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ふたご/藤崎彩織(Saori)のあらすじと読書感想文(ネタバレ)

2018年4月19日 18時00分 参照回数:

ふたご/藤崎彩織(Saori)のあらすじ


 夏休み。中学生の西山夏子は電話に出る。相手は1学年先輩の月島だ。夜なのに、これからDVDを借りに行こうという。

 月島にはじめに声をかけたのは夏子だった。学校の吹き抜けの階段でひとり、遠くを見ているのが気になっていたのだ。それからちょくちょくふたりで会うようになった。今ではすっかり何でも話せる友人だ。

 この日、夏子の元気がないことを見抜く月島。実は最近、自身の部屋からお金が無くなるという話をする。初めは弟がこっそり持って行っているのかと思っていたが、友人のエミがきた日に限って無くなっていることに気が付いたのだ。友人に裏切られたショックで、夏子は、「友達の作り方が分からない」と泣きだす。それを見て月島は言った。「お前の居場所は俺が作るから。泣くな」と。

 月島が中学を卒業した。高校に進学した月島だが、うまく学校に馴染めていなかった。「みんなと同じことをする」ということに疑問を感じ、すべてのことをつまらないと感じているようだった。夏子はそんな月島にいらだちを感じる。

 しばらくして、月島から「好きな子ができた」と告白される。動揺する夏子。どんな子か気になりいろいろ尋ねてしまう。すると、「少しなっちゃんに似てるよ」という月島に息が止まりそうになる。なにげなく一緒に過ごしてきた時間を思い返す夏子。ただ月島と話すことが楽しいと思っていた。恋人になれなくても、嘘のないことばを話し合える相手でいられればそれで十分だと自分に言い聞かせる。

 夏子も中学を卒業する。得意なピアノを生かすために、音楽科のある高校を選んだ。月島といえば、好きな子もでき、バンド活動も始めたのに、相変わらず毎日がつまらないという。それを聞いて夏子は思わずため息をつく。

 ある日、月島は高校を辞めるといいだす。なんとアメリカに留学するというのだ。その言葉に衝撃を受ける夏子。日本から月島がいなくなることが想像できない。なんとか心の整理をつけようとする。

 アメリカンスクールに通い始める月島。これまでよりは楽しく過ごしているようだった。それに反比例して夏子の気持ちはいまだ落ち着かない。

 そして月島がアメリカに発つ日が迫ってきたある日、月島は唐突なことを言った。「なっちゃんも一緒にいく?」と。聞けば出発は夏休み。月島の家族も旅行がてらアメリカに行くとのことで、いっしょに遊びにくれば? ということだった。夏子はその誘いを受ける。

 楽しく1週間をアメリカで過ごし、夏子は、もう月島はそばにはいない、という現実を嫌と言うほど思い知らされる。帰国して3日後、月島から着信が入る。アメリカ生活をエンジョイしているのかと思いきや、元気のない声が返ってきた。すでにホームシックにかかっていたのだ。夏子は元気づけようとするが、うまくいかない。結局、月島は精神が不安定になり、すぐに帰国してしまう。

 帰国後、病院に入院した月島は、しょっちゅう抜け出し、夏子の元へ現れた。

 精神が混乱し、夏子の家で刃物を振り回すこともあった。

 月島に翻弄される夏子。月島は本格的に精神科に入院させられるが、その症状は徐々に改善していく。夏子は改めて、月島との深い縁を感じる。

 夏子は19歳となった。音楽大学に進学している。月島はすっかり元気になっている。月島から急に「バンドをやる」と聞かされる。月島は早速、スタジオ代わりになる物件を見つけて契約する。その物件は工場の跡地で、地下室になっており、家賃も安く、音を出すには問題ない場所だった。

 バンドのメンバーとして、月島の中学時代のクラスメート、ぐちりんと矢部ちゃんがいた。そして夏子も加わって、地下室のイノベーションが始まった。

 夏子はだんだんと地下室での作業が心地よくなり、学校が終わるとすぐに地下室へと向かった。すっかりオシャレすることもなくなったが、毎日が充実していた。次第に心地よい空間となった地下室。気が付けば1年の歳月が流れていた。

 ある日、月島が怒りだす。「俺たちは何もしていない」と。夏子とぐちりんはそれを聞き心外だと思う。毎日作業をし、イノベーションを施した。その材料費をまかなうために、バイトも休みなく行ってきたのに……。

 月島は「俺たちは上にいかなくちゃいけないんだ」と泣きながら宣言する。そして、1ヵ月後にこの地下室でライブをやると決めてしまう。いつのまにかメンバーの一員になった夏子。月島と衝突しながらも、その初ライブの日を迎える。

 家族や友人が15人ほど集まる。初めてお金をとって演奏するということに、身が引き締まる思いの夏子。

 ライブが始まる。月島は緊張しているのか、ウイスキーを飲んでステージにあがる。そして、月島は後ろ向きで歌を歌い始めた……。

 その後も地下室で何度かライブを行うようになる。オリジナル曲の製作もはげんでいた。下北沢のライブハウスでのライブも決定したある日、メンバーの矢部ちゃんがバンドを辞めてしまう。このままではライブができない。月島は、昔からの友人、ラジオをメンバーとして入れた。ラジオはDJが得意で、音楽についてとても詳しかったのだ。

 そして下北沢ライブの日。新曲を披露する。ライブ終演後、夏子は音楽会社の三宅に声をかけられ、メジャーデビューの扉が開くのだった。



ふたご/藤崎彩織(Saori)の読書感想文


 全体的にテンポがいい文体で、時間の流れも早く、とても読みやすい作品だった。著者は、人気バンド「SEKAI NO OWARI」のSaoriとのことで、とても興味深く読んだ。

 主人公、月島と夏子の出会いから、バンドを結成してデビューするまでを描いているが、それらが虚構なのか現実なのか、その辺りを想像しながら読み進めると、さらにワクワク感が増す。

 月島と夏子の腐れ縁的な関係は、少し羨ましく感じてしまった。もはや中学生の同級生とは疎遠である。ましてや、一緒に夢を追いかけることになっていくなんて!

 月島はだいぶ変わった男で、みんなと同じことをするのが嫌、というタイプだ。たぶん本人には悪気はない。でも社会では生きにくいはずだ。夏子のような存在がいることで、少しは楽にいられるんだと思う。

 逆に、夏子の立場にしてみれば、いつも振り回されることになる。それでも夏子は月島のことを嫌いにならず、むしろ気になって仕方がなく、結局そばにいる。だからといって、恋人同士になるわけでもなく、一定距離を保って、月島を見つめている。なんて究極な乙女心なのかと思った。

 一緒になれなくても、相手が幸せでいてくれたらいい、という切ない思い。でも近くにはいたいっていうはかない思い。この作品はそういう女性の機微が、よく表現されていてよかった。

 やはり私小説的な印象がぬぐえないが、うまくドラマとして成立していたと思う。次回は全くちがうジャンルのストーリーを読んでみたいなと思った。(スギ タクミ


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