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映画「甘い鞭」壇蜜のあらすじと感想(ネタバレ)

2013年9月27日 竹内みちまろ 参照回数:

甘い鞭のあらすじ


 32歳の奈緒子は、昼は女医、夜はSMクラブのM嬢という2つの顔を持っていました。父親は既に亡くなり、57歳の母親は末期がんでホスピスに入所しています。奈緒子は、見舞いのついでに母親の病室を更衣室代わりに使っており、昏睡状態の母親の横で、薄化粧を落として夜の顔になり、派手なM嬢の下着に着替え、「お仕事、行ってきま〜す、お母さん!」と心の中で語りかけます。

 奈緒子は17歳の時に隣家の一人暮らしの男に拉致され、1か月に渡り、地下室で陵辱を受けました。男から奪った果物ナイフで男を刺して逃げます。しかし、母親は、家に逃げ込んできた、血だらけ、アザだらけで、手錠をはめられた全裸の奈緒子を最初は誰だか分かりませんでした。奈緒子だと分かると、“おぞましいもの”“けがらわしいもの”を見る目つきで「奈緒子なの、あなた1か月どこにいたの! どういうこと!」と怒鳴り散らしてしまいました。母親が抱きしめてくれると思っていた奈緒子の心は死んでしまいました。

 映画「甘い鞭」のストーリーは、醍醐という上客の命令で、ベッドに縛り付けたSMクラブの社長でS嬢の木下を、奈緒子が SM用ではなく本物の鞭で身体にみみず腫れができるまで打ち続けることによって展開します。最初は怯えていた奈緒子も、木下が悶絶しながら懇願するうちに、木下と、地下室でベッドに縛り付けられ男からベルトで打たれ続けた17歳の奈緒子とが重なり、冷酷な顔つきになっていきます。奈緒子は、木下を、気を失うまで鞭で打ち続けました。

 プレイが終わると、木下は、奈緒子をクビにはせず、真性のSの男の相手をするように依頼します。真性のSの男は気が狂っており、前日もプレイを超えてM嬢を一人半殺しにしていました。客の命令とはいえ、奈緒子に鞭打たれたことに腹を立てていた木下は、真性のSと真性のMなら面白い、と鼻をくくっています。

 一方、奈緒子は、ホスピスの上田看護師からの電話で、母親が、明日が明後日には死ぬだろうことを伝えられていました。奈緒子は、母親には面会に行かず、木下からの依頼を受けます。「明日か明後日、母が死ぬ。だから私は、真性サディストに会いに行く」

甘い鞭の感想(ネタバレ)


 「甘い鞭」は、見終わって、脚本と監督を担当した石井隆監督の人類への深い愛を感じました。

 地下室に監禁されていた奈緒子が、果物ナイフを盗んだことにより、男から「おしおき」を受ける場面がありました。男は、「裏切った罰」として、奈緒子をベッドに縛り付け、ベルトで力いっぱい打ちまくります。奈緒子は何でもするからやめてと懇願しますが、男は、奈緒子の「裏切り」を許しませんでした。しかし、痛みにのたうち回るうちに、奈緒子に変化が起きます。ベルトで打たれるたびに奈緒子は身悶えし、やがて、恍惚の表情を浮かべ始めたのでした。「おしおき」としてやっているにも関わらず、ベルトで打たれて感じ始めた奈緒子を見て、男は逆上し、さらに打ち続けます。

 32歳の奈緒子は、周りからは真性のMと見られていて、奈緒子自身も、顧客から「お前、真性のM何だって」と聞かれ、「たぶん、そうだと思います」と返事をしていました。責められて快感を感じてしまうのは、いい悪いの問題ではなく、もう、そういった性癖を持っているとしかいえないことだと思いますが、17歳の奈緒子が、もともと、そういった性癖を持っていたのかどうかはわかりません。しかし、奈緒子がMという性癖に気がつく、あるいはMという性癖が表に出るキッカケを作ったのは監禁犯の男のです。もちろん、男の理不尽な暴力は許されるものではなく、奈緒子自身も許していません。男を憐れむことはありますが同情もしませんし、特集の心理で懐かしがったりもしませんし、男を殺したことに罪悪感を持っていません。しかし、それとは別の次元の現象として、男に陵辱され、男を殺して逃げ出し、母親から拒絶されたことで、奈緒子の身体は変わってしまっていました。

 印象に残っている場面があります。夜、都内の自宅高層マンションで、ワインを飲んでいる32歳の奈緒子が、ガラス窓の向こうに、母親に拒絶された17歳のボロボロの奈緒子の姿を見ます。32歳の奈緒子は、ガラス窓に見える17歳の奈緒子を指でなぞります。32歳の奈緒子が、17歳の奈緒子を、別人として見ていることが印象的でした。セリカというM嬢に変身することで、奈緒子は、奈緒子でなくなり、17歳の奈緒子を別人として見るということはあると思いますが、32歳の奈緒子も、17歳の奈緒子を別人として見ていたことが印象的です。

 「甘い鞭」は、ラストシーンが衝撃でした。「もうひとりいる」と奈緒子がつぶやいたとき、思わず、ほかに誰かがいることなどありえないだろう、と心の中でつぶやいてしまいました。でも、本当にいました。それがわかったとき、身の毛のよだつ感覚を覚えました。奈緒子を拉致した男も、気が狂った真性のSの男も、奈緒子とは無縁の外部世界からやってきた理不尽な暴力だったと片付けることが可能です。奈緒子の父親の態度も、お母さんが17歳の奈緒子を抱き締めてあげることができなかったことも、いい悪いの問題ではなく、しかたのないことかもしれません。しかし、「もうひとり」は違う。32歳の奈緒子は、奈緒子自身の存在の根源にかかわる内部世界から生み出された明確な憎しみを持っていました。これじゃ、人間として終わりです。石井監督という人間は、どこまで奈緒子を不幸にすれば気が済むのだ! などと怒りすら覚えました。しかし、石井監督は鬼ではありませんでした。それどころか、想像も付かない手腕で、人類に対する深い愛を見せてくれました。

 映画を見てこんなに感動したのは久しぶりです。「甘い鞭」はすばらしい作品でした。


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