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ペンギン・ハイウェイ/森見登美彦のあらすじと読書感想文

2017年12月27日 23時00分 参照回数:

ペンギン・ハイウェイ/森見登美彦のあらすじ

 小学4年生のぼくは、たいへん頭が良く、たくさん本を読み、たくさん研究をして、毎日ノートを書く。今日計算してみたら、大人になるまでに3千と888日かかることがわかった。大人になる頃にはかしこくなりすぎて、たくさんの女性から結婚を申し込まれることだろう。けれども残念ながら、ぼくは答えられない。ぼくにはもう心に決めた人がいるからだ。

 街に初めてペンギンが現れたのは、5月のことだった。ぼくたちは登校途中の空き地でペンギンの群れを見た。しかしペンギンたちは、トラックで運ばれる途中に消えてしまったという。この日から、ぼくの研究項目に「ペンギン・ハイウェイ」が加わった。ペンギン・ハイウェイとは、ペンギンたちが陸に上がる時に、決まって通る道のことだ。

 同じクラスには、ぼくと仲の良いウチダ君と、いじめっ子のスズキ君がいる。ある日、ぼくとウチダ君が「プロジェクト・アマゾン」の研究で学校裏の水路を探検していると、スズキ君とその取り巻きに出会った。逃げ遅れたぼくは捕まって、バスターミナルの自動販売機に縛り付けられた。ぼくらが探検して作った地図は、スズキ君たちに奪われてしまった。

 動けないぼくを助けたのは、いつも「海辺のカフェ」でぼくとチェスをする、歯科医院のお姉さんだった。自動販売機の前で、お姉さんが投げたコーラの缶は、空中で羽根が生えてペンギンになった。お姉さんは、どうしてペンギンを出せるのかわからないそうだ。ぼくはお姉さんのことも研究対象に加えることにした。お姉さんは海辺の街の出身で、ぼくらは夏休みの間に、その街に一緒に行く約束をしている。

 学校帰り、クラスメイトのハマモトさんが話しかけてきた。ハマモトさんにも研究があり、ぼくに手伝ってほしいのだという。ぼくとウチダ君はハマモトさんに連れられて学校裏の森を抜けた。目の前に広がった草原の真ん中に、地面から浮かぶ、見たこともないふしぎな球体があった。ハマモトさんはそれを【海】と名付け、研究していたのだった。ぼくたちは、草原に立てたパラソルを「観測ステーション」とし、【海】を対象としたいろいろな実験をした。【海】は拡大と縮小を繰り返し、ときどき「プロミネンス」という現象によって膨らみ、ゴルフボールくらいの、丸いゼリーのような小さな【海】をたくさん生み出した。

 ある日、草原にスズキ君たちが現れた。奪った地図で探検していたら偶然たどり着いたらしい。その時「プロミネンス」が起こった。飛んできた小さな【海】がウチダ君に当たりそうになった時、お姉さんがペンギンを投げた。小さな【海】はペンギンに当たり、消えてしまった。

 研究を重ねるうち、明らかになったことはたくさんあった。ペンギンは【海】を壊すこと、お姉さんはペンギンだけではなく、「ジャバウォック」という生き物も作り出せること。「ジャバウォック」は、シロナガスクジラの赤ちゃんにコウモリの羽根と人間の手足が付いた奇妙な生き物だ。

 ある朝、スズキ君が「ジャバウォック」の1匹を捕まえた。学校は大騒ぎになり、テレビ局が来て大学の研究チームが調査を始め、ぼくらは草原に行くことができなくなった。スズキ君は【海】のことも話してしまったらしい。ハマモトさんはたいへん怒って、スズキ君と口をきかなくなった。

 そして、事故が起こった。【海】の調査に出かけた調査隊が行方不明になったという。調査隊の中には、大学教授であるハマモトさんのお父さんもいた。街中が学校に避難する中、ぼくらは学校を抜け出した。みんなは途中で警備に捕まったが、ぼくはなんとか「海辺のカフェ」にたどり着いた。お姉さんはいつものように、そこでぼくを待っていた。

 よく研究のヒントを教えてくれる父は、「世界の果ては折りたたまれて、世界の内側にもぐりこんでいる」と、ふしぎなことを言っていた。その言葉やこれまでの研究から、ぼくが導き出した仮説はこうだった。神様が世界を作るとき、少し失敗をして、世界に穴を作ってしまった。それが【海】の正体で、お姉さんが作り出すペンギンは、【海】を壊す、つまりその世界の穴を治すためにいる。そして、【海】が作り出すエネルギーで生きているお姉さんは、【海】が消えると役目を終え、一緒に消えてしまう。

 ぼくとお姉さんは、【海】の草原へと向かった。お姉さんの歩く近くのものが、次々とペンギンに姿を変えていく。ペンギンの大群を引き連れ森にたどり着くと、ぼくらはいつの間にか【海】の中に居た。ぼくらは漂流している調査隊と合流し、ペンギンたちは【海】を壊した。

 街から【海】が消えた。ぼくとお姉さんは、誰もいない「海辺のカフェ」でコーヒーを飲んだ。ぼくはいつか、えらくなってお姉さんの謎を解き、また会いに行くと約束をした。「そろそろサヨナラね」と、お姉さんは席を立った。ぼくは泣かなかった。街には平和が戻り、もうお姉さんと出会うことはなかった。

 今日計算してみたら、ぼくが大人になるまで3千と748日ある。ぼくが大人になったら、お姉さんと一緒に夜ふかしをして、眠ってしまった彼女をおんぶしてあげることもできる。ぼくらは今度こそ、電車に乗って海辺の街に行くだろう。その電車で、ぼくは、どれだけお姉さんを大好きだったか、どれだけもう一度会いたかったかを伝えるだろう。

ペンギン・ハイウェイ/森見登美彦の読書感想文

 小学4年生の頃、私はたくさん本を読み、友達と公園を探検し、ノートに物語や絵を書いた。庭には野生の狼がいて、水たまりは煮えた溶岩で、大きな岩は無人島だった。星空にはUFOが飛んでいたし、私たちは宇宙と繋がっていた。世界はもっと思い通りになって、描いた未来は実現すると信じていた。

 けれど、いつからだろう、ジャングルはただの草はらになり、庭の狼はただの柴犬になった。世界は、あの頃よりずっと小さくなった。もう物語が浮かんでくることもない。

 大人になるにつれて、私たちは確かな現実を知っていく。「身の程」に気づいていく。人間は空を飛べないし、水の中では生きられない。自分は、みんなが驚くほどえらくなることもないし、ノーベル賞も取れないだろう。

 そして大人になった私たちは、この「ペンギン・ハイウェイ」という物語が、非現実的なSFファンタジーであるとすぐわかる。

 だけど不思議なことに、「ぼく」の語りを追って読んでいくと、この生き生きとした冒険の世界が、あの頃の日常の延長にあってもおかしくないように思えてくる。物語を読んでいる間、タイムスリップしたように、小学4年生に戻る。放課後、学校裏のアマゾンを遡って森を抜ければ、【海】の草原にたどり着く気がしてくる。物知りで説得力のある話し方をする「ぼく」が、非科学的なことを断定口調で言うせいかもしれない。

 「ぼく」は、“自分はなんでもできる”と信じて疑わない。こんなに自信に満ちた大人を見ることはあまりないけれど、自信に満ち溢れた小学生なら、どこにでもいた。みんな、スーパーマンにも、魔法使いにも、総理大臣にも、絵描きにも、小説家にも、なれると信じていた。大人になるのはずっとずっと先のことで、大人になれば、もっと自由になれるのだと思っていた。

 大人になった私たちは、ぼくが数えた約4000日が、どれほど短いか知っている。そして、現実がどれほど不自由か、とてもよく知っている。やっぱり、がんばって手を伸ばしても、空は飛べないかもしれない。コーラの缶は、何度投げてもペンギンにはならないかもしれない。

 けれど、忘れてしまったたくさんの夢の中に、まだ、叶えられるものがあったのではないか。世界を正しく見ようと思いすぎて、世界を小さく見積もりすぎたのではないか。ぼくが開いた扉の向こうに、あの頃の自分がいる。冒険の地図を広げて、まだやり残したことがあるよと呼んでいる気がする。

 世界の果ては折りたたまれて、現実の内側にもぐりこんでいる。そのページを開いて、物語に深く沈んでいくとき、私たちの意識は現実世界の果てを超える。海辺のカフェで、お姉さんにもきっとまた会えるだろう。この物語だって、かつての少年が夢を叶え、果たした約束だったかもしれない。(みゅう https://twitter.com/rekanoshuto13


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