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赤×ピンク/桜庭一樹あらすじと読書感想文

2013年12月14日 竹内みちまろ 参照回数:

赤×ピンクのあらすじ(ネタバレ)


 六本木の裏通りの奥で、廃校になった小学校の建物を利用して、夜な夜な店を開くショーパブ『ガールズブラッド』。かがり火がたかれた中庭では、金網リングの中で、手錠をつながれた女たちが雄叫びをあげます。「キャットファイト」(女どうしの闘い)を見せる場所で、入場料1万円。手錠につながれたままの女の子を指名し、席に呼ぶこともできます。

 高山真由(21歳)は昼はコンビニでアルバイトをし、半年前から『ガールズブラッド』のリングに立っていました。真由は地方都市の高校を卒業後に上京し、短大での最初の夏休み以来一度も実家に帰っていません。会社を辞めたことを知らない親は、「たまには電話しなさい。とくに用はない。母さんは元気だ」などと留守番電話にメッセージを残します。

 そんな真由は躁鬱の起伏が激しい女の子。自覚はありませんが、ある日、ふと死んでしまうのではないかと、つい周りの人間たちを心配させてしまうもろさをまとっています。『ガールズブラッド』の女の子たちが水着、セーラー服、暴走族風の白ラン、女王様のボンテージなど様々な衣装で闘志むき出しで闘うキャットファイト(女の子どうしの格闘)で、真由は、「まゆ十四歳」(指名料:3000円)という名前でリングに立ちます。フリルのついたピンクのウェイトレス姿で、頭にはティアラの形をしたレースの髪飾り。元自衛官、柔道有段者、空手でインターハイ出場経験があり性同一性障害を持つといった屈強な大女たちから、死に物狂いで逃げ回ります。必死で反撃のハイキックを繰り出しますが、あっさりと交わされて、立ち足を取られてそのまま金網に力いっぱい投げ飛ばされます。

 月に一度の泥レスナイトで真由と対戦した、身長167センチで、ウェスト56センチのSMクラブで働く「ミーコ女王様」(指名料2000円)は、真由を「常軌を逸しているほどかわいい存在の常として、彼女の精神は常軌を逸している」と見ていますが、泥まみれになりながらも逃げまわる真由を捕まえ、なす術もなくおびえる真由を、秘めたるサディズムを爆発させてなぶったあと、とどめの平手打ちを強烈に打ち込みます。真由は気を失い、試合終了。

 ただ、オープニングパフォーマンスで女たちが檻の中で雄叫びをあげたり、フェンスにしがみついて泣いたりなど感情をむき出しにする中、真由は、リング中央で体育座りをして体を縮めています。手錠を外され、試合が始まると、救いを求めるように檻の外へ視線を向けます。真由は『ガ−ルズブラッド』では圧倒的、一番人気でした。

 真由は、中学生になる頃に弟が生まれるまで、実家で母親から虐待を受け続けていました。父親はそんな真由への虐待には無関心。真由は、『ガ−ルズブラッド』に面接に来て、八角形の金網の檻を見たとき、檻に入れられていた実家での日々を思い出します。同時に、ここしかないと思います。「わたしは、愛されたい。誰かを愛したい。だけど、苦しい」「こんなに寂しくて、悲しくて、愛されたいのに、そのための入り口はなぜか、わたしの体の“格闘”っていう部分にしか開かれていない」と苦しみます。

 そんな真由の物語をキッカケとし、ミーコや、「空手少女、皐月」(指名料2500円)の物語が揺らぎ始めます。

赤×ピンクの読書感想文(ネタバレ)


 『赤×ピンク』で描かれていたものは、ストーリーというよりは、問題を抱えつつ、かつ、誰も何も教えてくれずに、導いてくれる人もなく、それでも独りで生きていかなければならない孤立無援の女の子たちの風景だと思いました。

 真由は、自分では自覚していないもろさでつい年下の女王様すらも身を乗り出して心配させてしまうという天然。親を恨んだり、不幸な生い立ちを吹聴して自虐的に自らを慰めたりするようなことはしませんが、しかし、一度も助けようとすらしなかった父親のことばかりを考えています。「わたしを檻から出して、黙って頭を撫でてほしかった」と、もうどうにもならない過去にばかりこだわります。

 真由は「過去」を向いて生きていました。そんな真由が見つけた「現在」が、『ガ−ルズブラッド』なのだと思いました。真由はリングで闘うため道場に通い、『ガ−ルズブラッド』に集まる人々が格闘技に見せられてしまっていることを本能的に感じとります。試合運びや運営については、大人が考えることだよといいますが、スピードを身につけて小柄な体格を生かす戦い方をしたらというアドバイスを、仲間からの愛の行動だからと、どんなに疲れていてもノートを出してメモをしておく誠実さを持っています。

 真由と同じように、「ミーコ女王様」こと山辺美子(ミコ・19歳)や、「空手少女、皐月」こと天王寺皐月(19歳)も後ろ向きに生きています。『赤×ピンク』は、真由、美子、皐月の3人を主人公とする短編が収録されていますが、職業もフリーター(美子も現在は真正のSではない)で似たような家庭の問題を抱える3人が、『ガ−ルズブラッド』にやってきて、リングの上で一夜だけのフィクションの世界を毎晩、作り上げるという設定はほぼ同じです。

 でも、3人が持つ発想と思考回路は、ぜんぜん違っていました。真由は純粋で他人の目を気にするという発想をもっていません。美子は逆に他人の目だけを気にして自分を持っていません。2人とはちがって家族から愛されている皐月はそれでも家族に黙って家を出ていました。そんな個性のまったく違うキャラクターたちが、それぞれに、自分のやるべきことを見つけていくという同じ方向に進んでいきます。そこに、ことDV夫から逃げてきた「上海娘・リリーちゃん」こと人妻の安藤千夏が加わります。

 「赤×ピンク」で描かれていたものは、自分探しではなく、何者かになるべく一歩前に進み始める女の子たちの後ろ姿だと思いました。

 真由は愛される存在になりたいという本能(エモーション)を持っています。美子は、格闘技がやりたいという強烈な情熱(パッション)を持つ千夏と闘ったことにより、自分がやるべきことはSMではなく、格闘技だと感じ、すぐにSMクラブを止めました。皐月は、「家に帰らなくてはいけない」「人生をやりなおさなくてはいけない」「言えなかったことを、言わなくてはいけないんだ……」と自分自身に使命(ミッション)を課しました。

 「赤×ピンク」は、短編の連作でしたが、それぞれの物語をもっと長編で読みたい、あるいは、「ガールズブラッド」に集まるもっとたくさんの女の子たちの物語が読みたいと思いました。


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