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ユダ/立花胡桃あらすじと読書感想文

2012年12月26日 竹内みちまろ 参照回数:

ユダのあらすじ(ネタバレ)


 4月から週4日で埼玉県春日部市の実家から都内の専門学校へ通い始めた絵里香は、大宮駅のロータリーで、おしゃべりと化粧にあけくれる女子高校生や、合コンの話に笑顔を作るサラリーマンたちを、しらけた表情で眺めていました。専門学校は、「ジュエリーデザイナー」という響きに憧れて入学しただけで、高校生の時につき合っていた同級生の大輔の子どもを中絶した絵里香は、「自分を苦しめた男達に復讐してやるんだ」という思いを持っていました。

 絵里香は、後ろから肩を叩かれます。キャバクラ「ダリア」の新海店長から「良かったら働いてみないかな〜って」と声を掛けられます。絵里香は援助交際をする友だちを軽蔑し、「5万でどう?」と言われても「死ねっ! エロじじぃ!」と捨てせりふを吐いて立ち去る女の子でした。が、「男を手玉に取って、大金が手に入る。こんなに都合の良い仕事は他に思い当たらない」と思い、4時間の体験入店で2万円を手にします。翌日、1年半アルバイトを続けてきた時給800円のカレー屋をやめ、目力があるからと新海がつけた「瞳」という源氏名で、火曜日から土曜日の週5で働くことにしました。新海の指導もあり、2か月で「ダリア」のトップキャストになり、月収100万を実現します。絵里香は自分の部屋に鍵をかけ、給料袋ごと万札をベッドの上にまき散らしました。

 「ダリア」では、他のキャストから衣装をゴミ箱へ突っ込まれるなどの嫌がらせを受けますが、「あいつらを必ず見返してやる」と誓いを立てます。「ベートーベン」にそっくりのチリチリパーマの38歳のIT会社社員をぞっこんにさせ、瞳が入店するまでナンバーワンだったキャストから、「ダリア」で一番お金を使う「花沢社長」を奪うなどし、トップに君臨します。しかし、絵里香は「私の中に私がいる」と感じ始めるようになります。その「私の中の私」が、「くだらないね」と、絵里香に語りかけるようになりました。絵里香は、どちらの自分も自分であり、同時に、他人だと感じます。「売上が上がるほどに心が空白になっていく気」がしました。

 「水野社長」と大宮で北京ダックと上海蟹とマンゴープリンを食べ、同伴出勤するために大宮のロータリーを抜けて「ダリア」へ向かうと、青ざめた顔の社交ダンス講師の父・孝雄がいました。絵里香は、逃げるように「ダリア」へ駆け込みますが、家に帰ると、扉には内カギがかかっており、小学校教師の母・多栄子の達筆な「援助交際する子は家の子じゃありません」という手紙がドアの前に置かれていました。

 絵里香は、両立が難しくなった専門学校を止め、新海が探してくれたアパートから出勤するようになりました。しかし、絵里香に金を使い込んだ客の男から襲われそうになり、また、ソファとテーブル席が12卓にテレビとカラオケがあるだけの「ダリア」を手狭に感じるようにもなっていました。

 新海に店を辞めたいと相談すると、「思いっきりヤクザじゃん」という社長から「とにかく瞳はダリアに必要なんだから!」と引きとめられます。絵里香は「ダリア」の黒服の将と共に店をバックレて、12月から、将の紹介のスカウトマンのツテで、「ダリア」からほど近い「ルージュ」で働き始めます。破格の待遇を約束されての入店でした。

 絵里香は、店側の期待どおり、「ルージュ」でもナンバーワンになります。将とはつき合い始めていましたが、絵里香は、毎日店に通い絵里香のためにお金を使う将を「可哀想」と思うようになります。ただ、「私の中の私」は、売上が伸びて喜びます。絵里香は、「私の中の私」の声に実権を握られる自分を感じ、「たまに自分が誰だかわからなく」なります。絵里香は、「ルージュ」では、初日から女王として振る舞い、絵里香の前のナンバーワン「胡桃」を除いて、キャストからは誰からも話し掛けられず、目も合わせてもらえませんでした。

 将からは「結婚しよう! 二人の子供を作ろう」と言われます。しかし、絵里香の移籍金を着服している将はプロの詐欺師でした。「私の中の私」は、「ほらごらん! 男なんか皆同じ」「もう誰も信じるな! 男を憎め! 金を奪え!」とささやくようになります。絵里香は、「本当だね」と答えざるを得ませんでした。

 「ルージュ」の「胡桃」にあこがれていた絵里香は、「胡桃」と源氏名を変え、店も変えました。「会社をとうとうクビになったよ」という「ベートーベン」に、「借りちゃえばいいじゃん」と無邪気な笑顔を向けます。「ベートーベン」の汗ばんだ手を繋いで、駅前のキャッシュローンへ向かいました。

 絵里香は、春日部の「チップス」を前月に止め、歌舞伎町の「エデン」で働いている山岡から「大宮なんかで腐ってないで歌舞伎町おいでよ」と誘われます。新宿に初めて降りた絵里香へ、「私の中の私」が「喰うか喰われるか」とつぶやきます、「――どうせなら喰ってやる」。「No.2なんてビリッケツと変わらない」という絵里香は、「美々」からナンバーワンの座を奪うため、客の冴木に「枕営業」をすることを決意します。「胡桃」の伝説が始まりました。

 『ユダ』のストーリーは、ここからが本番なのですが、感想へ移りたいと思います。

ユダ/立花胡桃の読書感想文


 『ユダ』を読み終えて、ナンバーワンでなくては気が済まない絵里香のエネルギーの原動力は何なのだろうと思いました。絵里香は一番になるとその店を辞め、次のライバルがいる店へ行き、そこでも一番になります。もちろんトラブルが起きて辞めざるを得なかった店もありますが、ナンバーワンになっては、次々と店を渡り歩く絵里香は、何かに追われているようでもありました。

 また、絵里香は買い物依存症になって受注生産の家具に現金500万円を一気に支払ったりするようになるまでは、100万、200万と増え続ける月給をそのまま貯金していました。ペイオフ対策で1000万円までしか預けない銀行の通帳が2冊、3冊と増えていきます。特に欲しい物があるわけでもなく、復讐から始めた水商売ですが、水商売がいつのまにか自身の存在証明のようになっていた姿が印象的でした。

 絵里香の中で、寂しがり屋な「私」、非情で計算高い「私の中の私」、そして、それら2人の葛藤を冷めた目で見つめる「自分」がいました。3つの「私」が入りまじり、人格がどんどん空っぽになっていきます。ただ、何百万円もかけて整えた部屋が、刑務所へ入った大野の部屋にそっくりで、涙をこぼす場面は悲しかったです。

 絵里香は必死になって生きようと思っているのだと思いました。過食症になり、吐き過ぎでのどが切れて真っ赤になった便器を見つめ、「――私、幸せになりたいだけなのに」と無性に泣く場面も、大学受験に失敗して2年間も引きこもりになっていた弟の部屋のドアの横の壁に背中をつけて「今までお姉ちゃんらしいこと何もしてあげられなくて……ごめんね」とあやまる場面も悲しく、「女ヤクザ」「あの女は悪魔だよ」と陰口をたたかれながらも客を自分へ依存させていく姿は、孤独でもありました。

 絵里香は、自分しか信じることができない人間、あるいは、自分にしか興味が持てない人間なのかもしれないと思いました。言葉を替えれば、自分のことで精いっぱいの純粋すぎる女の子。目的がお金だったり、男だったり、復習であり続けていたら、「胡桃」の伝説は生まれなかったのではないかと思いました。

あとがき


 『ユダ』は、キャバクラの世界が垣間見えて、その点でも興味深かったです。

 キャバ嬢同士が、「てめえ、人の客に営業してんじゃねえよ!」「てめえ、シカトしてんじゃねーよ!」「勝手に暴走してふざけんじゃねえよ、ババア! 自分が客に愛想尽かされたからって!」と戦う場面は圧巻でした。

 また、ダンスシューズに画鋲を仕込まれたり、子どもを中絶した相手の男から「別れるとか、てめえ調子乗ってんじゃねぇぞこら!」と、息が乱れるまでの数10分間、髪の毛を掴まれて勢いよく壁に叩きつけられたり、蹴り飛ばし、叩きつけ、突き飛ばしの暴行を加えられる場面も読みごたえがありました。(それでも拳で顔を殴らないのは、殴る方も、殴られる方も、お互いにプロだから?)

 復讐という目的を達成する手段として始めた水商売ですが、水商売自体が目的になっていた時期も劇的で、初めのころは、強引な営業で客に店へ通わせる習慣を植え付けていた絵里香ですが、終わりの頃には、誘うことは控えめで、それよりも相手を楽しませる空気を作り、相手を喜ばせることに徹していました。しかし、それだけで、客のほうから、例え「あの女は悪魔だよ」と周りから忠告を受けても、その注目を振りきって、勝手に通ってくるようになっていた様子も、深いものがありました。

 作中、絵里香が無理をして高いマンションを借りるさい、自分が夢を見ることができなければ人に夢を見させることはできないという言葉をかみ締めていたことが印象的です。自分が幸せになりたいと思っていなければ、相手を幸せにすることもできず、絵里香がナンバーワンであり続けたのは、キャバ嬢としての「胡桃」が魅力的だったからというよりは、人間としての絵里香が誰よりも幸せになりたいと願っていたからではないかと思いました。


→ 映画「ユダ」水崎綾女のあらすじと感想


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