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果てしなき渇き/深町秋生のあらすじと読書感想文(ネタバレ)

2014年12月8日 竹内みちまろ 参照回数:

果てしなき渇きのあらすじ(ネタバレ)


 妻の浮気相手に凄惨な暴行を加えたため警察を依願退職させられた藤島秋弘のもとに、現在は離婚した元妻の桐子から、2人の間の娘で高校3年生の加奈子が家にいないとの電話が入った。

 大手の警備会社で警備や現金回収業務をこなしていた藤島は、1週間前には、警報が鳴って駆け付けたコンビニで殺されたばかりの3人の死体に出くわすという事件に遭遇していた。

 桐子から電話を受けた藤島は、桐子と言い争いになった。加奈子が中学校へ進学する際、親族が私立中学を勧めるも、警部補であった藤島の給料では学費を払えず、地方銀行の重役である桐子の父親から援助を受けることにも耐えられなかった。結局、加奈子自身が市立中学に進学する友達と離れたくないといい、私立進学の話は立ち消えに。が、そのことがあってから桐子は加奈子を放任し、父親の口利きで得た職場で浮気をし始めた。藤島自身は日々起こる事件にばかり夢中で、家庭はまったく顧みていなかった。

 電話を掛けてきた桐子に、藤島は、「加奈子がおれのところに来ると、本当に思ったのか? あいつは決しておれの味方じゃなかった」などとまくし立て、電話口の桐子もヒステリーを起こしたが、藤島はかつての我が家だったマンションへ向かった。

 藤島は、いくつかの観葉植物と写真立て、大量の文庫本などが整然と並び、少女趣味なものはまったく見当たらない無機質な加奈子の部屋に足を踏み入れる。収納ケースの隣に置かれた通学カバンの中に、男物のセカンドバックを見つけ、その中に、末端価格で軽く100万円を超す量の覚せい剤の結晶を発見。注射器、アルミのパイプなど、使い慣れた常用者の必需品一式を見つけた。元刑事の勘は加奈子は無事ではないと告げるも、再び我が家に戻れた藤島は、もう一度3人で暮らしたいとの期待を抱き、桐子に「おれに任せるんだ」と告げた。

 桐子によると、加奈子の姿は、前々日の朝、夏期講習のため予備校へ向かったきり見ていないという。藤島は、桐子からの聞き出した情報や、中学生時代のアルバムなどを手掛かりに、加奈子が交際していたという松下恵美と長野智子に会った。長野の腕を掴んで確認したところ、長野が覚せい剤の経験者であることが分かった。加奈子の小学校・中学校時代の友人である神永朱美からは、中学時代の加奈子が不良グループの遠藤那美や、現在では暴力グループ・アポカリプスのリーダーとなっている棟方泰博と交友があったことを知らされる。加奈子の部屋で写真を見つけた加奈子の中学生時代のクラスメイトでボーイフレンドの緒方誠一が中学2年の時に首つり自殺をしたことを知り、中学での加奈子の担任だった東里恵から、中学3年になってすぐの頃、加奈子が食事や睡眠もまともに取らず、不登校に陥り、その後、加奈子自身が、薬物も、棟方達との付き合いもやめると東に話したことを知った。

 藤島は、アポカリプスのアジトへ踏み込んだ。アポカリプスは、暴力団の石丸組から反感を買った棟方に対し、大方のメンバーが反旗を翻すという内部抗争中とのことで、藤島は10数人の少年や少女が凄惨なリンチを加えられた現場に出くわした。返り討ちに成功した棟方は、なおも一人の少年を取り囲んでおり、藤島は「やめろ! 警察だ」と、ただの黒い手帳を掲げて飛び出すも、警察ではないと見破られ暴行される。「おれの娘は、どこだ、どこにいる」ともらした声に、棟方は「へえ、本当に藤島の親父なのか。あんた」「てめえの親父まで使うとはな」と答え、パトカーと救急車のサイレンを聞きつけ逃げていった。

 「果てしなき渇き」のストーリーは、藤島が目撃したコンビニでの大量殺人事件をアポカリプスの犯行と見る元同僚の刑事が藤島のもとを訪れたり、怯えきって木下の家にかくまわれていた長野が何者かに殺害されたりすることで展開する。

 藤島は、加奈子が超義哲という男と組んで、売春組織を作り上げ、少女たちを恐怖や覚せい剤で支配していたという話も耳にする。内部調査を進める公安員からは、石丸組、売春組織、アポカリプス、そして、加奈子が絡んだ抗争が起きており、売春組織の顧客は売春現場の写真を撮られており、顧客の中には政治家や警察官も含まれ、そして、手先として飼われている現職の警察官も係わっていることなどを知らされる。加奈子を知る者たちは皆、加奈子は自分たちよりもずっと大人だった、誰よりも欠落が大き過ぎたなどと藤島に告げる。しかし、家庭を顧みていなかった藤島には、どんな加奈子の姿も思い浮かばなかった。

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果てしなき渇きの読書感想文(ネタバレ)


 「果てしなき渇き」はクライマックスに向かって、事実が次々と明かされますが、この辺りで、感想に移りたいと思います。

 「果てしなき渇き」では、加奈子の中学2年生の時のクラスメイトで壮絶ないじめを受けていた瀬岡誠一の回想によって、加奈子や棟方、遠藤、自殺した加奈子のボーイフレンドの緒方たちが中学2年生から3年生だった時に何が起きていたのかが明かされます。同時に、現代の時間軸では、藤島を軸に、加奈子に持ち出されたという売春現場の写真とネガを求めて、アポカリプス、石丸組、超の組織などが暗躍します。

 加奈子の行方は最後の最後まで分からず、加奈子の面影は、加奈子と関わった人物たちの証言や伝聞という形でしか紹介されません。作品の中では感情の見えない加奈子ですが、「果てしなき渇き」を読み終えて、瀬岡が加奈子を殺そうとする場面が印象に残りました。

 憎悪に取り憑かれた瀬岡は、加奈子の頭をたたき割るため、バットを振り上げます。しかし、静かに瀬岡を見つめる加奈子の美しい顔立ちを見るうちに、瀬岡は、「その宝石のような瞳を、いつまでも見ていたいと思っていたのだ。壊すことなどできるはずもなかった」と気が付きます。そして、瀬岡は「ここから、逃げよう」と声を掛けます。しかし、加奈子は「私は行けないわ」と答えました。

 加奈子は、諦めてしまっていたのかもしれないと思いました。どうして加奈子が売春組織を作り上げ、いじめに遭っていた男の子達を虜にし、売春組織に送っていたのかという理由は伝聞というフィルターを通してしか語られません。しかし、加奈子に誘惑された瀬岡の心の中に芽生えたトキメキや希望は、加奈子にも通じていたのではないかと思いました。加奈子は、死に絶えようとする瀬岡を細い手で抱きます。瀬岡と2人だけの世界を作り、瞳を潤ませ、悲しそうな色を浮かべます。

 この場面も、あくまでも瀬岡の主観によってしか加奈子の様子は描写されませんが、加奈子は、悲しみを悼む憐憫の心を持っていたのだと思います。同時に、瀬岡のトキメキや希望を感じる繊細な心も。すべてを知った瀬岡が、それでもなお加奈子を愛しく思ったのは、加奈子と過ごした時間の中で生まれたトキメキや希望が瀬岡にとっては理屈を超えて本物だったからだと思います。

 加奈子は、感情を無くしたわけでも、憎悪に取り憑かれて我を失ったわけでもなく、むしろ逆に、人の痛みや悲しさを人一倍悼む心を大きくしていたのだと思いました。しかし、それでもなお、同級生や少女たちに悲しみや痛みを与え続け、そして、自分自身をも破滅に追い込んでいったのだと思いました。

 聡明な加奈子は、自分自身が、普通にはいられない存在であることを理解してしまい、同時に、無感情になることもできなかったのだと思います。それだったらもう、諦めるしかないと思いました。


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