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それから/夏目漱石のあらすじと読書感想文

2012年7月1日 竹内みちまろ 参照回数:

それから/夏目漱石のあらすじ


 30歳の長井代助は、家を構え、書生の門野(かどの)と、おばあさんをおいて暮らしています。無職で、特に何かをしているわけではないのですが、毎月、生活費をもらうため、父親と兄夫婦の家族が暮らす家に通っています。代助は父や兄嫁から何度も縁談を勧められていましたが、すべて、断っていました。

 中学時代からの知り合いで、学生時代の友人・平岡常次郎から、ハガキで「明日午後会いたし」という連絡をもらいます。平岡は、大学を出て1年後に、2人の共通の友人菅沼の妹・三千代と結婚していました。結婚と同時に、勤め先の銀行の京阪地方の支店へ転勤していました。代助は、出発の日、平岡と三千代を新橋の停車場で見送りました。それから3年がたっていました。

 ハガキを代助へ出した平岡は、銀行を退職して、妻の三千代と共に、裏神保町の宿屋に宿泊していました。三千代は、東京を出て1年目に出産しましたが、子どもはすぐに死んでしまいました。その時から健康がすぐれず、心臓病を患っているようです。少し日がたってから、三千代が、代助の家を訪れました。三千代が「少し御願があって」などと告げると、代助はすぐに金のことだと分かりました。平岡は借金をいくつか作っており、生活に苦労していました。

 代助と三千代は4、5年前に出合いましたが、三千代の母と兄は相次いでチフスで死んでしまいました。三千代の父は日露戦争当時に人に勧められて手を出した株で失敗し、先祖の土地を売り払い、北海道へ行っていました。三千代は、代助の仲立ちで、平岡と結婚しました。代助は、三千代のために金を工面しようと実家へ行き、兄嫁の梅子に金を貸してほしいと頼みました。代助と仲の良い梅子は、その場では断りましたが、あとで、封書で小切手を200円だけ代助へ送りました。梅子は縁談を断り続ける代助に、「それじゃ誰かすきなのがあるんでしょう。その方の名を仰(おつし)ゃい」と尋ねます。代助は、「どう云う訳か、不意に三千代という名が心に浮かんだ」

 代助は、代助が門野にいいつけて見つけ出していた平岡の借家を訪れ、「奥さん」と呼びかけ、三千代に小切手を渡しました。代助が三千代を「奥さん」と呼んだのは初めてでした。中2日おいて、平岡が突然、尋ねてきました。代助は逢いたくない気持ちが起こりましたが、通します。平岡は、金のことも、三千代のことも口に出さず、つてがある新聞社で働くつもりだと告げて帰りました。

 代助のもとには、教師は嫌だから文学を職業にすると決めた寺尾などが訪れます。代助は、梅子に誘われて歌舞伎座へ行ったさい、父が勧める縁談の相手・佐川の娘と顔合わせをさせられました。佐川の娘は、父の恩人にあたる人の縁者で、資産家でした。代助は、三千代を呼び、「僕の存在には貴方が必要だ。どうしても必要だ」と告げます。代助は父へ縁談を断ると告げました。父は、「当人が気に入らないのかい」と聞きましたが、代助は返事をしませんでした。父は「じゃ何でも御前の勝手にするさ」「己の方でも、もう御前の世話はせんから」と言いました。代助は手紙で平岡に話したいことがあると告げました。三千代は体調を崩していましたが、平岡に、「是非あやまらなければならない事があるから、代助の所へ行ってその訳を聞いてくれろ」と平岡に涙を流しながら告げました。

 代助は平岡に、「君は三千代さんを愛していなかった」「僕は三千代さんを愛している」「三千代さんは公然君の所有だ。けれども物件じゃない人間だから、心まで所有する事は誰にも出来ない」などと告げます。代助は「三千代さんをくれないか」と切り出します。平岡は「うん遣ろう」と答えますが、病気が治ってからと告げます。そして、「今日限り絶交する」「宅(うち)へ出入りする事だけは遠慮して貰いたい」などと答えました。

 代助の兄が代助を尋ねてきます。平岡から代助の父へ来た手紙を見せ、「書いてあることは本当なのかい」と聞きます。代助は「本当です」と答えます。

「御前は平生から能(よ)く分らない男だった。それでも、いつか分る時機が来るだろうと思って今日まで交際(つきあ)っていた。然し今度と云う今度は、全く分らない人間だと、おれも諦らめてしまった。世の中に分らない人間程危険なものはない。何を為るんだか、何を考えているんだか安心が出来ない。御前はそれが自分の勝手だから可(よ)かろうが、御父さんやおれの、社会上の地位を思ってみろ。御前だって家族の名誉と云う観念は有(も)っているだろう」

 兄は、父の「以来子として取り扱わない。又親とも思ってくれるな」という言葉を伝えます。兄自身も「おれも、もう逢わんから」と言い残し、帰りました。代助は、「門野さん。僕は一寸職業を探して来る」というやいなや、日傘もささず、真上から照りつける日差しの中、外へ出ました。代助は、飯田橋で電車に乗りました。「ああ動く。世の中が動く」と周りの人に聞こえる声を出します。「代助は自分の頭が焼け尽きるまで電車に乗って行こうと決心した」

それから/夏目漱石の読書感想文


 「それから」は読み終えて、「出発」を描いた物語だと思いました。

 代助は、最高学府を優秀な成績で卒業し、社会的な立場は悪くないのですが、何をするわけでもなく、それでいて、兄嫁とは仲が良く、甥、姪はなついています。世渡りはヘタではないようですが、無気力です。しかし、「無気力です」というときは、無意識に、「人間は気力を持たなければならない」ということを前提にしている気がしますが、代助には、「人間は気力を持たなければならない」という発想がないのだと思いました。世間一般の俗人として描かれている兄には、代助のそういった点が、わからないのであり、怖いのだと思いました。

 印象に残っている個所があります。代助が三千代に気持ちを打ち明けてから、職業を探さなければならないと決意した場面でした。

 以前の代助なら、人間は働かなければならないという発想が浮かんでくることはありませんでした。「なぜ人間は働くのか」という疑問など持たず、働くのが当たり前、なぜなら、そうするべきだから、などと片づけてしまっている凡人からは理解不能なのですが、三千代に気持ちを打ち明けたあとの代助は、生活が立ち行かなくなる恐怖から、なぜ人間は働くのか/人間は何をなすべきか/人はなぜ生きるのか、などの疑問をいっさいすっ飛ばして、仕事を見つけなければならない(=金を稼がなければならない)と、あせります。

 漱石は、そんな代助の様子を、「凡てと戦う覚悟をした」などと描いています。しかし、代助は三千代に愛を告げてから、一晩寝て、翌朝に、「凡てと戦う覚悟」をしていました。代助は、三千代に愛を告げたらどうなると前もって考えたり、三千代を愛しているがどうしたらよいだろうと誰かに相談したりするという発想は持っていませんでした。すべてを自分の一人の魂のままに感じ、そして、魂が求めるままに行動しました。三千代に愛を告げるというのは、世間的に見れば、取り返しのつかないことで、一般的な発想を持つ人であれば、愛を告げてしまったらどうなる、あるいは、三千代といっしょになるにはどうすればよいなどと考えると思います。代助は、あまりに純粋で、そういうふうに考えるという思想や発想を持ち得ていないのかもしれないと思いました。

 漱石は、三千代に愛を告げてしまい、代助のいろいろな状況が激変した様を、「彼は船に乗った人」といっしょだったと描写しています。学業を終えて、仕事をみつけて、結婚して、家庭を作って、ということが「船に乗る」ことであるなら、普通の人は、「なぜ」という疑問をもたずに、船に乗るのかもしれないと思いました。代助は、普通の人と同じように船に乗ることができず、、取り返しがつかなくなることと引き換えに、ようやく、いやおうなく自分を追い込むことでしか船に乗ることができない存在なのかもしれません。そんな形で、代助の「出発」を描いた「それから」の「代助は自分の頭が焼け尽きるまで電車に乗って行こうと決心した」という一文は、三島由紀夫の「金閣寺」の、生きようと思ったというラストの一文にも通じるものがある気がしました。

 また、雨の日に、代助が三千代を呼んで、愛する心を打ち明ける場面は、「二人は雨の為に、雨の持ち来す音の為に、世間から切り離された」「二人は孤立のまま、白百合の香の中に封じ込められた」「この間百合の花を持って来て下さった時も、銀杏返しじゃなかったですか」「あら、気が付いて」「僕はあの髷を見て、昔を思い出した」「そう」「代助と三千代は五年の昔を心置きなく語り始めた。語るに従って、現在の自己が遠退いて、段々と当時の学生時代に返って来た。二人の距離は又元の様に近くなった」などと、描写されています。ロマンティックですが、同時に、後ろ向きにしか生きることができない人間や、凡人に理解してもらえない人間たちへ向けられた、漱石の「まなざし」を感じました。


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