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TUGUMIつぐみ/吉本ばななのあらすじと読書感想文

2013年1月4日 竹内みちまろ 参照回数:

TUGUMIつぐみのあらすじ(ネタバレ)


 高校を卒業し、春から大学に通っている白河まりあ(19歳)は、大学入学と同じ時期、父親が前妻との離婚を成立させたため、愛人だった母親と共に東京で父親といっしょに3人で暮らし始めていました。まりあと母親は、父親から呼び寄せられるまでの10年間、母親の妹の嫁ぎ先である海辺の山本旅館に居候していました。母親の妹の2人の娘・つぐみ(18歳)と陽子(20歳)、とは学年が一つずつ違うまりあは、3姉妹の真ん中のように育ちます。つぐみは、生まれつき体が弱く、医者からは短命を宣言されていました。体育はいつも見学で、通学路の坂できまって息を切らせていましたが、負けん気が強く、たくさん読む本から知識を得て、生きることに対する強烈な意志を持っていました。

 つぐみは、母親のことを「ばばあ」、まりあのことを「おまえ」などと呼びますが、東京へ引っ越すことになったまりあが、「つぐみ、私、自分が今さら海のないところで暮らせるなんて信じられない」と思わず声に出すと、つぐみは、怒ったように横顔のまま「ばかめ」「何かを得る時は、何かを失うように決まってるだろ。おまえはやっと親子3人仲良く暮らせるんじゃないか。前妻を追んだしてさあ。それに比べれば、海ぐらい何だってんだ。子供だなあ、お前も」などと、ふいに、真理をついたようなことを口にするところがありました。

 東京での暮らしを始めたまりあのもとに、つぐみから電話があり、翌年の春、山本旅館を廃業し、山に移ってペンションをやることになったと告げます。まりあは、夏休みを、山本旅館で過ごすことにしました。

 まりあたち3人は、海浜公園で、山本旅館で飼っているポチが、ポメラニアンの権五郎とじゃれあったことをきっかけにして、権五郎の飼い主で、建設中のホテルのオーナーの息子である恭一と知り合います。町一番の美人だったつぐみは、よく男子生徒たちをとっかえひっかえしては砂浜でデートをしていましたが、「まなざしが妙に深く、何か大変重大なことを知っているような光」を放つ恭一に引かれ、心を通わせるようになります。しかし、観光で生計をたてている家が多い町では、ホテルのオーナーの息子である恭一を快く思わない連中が多く、権五郎が3人組のチンピラに盗まれて殺されてしまいました。つぐみは、復讐のために落とし穴を掘り、チンピラをおびき寄せて落とし、穴にフタをします。夜中に連日、穴を掘ったり、おびき寄せるための準備のため、つぐみは無理を重ねていました。つぐみは、入院してしまいました。

 まりあがお見舞いに行くと、つぐみは、「あのな、おまえにだけ言うけどな、あたし、だめかもしれない。きっと死ぬ」「もう、やる気がないんだよ、全くないんだ」「どんな時でも、こんなに何もかもに対して無関心になったことなんてない。本当に何かがあたしの中から出ていってしまったようだ」などと細い声で告げます。つぐみは面会謝絶になり周囲を心配させましたが、回復しました。東京に戻ったまりあのもとへ、死を覚悟したつぐみが投函していた手紙が届きました。

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TUGUMIつぐみの読書感想文


 『TUGUMIつぐみ』は、読み終えて、時間というものを感じました。山本旅館に先に来ていたまりあを追って、父親が一泊二日で山本旅館に来る場面があります。父親は、東京で3人で暮らすまでは、週末に山本旅館に来ていたのですが、父親と、つぐみと、まりあが3人が浜辺で寝転ぶ場面では、父親は、「成長した娘は恋人のようなものさ」と言います。つぐみは、父親へ、「あいかわらず下司な冗談を言う男だなあ」などとへらず口をたたきますが、父親は、つぐみへ、「そうか、つぐみちゃんは恋をしているのか」と返します。口は悪いのですがつぐみに悪意がないことを知っているまりあは、父親の優しさに触れ、「以前はその優しさが彼の人生に様々な足止めを食わせたものだったが、平和になってみると陽を受けて光るあの山々のように、彼は落着いて明るく見えた。ものごとがおさまるべきところでその効力を発揮していることは、こうして見ているととても神聖で良いことに思えた」と感じます。

 まりあは、父親が離婚を成立させるまでに途方もないエネルギーを費やしてきたことや、前妻と別居中の父親がひとりで汗水をたらして働いてきた姿にふれていました。そして、まりあの中には、子どものころずっと、父親がバスから降りてくるのを待ち続けたという、特殊ではあるのですが「楽しかった」時間が積み重なっていました。まりあは、父親が明日、持ちきれないほどのおみやげを持って家に帰り、母親が振り返ってその父親へ山本旅館の様子を尋ねる姿を想像します。「幻のように淡く浮かびあがるその情景は、私を、目まいのするほど幸福なひとり娘にする。そうだ、この海辺のふるさとを失っても、私にはもうゆるぎない家が、かえるところがあるのだ」と感じます。積み重ねてきた時間があるがゆえに「今」という時間があり、そして、その「今」は過ぎてしまえば取り返しのつかない時間となります。人間はさまざまなものを失い、さまざまな別れを経験しながら前へ進んでいくのですが、それゆえに「今」という時間が貴く、そして、「今」の尊さを知ってはじめて、「未来」というものは広がって行くのかもしれないと思いました。


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