岩塩鉱で鎖につながれて働かされていた。岩塩鉱が突然、黒狼に襲われた。岩塩鉱にいた奴隷や奴隷監督たちが、ヴァンと、母親によって竈の中に隠されていた幼女の2人を除き、全員が黒狼に咬まれるなどして黒狼熱を発病して死ぬという事件が起こった。生き残ったヴァンは黒狼に咬まれており、幼女も黒狼に傷を付けられていたが、発病しなかった。

 ヴァンは幼女を連れて岩塩鉱から逃げた。森で、足を怪我して倒れていたオキ氏族のトマに遭遇する。トマの一族は、2つの家族がわずか15頭のトナカイにすがって生きる貧しい一家。ヴァンは、トマの家族に身を寄せた。トマの祖母・マンヤから幼女の名前を聞かれ、ヴァンはとっさに「ユナ(鮎)」と答えた。トマの一族の元で、ユナは育ち、「おちゃん!(お父さん)」と言って、おぼつかない足取りでヴァンに飛びついてくるようになった。

 トマの父・オゥマや、叔父・ヨキらはヴァンを警戒していたが、東乎瑠帝国が飛鹿の飼育・繁殖に成功すれば免税するという方針を打ち出していたため、トマの一族は飛鹿を飼い始めていた。しかし、飛鹿の飼育は難しかった。慣れない飛鹿の飼育に苦労しているところ、ヴァンから飛鹿の特性を教えられ、心を通わせて行った。ヴァンは、トマや、東乎瑠人であるトマの母・季耶(きや)の3人の甥っ子・未野(みの)、智陀(ちだ)、茂来(もき)たちに、飛鹿の飼い方を教えた。

アカファの呪い


 秋に、アカファ王が、アカファ地方を収める東乎瑠の領主・王幡候を招いて、鷹の御前狩りを行った。突然、黒い犬たちが襲い掛かって来て、不自然な仕草で、駆け去って行った。何者かに操られた猟犬の動きだった。

 黒い犬に咬まれた主だった者は、アカファ王の姪スルミナ、アカファ王の甥・マザイ、マザイの長男イザム、王幡候の長男・ウ多瑠(ウタル)、緒利武(オリム)がいた。緒利武は、王幡候の次男・与多瑠(ヨタル)と与多瑠の妻でアカファ王の姪スルミナの間の子。

 ウ多瑠は、ホッサルによる治療を拒否し、黒狼熱を発病して死んだ。スルミナと緒利武には、与多瑠の意向でホッサルによる治療が行われた。マザイと、イザムにも、アカファ王の意向でホッサルによる治療が行われた。

 黒狼熱の発病が始まり、ウ多瑠をはじめ、黒い犬に咬まれた東乎瑠人たちが、次々と死んでいった。ホッサルの治療を受けたマザイ、イザム、スルミナ、緒利武も発病したが、一命を取り留めた。

 東乎瑠帝国は支配地民を別の地域に移住させる政策をとっていた。アカファ地方南部のユカタ平原には広大な草地があり、火を思わせる赤毛の良馬「アカファの火馬」が育ったが、アカファの火馬の種馬と牧草地は東乎瑠に接収された。ユカタ平原に住んでいた「火馬の民」は、ユカタ平原を追われ、ユカタ山地民の土地に身を寄せたり、商隊の馬飼いになった者もいたが、都市での暮らしを嫌い北西の高地に流れ、慣れない場所で細々と暮らす者も多かった。

 ユカタ平原は現在、東乎瑠から連れてこられた牧羊民たちの放牧地に変わっている。ユカタ平原には多くの羊が放たれ、豆や黒麦の畑が作られた。あるとき、毒穂が付きやすい黒麦を食べた火馬が相次いで死ぬということが起こり、激怒した火馬の民が移住民の村を焼き討ちするという事件が起こった。東乎瑠軍が動き、事件を起こした火馬の民を討伐した。

 交易都市カザンは、かつてはアカファ王国の王都で、現在は、東乎瑠帝国の属州領主の王幡候が治めている。カザンの街で、黒狼熱の復活は、領土を蹂躙された「アカファの呪い」だとささやかれた。

ホッサルと、オタワル医療


 ホッサル=ユグラウル(26歳)は、古オタワル王国の始祖の血を引く「聖なる人々」の1人。15歳でオタワルの「深学院」の助教を務め、現在は、医学院の主幹。3歳年上で平民出身のオタワル人の内縁の妻・ミラルとともに、医術の発展に身を捧げている。ホッサルは、祖父・リムエッルの助手として、東乎瑠皇帝の妃を恐ろしい死病から救った。

 清心教を信じる東乎瑠の祭司医は、ホッサルたちのオタワル医術を認めなかった。ウ多瑠も、ホッサルによって「犬の病素から作った薬」を注射されることを拒んだ。

 祭司医たちが救いたいと願っているのは「命」ではなく「魂」という。ホッサルに理解を示す祭司医の呂那は、「命あるものはみな、いずれ必ず死にまする。大切なのは、与えられた命をいかに生きるかであって、長短ではござりませぬ。穢れた身で長らえるより、清らかな生を心安らかに全うできるよう、私共祭司医は微力を尽くしているのでござりまする」とホッサルに伝える。ホッサルは、「オタワル医術と、清心教医術は、根っこから、すれ違っている」と愕然とする。

 一方で、鷹の御前狩りの際に黒狼に襲われた東乎瑠人の鷹匠が息を引き取った際、呂那の弟子で祭司医の真那は、泣き崩れる鷹匠の妻子にそっと近寄り、「苦しい最期であられましたが、天の神はあの苦しみを見ておられました」、「おつらいでしょう。しかし、頑張って、よく生きて下さい」、「やがて、天上にて、御夫君と、いま一度抱き合うときが訪れます。それまでの辛抱です。どうか、よく生きてください」などと静かに声を掛けた。妻子は声をあげて泣いたが、「その泣き声は、しかし、さっきまでとは違う、どこか、解き放たれたような、ほっとしたものを感じさせる泣き方だった」。命を救われたことがきっかけでホッサルに仕えているマコウカン(ユカタ山地民で、「奥仕え」の家系生まれ)は、その様子を見て、「人の力では及ばぬところへ来たときは、祭司医の方が、人を救えるのかもしれない」と思った。

アカファの跡追い狩人・モルファ氏族


 モルファ氏族は、「アカファ王の網」や「アカファの跡追い狩人」とも呼ばれ、北のオキ地方や南東の山地と森が広がる地域でトナカイの放牧と狩猟採集で暮らす。驚異的な跡追いの技を持ち、アカファ王の命に従い、野盗や敵の間諜などを捉えることを代々の任務とした。モルファ氏族の子どもは、男女を問わず、やっと歩けるようになった頃から「暮れ」と呼ばれる老狩人に連れられて山に入り、山で生きる術を教えられる。狩人に向いていると思われる子は「山のモルファ」となり、牧人に向いていると思われた子は「草原のモルファ」となる。女子は年ごろになれば、モルファの男に嫁ぐ。

 アカファ王国が東乎瑠帝国に下った後は、モルファも東乎瑠帝国に仕え、もっぱら逃亡奴隷を追わされていた。モルファ氏族は、東乎瑠に仕えるとともに、オタワル聖領にも、密かに仕えていた。

 モルファ氏族の頭は、70歳を超えたマルジ。マルジの長男は病を患っており、次男は死んだ。三男は“それなりに有能”という器。マルジの子どもで一番優秀な「狩人」は、長女のサエだった。サエは、32、3歳。一度嫁いだものの子宝に恵まれずに、マルジの家に戻って来ていた。サエの跡追いの技術は、全盛期のマルジにも勝ると言われている。

 「アカファの生き字引」、「アカファ王の懐刀」と言われるアカファ王国の実力者トゥーリムは、東乎瑠に支配権を奪われるまでは岩塩鉱の監督長を務めていた。トゥーリムは、ホッサルとマコウカンを伴い、冬の間は無数にある候補地の中から居住地を決め、仲間にだけ分かる印と、罠を張り巡らせて、獣道の奥で暮らしているモルファの村を訪れた。サエに、岩塩鉱から逃げたヴァンの跡を追うことを依頼した。

鹿の王の読書感想文


 「鹿の王」のストーリーはここから本格的に始まり、さらに色々なキャラクターが登場するのですが、感想に移りたいと思います。

 「鹿の王」を読み終えて、「生きる」ということについて考えました。

 これまで、小説を読んだ後は、人間はなぜ生きるのか、とか、人間はどう生きるべきなのか、などと考えていました。そう思った背景には、「生まれる」という現象に対して、そもそも人間は自分が生まれたくて生まれるわけではなく、生まれる環境も自分では選べないため、「生まれる」ということは、もうこれはどうしようもないことで、受け入れるしかない現象だと思っていたことがあります。

 ただ、「鹿の王」の世界では、死は肉体が滅びるだけのことで、肉体が滅びても命と呼ばれるものには別の旅が始まると考えられていました。

 そして、一番考えさせられたのは、ヴァンが人間としての意識を失い黒狼に乗っ取られそうになる瞬間に、人間を噛みたくなる衝動に駆られていたことでした。ヴァンは、それを、生きたい、繁殖したいという、黒狼熱の菌たちの本能だと感じていました。

 この場面を読んで、命が生きるということは、なぜ生きるのかとか、どう生きるのかという理屈では割り切れないものなのかもしれないと思いました。また、自分は今まで、命や生命というものを考えるときに人間の命や生命のことしか考えておらず、もっと言えば、自分の命や人生のことしか考えていなかったのだと思いました。

 「鹿の王」を読むまでは、人間は死んだら終わりだと思っていました。ただ、「鹿の王」を読んで、人間が死ねばもちろん肉体は滅びますが、種族や始原などという部分では、死んだらそれで終わりというわけではないのかもしれないと思いました。魂というものについても、もしかしたら、自分が知らないだけで、肉体の消滅や個体の寿命などというものとは別に、もっと、繋がったり、続いて行ったりするものなのかもしれないと思いました。


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