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「ダフニスとクロエー」のあらすじと読書感想文

2006年10月22日 竹内みちまろ 参照回数:


「ダフニスとクロエー」(ロンゴス/松平千秋訳/岩波書店の「普及版」)という物語をご紹介します。

 「ダフニスとクロエー」の序は「レンボスの島で狩をしていたわたしは、ニンフの森でこれまで目にしたこともない、世にも美しいものを見た。それは一枚の絵に描いた、ある恋の物語であった」という文ではじまります。わたしは絵解きをしてくれる人物を探し出して一枚の絵を4巻の物語にまとめました。

 本編は、牧歌的な島でくりひろげられる少年と少女の淡い恋物語でした。村が海賊に襲われたり、少女が隣国の船にさらわれたり、領主によって2人の仲が引き裂かれようとしたりします。ヤギとヒツジの乳を飲んで育った捨て子の2人が最後には結ばれるという物語です。幼い2人は、お互いの胸を焦がす苦しみが恋の病だということに気がつきません。2人は、なんでこんなに体が熱いのだろうと苦しみます。歌を歌っても、おいしいものを食べても、家族といっしょに過ごしても心は満たされません。むしろ、苦しくなるばかりです。幼い2人は、接吻をして、腕をお互いの背中に回せばその苦しみからすこしだけ解放されることを知りました。でも、それ以上のことはなにも知りませんでした。そんな2人が恋の苦しみを満たすほんとうの喜びを知る物語です。

 物語の舞台となっているのはエーゲ海に浮かぶ島のようです。

 少年の養父は貧しい農奴でした。少女の家も独立農民ではないように思えました。2人は、ヤギとヒツジを追いながら兄妹のようにして育ちます。2人が結ばれるキッカケをつくったのは公正で領民から尊敬されている封建領主でした。時代的にはヨーロッパの中世でしょうか。しかし、アテネやローマなら話は別ですが、交易路を通って年に一回だけ異国船が来るような辺境の島では、人々は島の中が世界の全てのような生活をしていたように思えます。ニンフのほこらに奉げものをして、日が暮れるまで歌って踊って、夜になれば、みんなでほこらで寝て過ごす話が「ダフニスとクロエー」で語られていました。もちろん電気なんかありません。ルネッサンスと宗教改革と資本主義の発展が近代的な「個人」というものを作りだしたキッカケになるように思えます。誤解を恐れずに言うと、「個人」とは、「自分はいかに生きるべきか」、「自分はなにをなすべきか」、「世界はどうあるべきか」などと悩む人たちではないかと思います。「ダフニスとクロエー」で語られる人々はそんな悩みとは無縁の世界を生きていました。

 「ダフニスとクロエー」では印象に残っている場面があります。クロエーに接吻をして抱き合っても心が満たされないことに悩むダフニスに、村の女が、ほんとうの喜びを知るための手ほどきをする場面がありました。ダフニスは、女に導かれるままに、春を迎えたヤギやヒツジがやっていることと同じことを経験しました。女は、クロエーとするときには相手が痛みのあまり叫ぶだろうことや血が出ても怪我をしたわけではないことを十分に言い聞かせます。でも、ダフニスは、恥ずかしくて、クロエーと2人きりになっても、そのことをしたいと言い出せませんでした。そんな2人は、夢に現れたニンフに導かれて自然のままに結ばれます。

 「ダフニスとクロエー」には、恋の神が登場します。翻訳では「エロース」という名前でした。「ダフニスとクロエー」は、誤解を恐れずに言えば、少年と少女が性行為をするまでにいたる物語です。しかし、「ダフニスとクロエー」には、「エロさ」はありませんでした。素朴に生きる2人は本能に導かれて自然のままに体をあわせます。

 「ダフニスとクロエー」を読み終えて、「エロさ」というものは、文明社会が作り出した概念なのかもしれないと思いました。資本主義経済は、利潤をあげ続けるための需要を常に作り出す必要があります。「エロさ」という概念を作り出して、「エロさ」をあの手この手をつかって人々の心に刷り込んで、そのうえで対価と引き換えに手渡す「エロい」商品やサービスを供給します。いい悪いは別にして、日本経済はセックス産業なくしては成り立たないレベルになっていると思います。電気機器メーカーは、ビデオデッキの販売で収益をあげました。誰も口にだしては言わないのかもしれませんが、アダルトビデオには頭があがらないのだろうと思います。もし、「エロい」商品やサービスの製造と販売の全てが即時に禁止されれば、印刷、製紙、不動産、電気機器、精密機械、リースなど、日本経済を支えるさまざまな業種が大混乱に陥るのではないかと思います。

 「必要悪」という言葉がありますが、本能というものは、そもそもがそこにあるもので、自然のままに存在する現象でしかありません。それに屁理屈をつけて、「必要」だどうだとか言って、「善」にするのも「悪」にするのも人間の心なのかもしれないと思いました。

 文明社会に産み落とされて、文明社会のなかで生きるしか選択肢のない私たちにとっては、「ダフニスとクロエー」に描かれていたのは、帰りたいけど帰れない世界ではないかと思いました。


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