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われらの時代/大江健三郎のあらすじと読書感想文

2016年6月20日 竹内みちまろ 参照回数:

われらの時代のあらすじ


 両親が戦争中に死んだため伯父に育てられた大学生の南靖男(23歳/1935年生)は、10歳以上年上の娼婦・頼子の情人として頼子と一緒に暮らしていた。靖男という名前は、若い航空隊の将校だった父親が靖国神社にちなんでつけた名前だった。

 靖男は、フランス文学の研究室の助手から、靖男の論文が、フランスの書店と日本の新聞社が共同で主催した懸賞論文のコンテストで一席に輝いたことを知らされた。一席を受賞すると3年間、フランスに留学する資金が与えらえ、靖男は、「確かにおれは脱出する! この汚辱と猥雑とのわが母国から脱出する!」などと興奮した。

 同じころ、頼子は、吐き気や頭痛を感じ、「ああ、妊娠まちがいなしだ、なんというへまをやったのだろう」と頭を抱えていた。前回の妊娠と中絶の際、頼子は、医者から、次に妊娠したら死ぬ苦しみかもしれないが生んでしまいなさい、もしもう一度人工中絶をしたらあなたは本当に死にますよ、という内容の忠告を受けていた。

 靖男の弟で16歳になったばかりの南滋(16)は自身が所属する3人組バンド「不幸な若者たち(アンラッキー・ヤングメン)」の2人の仲間(高征黒:20、田谷康二:16)と、駅前広場で、右翼が演説する様子を見かけた。黒いシャツを着た中年男から500円で右翼のサクラをやらないかともちかけられ、喜んで引き受けた。

 アンラッキー・ヤングメンの3人は「日本国民は独裁者を求めている!」、「天皇こそは日本国民唯一の独裁者!」などと叫ぶ右翼に率いられ、隊列に加わり、映画を観に行くという天皇が黒塗りの自動車に乗って通り過ぎる様子を見た。

 3人はこっそり隊列から逃げ出し、冷房の効いた喫茶店に入った。康二が「≪静かなる男≫をびっくりさせてやろうじゃないか!」、「自動車の前で爆弾を破裂させるのさ」、「インペがびっくりして、日本中にスキャンダルがうずまくぜ!」と叫んだ。天皇が映画を観終わった後、爆弾を天皇の乗った車の前で爆発させるというもので、幼かった高は朝鮮戦争の際、同胞を虐殺するアメリカ兵たちの性欲処理をさせられていたが、米軍の手榴弾を一つ持っていた。

 計画は実行に移された。高がビルの屋上で天皇の車が来たことを知らせる合図を出し、ビルの3階の男女共有トイレに隠れている滋と康二が手榴弾を天皇が乗る車の前に落とすことになった。

 ビルの作業員がトイレの窓にブラインドを掛けてしまったため、滋が窓の外に出て、康二がピンを抜いた手榴弾を滋に渡すことになった。

 高はタイミングが遅れたが合図を出した。滋は窓の外で手榴弾が指し出されるのを待っていた。康二は、汚物入れに隠していた手榴弾が、個室を利用した娘の月経の血にまみれているのを見て吐き出した。

 計画を最後までやり遂げることができなかったアンラッキー・ヤングメンが馴染みのクラブに戻ると、朝鮮戦争に参加した元米兵のジミーが感激した様子で高に声をかけた。ジミーと高は再会を喜び、ホテルに行ってセックスをした。

 高は、「おれは、あんたのいう通りにするぜ! あれはあんたとアメリカへわたることにきめたんだ!」とジミーに告げた。ジミーは歓喜したが、高がアンラッキー・ヤングメンの2人の仲間に大型トラックを買ってやりたいので100万円もあればいいのだと金を無心すると、ジミーは態度を豹変させた。金ならいくらでもあると黒い皮のボストン・バッグのジッパーを開いて紙幣がぎっしり詰まっているのを見せながら、高に、「やったあとですぐに代償を欲しがる恥しらずの淫売だ。東洋人はみんな同じだ。どいつもこいつもマネー、マネー、マネーだ」などと吐き捨てた。

 高は、ジミーの首に飛びつき、30分かけて絞め殺した。高は黒い皮のボストン・バッグを持ってホテルを出た。

 高は、滋に「アメ公を絞め殺したんだ、一緒に逃げてくれ」と声を掛けた。高は康二を置いて行こうとしたが、康二が気づいて「おまえら朝鮮人こそ生まれつきの卑怯者なんだぞ」と逆上。高は「おれが卑怯か、おまえが卑怯か、比べよう」と怒りに声を震わせた。

 早朝の銀座の百貨店のビルの脇の駐車場で、ピンを抜いた手榴弾を前にし、どちらが先に逃げるかを競い、2人とも爆死した。

 靖男は、教授と助手の立ち合いのもと、フランス大使館の書記官が差し出した契約書にサインをした。契約書には、靖男がフランス軍の保護のもとアルジェリアを旅して新聞に旅行記を発表する義務があると明記していた。

 夜明け頃、靖男は、もたれかかっていた頼子を突き飛ばし、起き上がってガス栓を締め、窓を開けた。頼子はベッドで泣きもだえるが、靖男は、「おれはかつておれが絶望的な気持ちであこがれた生活、真の若者の生活を生きるだろう!」と決意する。

 午後になって、靖男は、同じクラスで「社会主義の未来を信じている」という八木沢から紹介されたアラブ人(フランス軍が残虐行為を行っているアルジェリアの実情を日本人に訴えるために日本にやってきていた)と喫茶店で会った。

 靖男はアラブ人に、改めてアラブ人たちの活動に協力することを約束した。アラブ人は、靖男が「真実を語る勇気をもって」アルジェリア旅行記を書くことを期待し、フランス政府などが旅行記の発表を拒んだ際は、アラブ人の活動家の手を通じてコピーがエクスプレス紙かタン・モデルヌ紙に渡されるという段取りを説明した。

 靖男とアラブ人がいる喫茶店に、爆発現場から逃げてきた放心状態の滋がやってきた。新聞は、早朝に起きた銀座での少年2人の爆死事件を大きく報道していた。靖男とアラブ人は、取り乱していた滋をいったん、アラブ人のアパートへ連れ込んで匿った。

 靖男とアラブ人は、クラブの長椅子に下に隠してある、金が詰まったボストン・バッグを警察が発見したら、ジミーの殺害事件と少年二人の爆死事件に結び付け、唯一の生存者である滋を疑うだろうと判断。危険を冒す行動は1人よりも2人の方が有利なため、靖男とアラブ人は、滋を寝かせている部屋に外から鍵を掛けて、2人でクラブにボストン・バッグを取りに行った。

 目を覚ました滋は部屋に鍵がかかっていることに混乱したものの、クラブに電話して、事務の女の子に、「アラブ人の野郎の部屋に閉じ込められた」、「本郷の大学の裏のアパート」などと告げ、ドアを破るための斧か何かと、長椅子の下のボストン・バッグを持って、すぐに来てくれと告げた。

 女の子は長椅子の下のボストン・バッグに手を伸ばしたが、取っ手に付いていた血が指の腹にこびりついたのを見て、泣きわめきながら倒れ込み、駆けこんできた3人の警察官に抱き留められた。女の子は、うわごとのようにアラブ人について訴え、何台ものパトカーが本郷の外国人留学生が多く住むアパートへ向かった。

 警察官が、滋が閉じ込められた部屋の扉を外から叩き、「抵抗するな、射殺するぞ!」と威嚇した。滋は7階にある部屋の窓から身を乗り出し、雨樋(どい)を伝って逃げようとしたが、落下して死亡した。

 靖男は、取り調べを受けた。滋がクラブの女の子に掛けた電話の内容が、靖男が事件の背後にいることを否定する内容だったため、嫌疑が晴れた。靖男が署長室に通されると、フランス大使館の書記官と大学の研究室の助手がいた。

 書記官は、アルジェリアから来たアラブ人を「われわれの公然たる敵」と呼び、靖男に、アラブ人と友人だったとしてもそのこと自体は問わないが、今後いっさいあの人物に協力する意志を持たないと約束するように迫った。助手は「きみはフランスへ行って勉強してくるべきだ、きみの一生のためだよ」と声を掛けた。

 靖男は「ぼくは non といわなければなりません」と答えた。靖男は“すべて終わったのだ”と思った。

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われらの時代の読書感想文


「われらの時代」を読み終えて、“生きる”とはどんなことなのだろう、と考えました。

 靖男は、論文の執筆に没頭した大学2年の春休みを「一種の偽装された現実逃避であり、娼婦の情人としての快楽的なむなしい怠惰の生活と楯の両面のごときもの」と考えていました。しかし、靖男は、「日本の若い青年をとらえており圧倒的に流行している、精神的なインポテツ、それから逃れ出ることのできる希望」を論文に掛けてもいました。

 靖男は、かつては、義勇兵に応募してエジプトでナセルのために戦うことを熱望していました。そして、論文が一席に選ばれると、「確かにおれは脱出する! この汚辱と猥雑とのわが母国から脱出する!」と決意します。

 が、一方では、一席の受賞を通知され、「未来からの約束手形? おれが今それをうけとったところなのか」などと疑問に思います。靖男は、フランスへ行ったとしても根本的な問題は何も解決しないのではないかと本能的に感じていたのかもしれません。

 靖男が、頼子に、心を打ち明ける場面があります。

 靖男は「希望が湧いたわけじゃない。ただ出発したいんだ。拘束なしで自由に出発したいんだ。今出発しなければ、ぼくは一生を生きる(*「生きる」は太字)ことなしに終わるだろう、ぼくは出発しないではいられない。狂犬みたいに発作にとらわれているのかもしれない、しかし出発しないではいられないんだ」と言います。

 靖男は、フランスへ行くことも、「一種の偽装された現実逃避」でしかないと感じているのかもしれませんが、それでもなお、「出発しないではいられない」という衝動を抱えているのかもしれません。

 そんな靖男が、フランスでアラブ人の活動に協力することを約束した後、自分自身を冷めた目で見始めていることが印象に残りました。

 靖男は、アラブ人に協力を約束する前は、「おれは今日、アラブ人と会い、かれの組織に協力することを誓うだろう、おれは男らしい若者として行動するためにフランスへわたるのだ!」と真っ直ぐな気持ちで興奮していました。

 しかし、握手したアラブ人の「親密な触感に感動」し、「ぼくはあなたたちに協力することで、自分の回心を発展させるでしょう!」と力を込めて言葉にしても、一方では、心の中で、「≪おれは希望にみちた青年のように昂奮して語っている!≫」と自分自身を冷めた目で観察しています。

 さらに、靖男をフランスへ招待しようとしている側と決別した時は、決別した自分自身すらも、“すべて終わったのだ”と冷めた目で観察していました。

 もちろん、アラブ人にとっては、フランス軍が虐殺を行っているというアルジェリアの実情を訴えることが、アラブ人にとってのやるべきことであり、そのために活動することは、アラブ人にとって「生きる」ということなのだろうと思います。

 しかし、靖男にとっては、フランスへ行くことも、アラブ人に協力することも、フランス政府側に反発することも、「一種の偽装された現実逃避」でしかないのかもしれないと感じました。

 靖男が「生きる」にはどうすればよいのだろうと思いました。「一生を生きる」という言葉は、「自分の人生を生きる」と置き換えてもよいと思います。

 靖男が「自分の人生を生きる」ためには、それが何なのかを明言することはできませんが、靖男にとって現実逃避ではない、真に取り組むべき何かを見つけ、それに向かって進むことが必要なのかもしれないと思いました。

 人生においてやるべきことを見つけて、それを行うことが、もしかしたら、「自分の人生を生きる」ということなのかもしれません。

 「われらの時代」は、自分の人生を生きられない若者(=やるべきことを見つけられない若者)の物語なのかもしれないと思いました。


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