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ミニシアター通信 > あらすじ&読書感想文2 > ノルウェイの森/レイコについて

ノルウェイの森|レイコについて

2011年9月4日 竹内みちまろ 参照回数:


 今回は、レイコについて考えてみたいと思います。

 小説『ノルウェイの森』の主人公ワタナベは、東京で、神戸の高校時代の同級生・直子と再会しました。2人は結ばれますが、直子はワタナベに何も言わずにアパートを引き払いました。精神が不安定になっていた直子は、京都の療養施設である阿美寮に入所しました。ワタナベは直子に会うために阿美寮に行きます。

 レイコは、その阿美寮の入所者でした。ワタナベはレイコのことを「とても不思議な感じのする女性」と表現しています。レイコの顔にあるしわによってかえって年齢を超越した若々しさが強調されていたそうです。レイコは、入所者であると同時に、先輩として、直子の世話係のような役目を果たしていました。

 阿美寮は、レイコによると、治療をする場所ではなく療養をする場所とのことです。入所者は自発的に入って、自発的に出て行きます。テレビも、ラジオもなく、ほとんど自給自足で暮らし、専門的な治療が必要な人は別の病院へ行くといいます。

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 小説『ノルウェイの森』の中でも印象的な登場人物であるレイコ。そのレイコで一番インパクトが強かったのは、7年も阿美寮にいるというレイコがワタナベに話した、レイコ自身の話の内容でした。

 レイコは、コンサート・ピアニストを目指し、音大の成績は常にトップ、周囲もその才能を認めていました。しかし、音大4年の時に、コンクールの前に急に左手の小指が動かなくなりました。医者に診せても異常はないと言われ、精神科ではストレスではないかという曖昧な回答しかもらえませんでした。けっきょく、コンクールはキャンセルして、コンサート・ピアニストの夢は終わりました。

 レイコは、音大をなんとか卒業し、ピアノ教師になって、生徒として通っていた男性と25歳の時に結婚しました。そして、31歳のときに「すごく奇妙なことがあった」。当時、レイコは、子どもが幼稚園に入り、誰のためでもなく、自分のためにピアノを弾くようになっていました。ある日、周辺に住む、道で会えばあいさつをする程度の顔見知りの女性がレイコを訪ねて来て、その女性の13歳の娘がレイコにピアノを習いたがっていると切り出してきました。

 「しょっちゅう先生をかえる子って誰がやってもまず無理」なのでいったんは断ったのですが、母親の押しも強く、会ってみると、「相手が若くて美しいんで、それに圧倒されちゃって」レッスンを引き受けることにしました。しかし、「その子は病的な嘘つき」でした。

 阿美寮でワタナベにこの話をするレイコは「どうしてあの子が私を選んだのか、今でもよくわからないのよ」というくらい冷静です。しかし、レイコの話によると、生徒の子は「筋金入りのレズビアン」で、家庭がうまくいっていない、両親を愛することもできない、愛されてもいないなどと用意周到に嘘を積み重ね、「お願い。少しでいいの。私、本当に寂しいの」とレイコに迫りました。しかし、レイコは断りました。しばらくして、近所中が、レイコがレッスンに来た女の子にいたずらしようとした、レイコには精神科の入院歴がある、などの話でもちきりになしました。レイコの夫は、冗談じゃない、直談判に行く、などといきり立ちましたが、レイコは、自分たちの傷が深くなるだけと、とめました。「私にはわかっていたのよ、もう。あの子の心が病んでいるんだっていうことがね」「あの子は体の芯まで腐ってるのよ」「だいたい十三の女の子が三十すぎの女に同性愛をしかけるなんてどこの誰が信じてくれるの? 何を言ったところで、世間の人って自分の信じたいことしか信じないんだもの」。けっきょく、レイコは夫が引っ越しをしぶるあいだに、「頭のネジが外れちゃって」「睡眠薬飲んでガスひねった」。レイコは夫と離婚して、施設に来ました。

 レイコが語るエピソードを読んで、悪意、とでもいうものを感じました。そして、世の中は、といいますか人々の心は、正義とか、真実とか、恥とか、良心とかいうもので必ずしも司られているわけではないと思いました。確かに、腐っている心は、社会にはあると思います。レイコは、この子が腐っているのでどうにもならないと見定めた(あきらめた?)のかもしれません。レイコに入院歴があることや、美しい13歳の少女で大人の心を虜にする演技に長けていたことなどの状況に、さらなる(そこにこそ?)とでもいうような、悪意、も感じました。でも、それでもレイコは生きているわけで、人間が生きるということはそういうことなのかもしれないと思いました。現在のレイコの口からは、その子は「下手だけれど人を、少なくとも私を、ひきつけるものを少し持って」いたことも語られました。

 『ノルウェイの森』では、レイコは、直子の様子をワタナベに伝えるメッセンジャーの役割も果たし、直子が自殺したあとは、ワタナベを訪ねて来て、ワタナベとセックスもします。原作では、レイコとワタナベのセックスには自然な(というのもへんですが)感じがしました。でも、映画『ノルウェイの森』(2010/日本/トラン・アン・ユン監督)では、ワタナベとレイコのセックスは、レイコの再生のための儀式という感じがして、ワタナベが年配のレイコを義理で抱いたというニュアンスも感じられ、なんとなく、レイコが惨めに描かれていたような気がしました。


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