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ノルウェイの森|直子と僕

2011年9月4日 竹内みちまろ 参照回数:


 『ノルウェイの森』は構造が印象的な小説でした。そして、『ノルウェイの森』の作品世界の概要は、第1章にすべてが凝縮されていると思います。

 『ノルウェイの森』の第1章は、37歳の「僕(=ワタナベ)」が飛行機の中でビートルズの「ノルウェイの森」を聞く場面から始まり、現在の「僕」の状態や直子の記憶が短く語られます。直子との物語は、第2章から本格的に語られて、その直子との物語が、分量的にいえば、『ノルウェイの森』という小説のメインの内容になります。

 第1章で提示されている現象を何点かピックアップしてみたいと思います。

【直子について】


 37歳の「僕」は、頭の中に繰り返し思い浮かぶ18年前の風景(僕が19歳の時)から、直子と過ごした日々を思い起こします。いろいろな思いが「頭の中でぐるぐるとまわっている」直子は、「抱えている問題」を解決するために、「丁寧な言葉を選びながら」、そして、「正確な言葉を探し求めながらとてもゆっくりと話す」女性でした。そして、直子は「僕」のことを愛しておらず、直子は「僕」に「私のことをいつまでも忘れないで。私が存在していたことを覚えていて」と頼んでいました。

【僕が直子にこだわる理由】


 「僕」が直子のことに現在に至るまでこだわっている理由は、頭に思い浮かぶ18年前の風景(そこに直子はいない)が「僕」に、「起きろ、起きて理解しろ、どうして僕がまだここにいるのかというその理由を」と訴え続けているからです。「だからこそ僕はこの文章を書いている」。なぜなら、「僕は何ごとによらず文章にして書いてみないことには物事をうまく理解できないというタイプの人間」だから。

 また、現在の「僕」には、直子が「私のことをいつまでも忘れないで。私が存在していたことを覚えていて」と頼んできていた理由がわかります。それは、「僕の中で彼女に関する記憶がいつか薄らいでいくであろうということを」直子が「知っていた」からです。

 そして、「僕」は「直子との約束を守るためにはこうする以外に何の方法もない」ので、「骨でもしゃぶるような気持で僕はこの文章を書きつづけている」。

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【僕の問題と、直子との関係】


 しかし、ここでふと、疑問がわきます。「僕」は直子との約束を守るために文章を書きつづけていると言いますが、「直子との約束を守ること」がイコール「直子のことを忘れない」ことなら、なぜ、文章を書く必要があるのでしょうか。

 文脈からすると、「僕」が文章を書く理由は、「どうして僕がまだここにいるのかというその理由を」理解するためです。つまり、「僕」は「僕」のために文章を書いているわけで、決して、直子のためでも、直子との約束を守るためでもありません。

 また、「僕」は、「文章という不完全な容器に盛ることができるのは不完全な記憶や不完全な想いでしかないのだ」と語っています。直子のことを忘れないためなら、記憶が鮮明なうちに文章にしてしまえばよいわけですが、若いころに直子について書いてみようと試みましたが書けなかったことも語られます。そして、「直子に関する記憶が僕の中で薄らいでいけばいくほど、僕はより深く彼女を理解することができるようになったと思う」とも書かれています。

【現在の僕】


 直子は、「僕」を愛してはおらず、直子は「私を理解して」とは言わずに、「私を忘れないで」とだけ言いました。なぜなら、直子は、「僕」がいつかは直子のことを忘れていってしまうだろうことを知っていたからです。そう考えると、「僕」は「たまらなく哀しい」。

 そして、「僕」は、口では直子との約束を守るためといいながら、直子との約束を守るためではなくて、自分のために、直子に関する文章を書きます。

 直子に関すること(=第2章以降で語られる『ノルウェイの森』という小説のメインの内容)は、ビートルズの「ノルウェイの森」という外からの働きかけによって喚起された物語だとすれば、現在の「僕」の心の中にある本当の物語(語られるべき物語?)は、ビートルズの「ノルウェイの森」が終わり、心配して声を掛けてきたスチュワーデスに「大丈夫」と答え、機内にビリー・ジョエルの曲がかかったあとに、起こった出来事かもしれません。その時の「僕」が考えたのは、「失われた時間」「死にあるいは去っていった人々」「もう戻ることのない想い」など「これまでの人生の過程で失ってきた多くのもののこと」です。それは、直子のことも含まれるかもしれませんが、「多くのもの」といっているので、直子のことだけではないと考えてよいと思います。しかし、『ノルウェイの森』では、直子のことしか語られません。

 現在の「僕」の心の中にある物語(語られるべき物語?)は何も語られない、それが、『ノルウェイの森』という小説の構造かもしれないと思いました。


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