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書評「うたかた/サンクチュアリ」吉本ばなな著

2017年11月30日 1時45分 参照回数:

 人間、誰しもが人生の岐路に幾度となく立たされる・・・中でも出会いや別れから生じる人生の転機というのは、心踊らされながらも、どこか不安に苛まれるものだ。

 吉本ばなな著「うたかた/サンクチュアリ」は、そういった運命的な人との出会いやそこから見える微かな希望の光などを明確に描き出した秀作である。

 今回は、二本の中編から成る本書の魅力とその感想を綴っていきたいと思う。

「うたかた」四人家族の不器用な’’愛’’の物語

 まず一本目の「うたかた」は、とある"四人家族"が主人公である。

 鳥海人魚という個性的な名を持つ少女は母と二人で暮らしており、母とは一度も結婚していない父が生活の面倒を見ていた。ある日、父の家の自宅の庭に知り合いの女性が一人の男の子を捨てていってしまう。

 嵐という名の少年を育てることになった父と、どんどん距離が離れていく人魚と母だったが、それからしばらく経った後、母が父とカトマンズに旅行に行くと突如、言い出す。

 大学生へと成長した人魚は戸惑うも母の決断を尊重し、行かせることにする。がらんとしてしまった自宅でいてもたってもいられず、外へ出た人魚だったが、道を歩いていると一人の青年に声をかけられる。それは、嵐だった。なんとも運命的な出会いから始まる"兄妹"関係・・・文字通り’’嵐’’のように激しく、彼らは次第に惹かれあっていく・・・。

 この物語で面白いと感じたのは、やはり母と人魚、そして父と嵐の人間性が酷似していて、お互いに求めているものを補いあっているという部分。幼き日から父を苦手としていた人魚が奇しくも、その父の手で育てられ、自由人で何事にも縛られない嵐に心惹かれていき、幼き日に母親により捨てられた少年・嵐が、その母と似通った特徴を持つ人魚に惹かれていく。

 結局のところ、二人の血は繋がっておらず、恋愛関係に発展しても何の問題もないのだが、どこかいけないことをしているような焦燥感に駆られ、それを恐る恐る覗いているような気持ちにさせるのだ。

 そんな嵐との男女の関係で、次第に苦手としていた父ともまともに接することができるようになっていく人魚のカタルシスもラストでは描かれており、不器用な"四人家族"の不器用な愛の物語が繰り広げられている。

「サンクチュアリ」わが青春に思いをはせながら

 2本目の「サンクチュアリ」は、変わって智明という青年が主人公。

 大学生の彼は堕落した生活を送っており、やる気が出ない日々を淡々と生きていた。

 ある春の夜、海岸を散歩していると、女性のすすり泣く声が聞こえ、声を頼りにその場へ向かうと、女性が人ひとり座れるような階段で、泣いていたのだ。来る日も来る日もその場で泣く彼女を見かねた智明は、声をかけ、お茶を共にする。これが運命的な出会いとなり、季節が変わった夏に二人は再会することになる。

 聞くところによれば彼女は夫と死別してしまい、人生の岐路に立たされているという。

 一方の智明もまた、恋人が自殺してしまい、悲しみに打ちひしがれ、どうにも人生を生きる意味を失っていたのだ。

 似たような境遇に立つ二人が、自然と支え合うようになり、人生に希望の光を見出してゆく・・・。

 どこか夏の夜の淋しげな雰囲気を漂わせる作品で、懐かしさや安心感を与えてくる。

 大切な人を失ってしまった二人が、人生の岐路に立たされている瞬間に偶然出会い、お互いの光となっていく、なんとも美しい物語で、いつの間にか読み終わってしまったものだ。

 本作は二人の高校時代にもフォーカスされたストーリーが繰り広げられており、優しげで光輝く青春の淡い記憶が綴られている。

 教室の窓際の席に座っていた頃の話、部活終わりを待ち続けた木の下での思い出・・・なぜか読者である私自身も過ぎ去りし青春の日の記憶を思い起こさせられるのだった。

 悲しく切ない物語でありながらも、温かい空気に満ちた作品で、感慨深く、作品の世界へと入り込んで、その場にいるような気持ちにさせる一作だ。

運命的な出会いを描いた2作品

 両作品に共通しているのは、人生に悩む主人公が運命的な出会いをきっかけに、前へ踏み出していく姿が描かれているところだ。

 目標や意味を見失い途方に暮れていた男女が、たった一人の人間に出会ったことで、人生が変わり、最後には希望の光を身にまとっている姿からは大きな感動と勇気が同時に伝わってきて、心が洗われるような気持ちにさせる。

 人生に悩む人たち、目標を見失ってしまった人たち、家族との関係が上手くいっていない人たち、そして新たなことに挑戦しようとする、すべての人たちに読んでもらいたい珠玉の一冊だ。



【この記事の著者紹介】
Sunset Boulevard(書評&映画評ライター):
 映画を観ることと本を読むことが大好きな、しがないライター。オススメ小説の書評や読書感想文を通じて、本を読む楽しさを伝えられたら嬉しいです。また幼き日よりハリウッド映画に親しんできたため、知識に関しては確固たる自信があり、誰よりも詳しく深い評論が書けるように日々努力を重ねています。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。Twitter:https://twitter.com/sunsetblvdmovie



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