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書評「少年の日の思い出 ヘッセ青春小説集」ヘルマン・ヘッセ著/岡田朝雄訳

2017年11月30日 1時45分 参照回数:

 子供の頃の思い出や記憶というものは、大人になってからも、いつまでもその人という人物を象る重要な要素の一つとして、心に残り続けるものだ。

 楽しかったこと、悲しかったこと、幸せだった日々、初めての恋、初めての過ちなどなど、いろいろな経験を積んで、今があるわけだ。

 ヘルマン・ヘッセ著「少年の日の思い出 ヘッセ青春小説集」には、そんなことを改めて感じさせ、自身の幼少期の記憶を思い起こさせるような作品が四編収録されている。

「少年の日の思い出」少年の過ち

 ヘルマン・ヘッセと言えば、「少年の日の思い出」だろう。

 1947年以来、現在も日本の中学国語教科書に掲載されている青春小説の傑作で、知っている人も多いことだろう。

 私は恥ずかしながら、本作を読んだ覚えが全くなく、一際新鮮な気持ちで本書を手にとった。

 物語は、一人の少年がとある過ちを犯してしまう話だが、多種多様な蝶や蛾が数多く登場し、少年らしい心の高ぶりや好奇心を浮き彫りにした文章が繰り広げられる。

 本作が言いたいことは恐らく、終盤に語られる「一度だめにしてしまったことは二度ともと通りにすることはできない」ということであろう。

 それは少年が盗んで粉みじんにしてしまった蝶のこともさることながら、信頼という点でも言えることだ。

 たった一度の過ちで、崩れ去ってしまう友情や人間関係を"蝶の採集"という無邪気な少年の行為でもって表現してみせているのだ。

 誰でも子供時代に大切な物を盗まれたり、壊されたりされた経験があるはずだ。子供がしたこととはいえ、それが道徳に反する行いか否かを問うてるように感じた次第だ。

 また、今回の新訳では「あとがき」で訳者が熱弁をふるっているように、蝶や蛾の名称が原作により近い形となっており、最初のページには写真も載っているため、より分かりやすいものとなっている。

「ラテン語学校生」少年の初恋

 続く「ラテン語学校生」は、初心な少年が抱く初めての恋心を描く作品だ。

 初恋ならではのいてもたってもいられない"あの気持ち"を読者にハッキリと伝える物語で綴られている。

 しかし、結局は自身の置かれた立場、つまり半人前であることから、この恋は実らないのだが、少し大人びた女性に初めて恋をし、成就しない恋愛というのは、誰しもが経験するもの。

 ヘッセ自身とも重なる本作は、どこか寂しげで、未来への希望も見出せる一本だ。

「大旋風」少年の旅立ち

 次の章である「大旋風」は、これまでとは少し異なる趣向の作品だ。

 確かに少年の成長の過程が描かれる作品として成立しており、主に描かれるのは、嵐によって崩壊した故郷からの出発というもの。

 その中である女性との出会いがあり、熱愛されるといった具合だが、やはり注目してしまうのは戦時下の如く描き出されるその"嵐"の描写だ。

 降り注ぐ雹、倒れた煙突、崩壊した街並み・・・ヘッセ自身が巨大なサイクロンにより体験したとされる壮絶な経験が、事細かに記されているのだ。これまでのゆっくりと流れる時間の中で繰り広げられた淡い物語とは異なり、一気にどこか現実離れし、恐ろしさも兼ね備えた世界が展開され、驚いた次第だ。

「美しきかな青春」少年の帰郷

 最後に本書の中で最も長編な「美しきかな青春」は、成功して故郷に戻ってきた青年の物語。

 大人になり帰郷したヘルマンが、恋や家族との関係に思い悩みながらも、前に踏み出していく姿が描かれる。

 「ラテン語学校生」での話を思い出してほしい。主人公の少年は、十分な稼ぎもない半人前であることから、初恋が実らなかった。

 しかし、間に一編の物語を挟んだ本作の主人公は一人前として周囲から認められている存在だ。そんなヘルマンが美しい女性に恋い焦がれる日々を送るが、次第に別の女性にも心を惹かれていくようになる。

 しかし紆余曲折を経て、どちらの恋も結局実らないのだが、ヘルマンはそれを気持ちよく受け止めるのだ。

 新たな旅立ちを祝福する家族の姿がラストでは描かれており、美しい締めくくりだったように思う。

 この「少年の日の思い出 ヘッセ青春小説集」は、ヘルマン・ヘッセの人生を語っているかのような一冊。

 4つの短編を通じて、自身の人生における岐路を描き、あたかも全てが「美しきかな青春」のラストに集約されているようなのである。

 同時に読者自身が童心に帰ったかのような気持ちにもさせるのだ。

 もしも、ヘルマン・ヘッセの作品を読んだことがないという人がいれば、ぜひともオススメしたい初心者向けの一冊である。



【この記事の著者紹介】
Sunset Boulevard(書評&映画評ライター):
 映画を観ることと本を読むことが大好きな、しがないライター。オススメ小説の書評や読書感想文を通じて、本を読む楽しさを伝えられたら嬉しいです。また幼き日よりハリウッド映画に親しんできたため、知識に関しては確固たる自信があり、誰よりも詳しく深い評論が書けるように日々努力を重ねています。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。Twitter:https://twitter.com/sunsetblvdmovie



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