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有頂天家族/森見登美彦のあらすじと読書感想文

2017年11月3日 1時20分 参照回数:

有頂天家族/森見登美彦のあらすじ

 京都にとある狸の一家がいる。狸は古来より京都を住処とし、人間や物体などに化ける能力を持ち、人語を理解し喋ることもできる。

 主人公・矢三郎は狸の一家・下鴨家の三男坊。偉大な狸界の棟梁こと「偽右衛門」である父・総一郎は既に亡く、家族想いの母・桃仙、堅物で土壇場に弱い長兄・矢一郎、蛙に化けて引きこもり続ける次兄・矢二郎、幼く臆病な末弟・矢四郎。以上5名が下鴨家の全体図である。

 一方で、下鴨家のライバル的存在として夷川家がある。夷川家当主の早雲は下鴨総一郎の弟で、矢三郎の叔父にあたる。つまり親戚筋なのだが、仲は険悪。早雲の息子の金閣・銀閣兄弟は事あるごとに下鴨家に喧嘩をふっかける。早雲の娘・海星は下鴨家には好意的で、総一郎が決めた矢三郎の婚約者であったが、現在は早雲からの解消通告により有耶無耶になっている。

 京都には狸だけではなく天狗もいる。天狗は見かけ上は人間と変わらず、空を飛び天候を操ったりといった人知を超える能力を持つ。矢三郎は引退した天狗である赤玉先生に師事し、その住まいに出入りして日々の世話を焼いている。

 京都にはもちろん人間もいる。狸や天狗に関わらない一般人だけでなく、人間から天狗になる教育を受けた者もいる。赤玉先生の弟子である美女・弁天がそれに当たる。弁天は矢三郎の初恋の人であり、既に降られているものの、現在も下僕のような形で付き合いが続いている。

 弁天が参加する会合に「金曜倶楽部」というものがある。金曜倶楽部は言わば飲みの集いだが、忘年会で狸を鍋にして食すという変わった催しがある。下鴨家は過去に、総一郎を狸鍋にされて亡くしたという因縁がある。

 こうした周りの状況で、夷川家の金閣・銀閣と下鴨家の間で頻繁に小競り合いがあったり、金曜倶楽部の不穏さを感じたりするものの、家族や赤玉先生や弁天らと気ままに過ごしていた矢三郎であった。

 さて、下鴨家には、お盆の五山送り火の夜に毎年恒例の行事があった。それは空飛ぶ納涼船を出すというものである。

 納涼船は例年使用していたものがあったが、昨年の金閣・銀閣との小競り合いで紛失した。その代用品を探すため、矢三郎が一肌脱ぐことになる。

 矢三郎には心辺りがあった。赤玉先生が持つ「薬師坊の奥座敷」という名の小さな空飛ぶ茶室である。しかし赤玉先生曰く、今は弁天が持っているとのことで、弁天の元に矢三郎は足を運ぶ。交渉の末に奥座敷を借りることができた矢三郎ら下鴨家は、五山送り火に懸念なく臨めるようになった。

 五山送り火の当日、下鴨家は赤玉先生を誘い、夜の京都で奥座敷とともに浮上した。金光坊というこれまた元・天狗とともに「大」の字が点灯するのを見つめていたが、夷川家の納涼船からちょっかいが入り、花火・大砲などの打ち合いになる。矢三郎は弁天の持つ天狗の特殊道具「風神雷神の扇」を借用して強風・雷雨を起こし、夷川家を撃退した。しかし代償として弁天から借りた奥座敷・風神雷神の扇をそれぞれ破損・紛失してしまった。

 弁天の逆鱗に触れるのを恐れた矢三郎は、京都より逃亡。大阪の日本橋で元・天狗の金光坊のもとに厄介になってしばらく過ごしていた。

 しかし、いずれ弁天に見付け出されて連行され、金曜倶楽部で芸を披露することになった。ヘマをすれば狸鍋にもされかねない状況だったが、持ち前の機転と弁天の助力もあり切り抜けることができた。

 金曜倶楽部では、狸をこよなく愛する淀川教授と意気投合する。淀川教授は亡き父・総一郎と面識があり、総一郎が狸鍋にされる直前の様子を聞く。また、今年の忘年会の狸鍋の具材となる狸をまだ調達できていないと漏らしていた。

 それからしばらく大阪で過ごし、弁天の件のほとぼりが冷めたと感じた矢三郎は京都に戻る。久しぶりに赤玉先生のところに顔を出して、矢一郎・矢四郎とともに銭湯へ赤玉先生を連れて行く。

 そこではまたも夷川の金閣銀閣兄弟がちょっかいを出してくるが、矢一郎が撃退。捕まえた金閣より、父の死の遠因として矢二郎の行動が関連しているという事実を聞く。兄弟たちは、各々受け入れようと努力する。

 そんな折、総一郎の死去以降は代行が続いていた偽右衛門を決める会議の日が迫っていた。立候補者は二人。矢一郎と夷川早雲の一騎打ちである。会議の日は、金曜倶楽部の忘年会と同日であり、総一郎の命日でもあった。

 会議当日、矢三郎ら家族は矢一郎を送り出し、結果をそれぞれ待つ予定であった。矢三郎は矢二郎の棲む井戸で2人、父のことを回想したり、最近現れない海星のことなどを語り合っていた。その時、風神雷神の扇を使ったような突然の雷雨が京都を包む。ただ事ではないと感じた矢三郎は、母・兄・弟ら家族を探すも行方が知れない。

 困り果てた矢三郎の前に海星が現れ、総一郎の死と今回の件に関する夷川早雲の暗躍を語った。肝心な家族の居場所については、海星を追って現れた早雲に遮られてしまう。

 しかし、弁天より淀川教授が鍋用の狸を引き取る算段をしていたことを聞いた矢三郎は、家族が金曜倶楽部の忘年会で狸鍋にされることを防ぐため、淀川教授を探す。やけにあっさりと淀川教授の姿を見つけるも、金閣・銀閣の罠であり捕まってしまう。

 こうして母・長兄・末弟らとともに捕縛された矢三郎。下鴨家絶対絶命の危機の中、引きこもりのはずの矢二郎が空飛ぶ叡山電鉄に化けて兄弟を救出。夷川家の陰謀を阻止し、母を救うため、下鴨家は京都を駆け回る。

 金曜倶楽部への潜入・矢一郎と早雲の対峙・弁天の気まぐれな行動。散々取っ散らかった後の赤玉先生の介入により、偽右衛門の件も含め全てが風神雷神の扇によって吹き飛ばされてしまった。

 クリスマスを過ぎれば新年に至る。下鴨家を初めとした皆は初詣に訪れる。弁天の隣で、取り立てて願うこともないと言いながらも、狸たちにほどほどの栄光あれ、と願う矢三郎であった。

有頂天家族/森見登美彦の読書感想文


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 今回、読書感想を書くにあたり、本書を久しぶりに再読した。

 まずは、印象に残った個所を引用したい。場面は、矢三郎が赤玉先生の使いで弁天あての恋文を渡しに行った後の矢三郎の独白である。

『先生は私が恋文を盗み読んだことを先刻御承知であり、私は先生がそのことを先刻御承知であることを先刻御承知である。今宵にかぎったことでなく、これまでの長いやり取りの積み重ねを通して、互いの先刻御承知が入り乱れている。けれども先生はそれを踏まえて喋ろうとはしないし、私も「ぶっちゃけ」はせぬ。師弟たるもの、迂闊に肝胆相照らすわけにはいかないのである。』

 託された恋文を盗み読みするなど人間性が疑われる行為であるが、矢三郎は狸ゆえか平然と盗み読みし、赤玉先生はその行為を追求せず呑み込み、矢三郎も先生が呑み込むことを理解している。

 一言で表現すると以心伝心・ツーカーな関係ということだろうが、お互いを理解し配慮するような気遣いの一方で、見栄っ張りな大人同士の腹の探り合いのような構図も見える。

 赤玉先生は我がままで口が悪いし狸遣いも悪い。面倒ばかりの爺さんで、天狗としての能力も失って久しいのだが、引退した天狗としての人脈・名声は未だ広く大きいものがある。

 矢三郎とて品行方正で従順な狸ではなく、自他ともに認める「阿呆」であり方々で暴言を吐くわ問題を起こすわで、駄々を捏ねる赤玉先生に対してはくそじじいだの憎まれ口を叩く。それでいて飄々としていて機転が利き、さらりと難題をまとめてしまう器用さがある。

 お互いに利用価値があり、必要な場面でちゃっかり利用しあっている。こうした持ちつ持たれつも「先刻御承知」なのだ。なかなかこうした関係を他者と築けるものではない。

 自分も三十数年生きてきて、仕事(職業はSE)だの家庭だの交友関係だの、様々なコミュニティで他者と関わるが、やっぱり言葉にしないと分からないことばかりだし、勝手に「忖度」して解釈して行動したことが裏目に出ることがある。仕事なんてその最たるもので、ここまで言うのは執拗かと感じたり億劫になって聞くのを控えた点ほど、後で大問題になったりするものである。(あんまり細かく書けないが、SEなんてそんなことばかりだ)

 もっとも、「先刻御承知」を相手に求めることが、おこがましいのかもしれない。

 「先刻御承知」状態に至るには、様々な条件がありそうである。当然ケースバイケースだろうが、長いやり取りの積み重ねや、生来の相性などに加え、お互いの境遇や環境の共通点も関連しそうである。

 矢三郎と赤玉先生については、師匠と弟子、天狗と狸、立場も種族も全く異なる二人なのだが、弁天に特別な感情を抱いており、現在それが実っていない点までもが同じである。恋敵ではあるが、同類相憐れむような状況が作る連帯感かもしれない。

 「先刻御承知」が異常な状態であり、コミュニケーションには当然のような苦労があるものと考え自ら努力すれば、それに近しい関係が築けるのかもしれない。

 ただ、読みながらはそう感じたが、読了後はそんなに気負わずに「とりあえず、ほどほど」でいいんじゃないか、と思い直した。そんな、心地好くて優しいラストシーン。

 なお、今回の再読後に、参考として自分のブログにある初読時の履歴を確認したところ、全く同じ個所を引用していた。同じようなことを当時も思っていたのだろうな。十年近く経っても悩みは大して変わらないというのはどうなのか。自分の成長のなさに頭が痛くなる次第である。(chen



→ 夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦のあらすじと読書感想文




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