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セヴンティーン/大江健三郎のあらすじと読書感想文

2016年5月4日 竹内みちまろ 参照回数:

セヴンティーンのあらすじ


 「おれ」は17歳の誕生日を迎えたが、私立高校の教師をしているが自分の子どもや家庭には無関心な父親も、家庭では自分からは何も言わない母親も、テレビ会社での仕事に情熱を失った兄も、「おれ」が誕生日を迎えたことに気付かないか、気付かないふりをしていた。

 強度の近眼を恥じて一生結婚しないつもりで自衛隊の病院に入った看護師の姉だけが、「十七歳ね、自分の肉をつかんで見たくない?」と、「きっと本の中からぬすんできたのだろう」言葉を「おれ」にかけた。

 皇太子と妃がメッセージを発表する姿をテレビで見た「おれ」が「税金泥棒が」などと悪態を付くと、寝そべって文庫本を読んでいた姉がもの凄い勢いで起き上がり「税金泥棒って、なによ」などといきり立った。「もし自衛隊がなくて、アメリカの軍隊も日本に駐留していなかったら、日本の安全はどうなると思う?」、「自衛隊につとめている農村の二、三男は、自衛隊がなかったら、どこで働けるの?」などと詰め寄られ、簡単に論破された。

 「おれ」は悔しさで涙を流した。「おれ」と姉が議論している間、父親は新聞を広げたままで、兄も無関心だった。「おれ」は、父親が自身のそんな態度をアメリカ風の自由主義教育だと密かに自慢にしていることに憤った。

 「おれ」は勝ち誇る姉の言葉を無視するために立ち上がり、ちゃぶ台を蹴りつけた。湯飲みが倒れた。「おれ」は息をつめて父親を見たが、父親は新聞から目を離さず、「どなりつけるかわりに、嘲けるような冷たい笑い」を唇に浮かべた。

 「おれ」は逆上して、わめきながら姉の額を蹴り上げた。姉は砕けたメガネでまぶたを切って血を流した。「おれ」は、父親が殴ると思い、抵抗せずに死ぬほど殴られようと決心した。しかし、父親はゆっくり新聞を膝に置いて、「もう、姉さんから大学の費用を受け取れないぞ、よく勉強して東大に入るほかないねえ。官立大学なら月謝が安いし、奨学金をとれる率も高いからねえ」、「神経衰弱になるくらいやれ、自業自得だろう?」などと声を掛けただけだった。「おれ」は「腹の臓腑まで冷えきってくるような気持で父親たちに背をむけ、庭に出た」。

 兄は東大を卒業し「一家の希望だった」が、前年の夏ころから「疲れた、疲れた」と口癖のように言い始め、仕事への情熱を失っていた。兄の人間が変わってから、「おれ」は家庭では孤独を感じていた。学校でも、前年までは優等生のグループに入っていたが、今は、休み時間を1人で過ごし、それでいて、周りの生徒たちの話し声に聞き耳を立てていた。

 そんな「おれ」は、1人で電車を待っていると、あるクライスメイトから「≪右≫のサクラをやらないか、よう?」と声を掛けられた。「おれ」は「家に帰って独りぼっちになることに耐えられなかった」ため、クラスメイトと一緒に、新橋の駅前広場のステージに行き、皇道派のボスの逆木原国彦の演説を聞いた。

 「おれ」は、「逆木原国彦の演説はひどかった。演説のおこなわれている広場に出ただけでそれがわかった」。また、「誰ひとり真面目に聴いている者はなく、またステージの上で怒号している熱狂した初老の男自身、誰かに真面目にうけとられることを期待せず孤独に意味不明の怒号をつづけているようなのだ」。

 一番後ろのベンチに腰掛けた「おれ」は、しだいに、「眼ざめながらの眼りのようなものの中へ沈みこんで行った」。「おれ」は、「背後のヒマ人ども」も、他のサクラたちも、「叫びたてる逆木原国彦」も、何もかもを忘れ、「大都会の砂漠の一粒の砂のように卑小な力つきた自分を、いままでに一度も感じたことのないやすらぎにみちた優しさで許していた。そして逆におれはこの現実世界にたいしてだけ、他人どもにたいしてだけ、敵意と憎悪を配給していたのだ」。

 「おれ」は。「仔犬の自分を無条件にゆるしてなめずり、また仔犬のおれに酷いことをする他人どもに無条件で吠えかかり咬みつこうとしていた。しかもおれは眼いようなうっとりした気持でそれを行っていた」。夢の中にいるような意識の中で、「おれ」は逆木原国彦が「国を売る下司の女衒の破廉恥漢がだよ」、「おれは誓っていいが、あいつらを殺してやる」、「おれはみな殺しの神意を背におって生まれたのだ!」などと叫ぶ言葉を聞いた。

 「おれ」は、「自分の弱い生命をまもるためにあいつらを殺しつくそう、それが正義だ」と感じた。「おれ」は、立ち上がり拍手を送った。

 3人組の女が「あいつ、≪右≫よ、若いくせに。ねえ、職業的なんだわ」と声をあげると、「おれ」は女たちの方へ踏み出し、「≪右≫がどうした、おい、おれたち≪右≫がどうしたというんだ」と怒鳴った。女たちは逃げ出した。

 「おれ」は、周囲の大人たちが、「おれを一眼見るやいなや≪なにもかも見とおしだぞ≫といっておれを脅かす、あの他人の眼で見ていない。大人どもはいま独立した人格の大人同士が見あうようにおれを見ているのだ」と感じた。

 「おれ」は逆木原国彦から声を掛けられ、皇道派本部で入派の宣誓をした。「おれ」は、逆木原国彦に引き取られ、皇道派本部で暮らすようになった。

 「おれ」は、学校では、≪左≫を、かつて姉に論破されたのと同じ方法で逆に論破した。学校の女王的存在の杉恵美子が「おれ」を熱っぽく見つめながら、「あなたみたいな時代錯誤の≪右≫少年は防衛大学にでも行くことね」と口にした。「おれ」は逆木原国彦に、防衛大学に入って同志を集め、やがてクーデターを引き起こす力になりたいという希望を伝えた。

 「おれ」は逆木原国彦の書庫に入り浸り、「忠とは私心があってはならない」という右翼思想に触れ、「おれが不安に怯え死を恐れ、この現実世界が把握できなくて無力感にとらえられていたのは、おれに私心があったからなのだ」と考えた。

 5月、左派が国会デモを繰り返すと、「おれ」は勇躍して皇道派青年グループに加わり、学生やデモ隊にこん棒や木刀で襲い掛かった。

 女子学生が死んだという噂が混乱した大群衆を一瞬静寂に戻し、小雨に濡れた不快と悲しみと疲労に打ちひしがれた学生たちが泣きながら黙祷していた時、「おれは強姦者のオルガスムを感じ、黄金の幻影にみな殺しを誓う、唯一人の至福のセヴンティーンだった」。

セヴンティーンの読書感想文


 「セヴンティーン」を読み終えて、思想が人間の心に及ぼす絶対的な力というものを感じました。

 「おれ」は、ナチスの親衛隊の制服を模した皇道派の制服を着て、「忠とは私心があってはならない」と理論武装し、「≪右≫少年おれが天皇陛下の子であること」を確信するに至り、一切の迷いを捨てて行動し、そんな自分に至福を感じることができる人間になりました。

 皇道派に入る前の「おれ」は、言葉にはできない苛立ちや不安に脅かされ、何をしてもうまくいかず、「おれ」の目をとおして描かれる世界は、もやがかかっているようにぼんやりとしていました。

 右翼思想に触れた「おれ」は、自分の人格を捨てて、人格を捨てた自分を天皇という絶対者に結び付け、自分を思想のために生きるだけの人形にしてしまっていました。

 その人形は、逆木原国彦らによって、天皇のための神国日本の実現を阻む政治家や左翼学生という敵を示されたため、敵を破壊するために突き進みます。もし別の敵を提示されていたら、その敵に向かっていくのだろうと思います。

 「おれ」は、敵がいないときは何をすればよいのか、神国日本が実現したときに人々は何をして暮らすのか、そもそも日本が神の国ならばどうして神の力によって今現在、神国が実現していないのか、などの疑問は持ちません。神国日本というものは漠然とした空絵でしかなく、具体的に何がどうなっているのかなどを考えることはしないようです。

 人間は誰しもが危うい部分や、弱い部分を持っていると思います。ときに、「若気の至り」や、「1時の気の迷い」や、「魔がさした」や、「何かに取りつかれていた」などの言葉で表せるような、何かの虜になってしまう瞬間があるのかもしれません。人格が出来上がっていない若者には特にその傾向が強く、そこに思想というモノがからむと、ときに恐ろしいエネルギーが生まれることもあるのでしょう。

 ただ、よくよく考えてみると、「思想」というものは、それ自体はよいものでも悪いものでもなく、あえていえば、人間が自分たちの都合で勝手に作り出したひとつの「考え」でしかないと思います。「お金」というものが、人間が自分たちの都合で勝手に作りだした約束事の単位や、量や、金銀などの鉱物との交換比率でしかないのと同じだと思います。「お金」自体は、よいものでも悪いものでもなく、仮に何かが起きたとしても、それは「お金」が悪いのではなく、「お金」の虜になってしまった人間が悪いだけの話です。

 「セヴンティーン」は、思想を絶対的に信望し自身を人形にしてしまった人間は、どんなことでも実行に移し、ゆがんだ行動にも至福を感じことができるという人間の一面を描いているのだと感じました。

 「セヴンティーン」を読み終えた人は、自分はどう生きるのか、という解いを突きつけられるのかもしれないと思います。


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