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【作品紹介】短編集「幸運の25セント硬貨」スティーヴン・キング|バリエーション豊かな物語の数々、やるせなさに満ちた作品も

2017年10月29日 23時00分 参照回数:

 「幸運の25セント硬貨」(スティーヴン・キング著/浅倉久志他訳)。このタイトルを見て思い浮かんだ本書の印象は、とてもハツラツとした幸福感のある話なのではないかということだった。しかし、本書を開いてみて、驚いたのは、何を隠そう、どの作品もホラー要素たっぷりの物語が展開されているではないか。イメージとは真逆の作風に少々戸惑いながらも、ページをめくる指を止めることはできなかった。

 原書では13編からなる一冊として刊行されているのだが、日本版(文庫)では2冊に分けられ出版された。なので、まずは前回紹介した「第四解剖室」から読むことをオススメしたく、そちらを読み終えてからこの「幸運の25セント硬貨」を手に取るべきだ。

謎が謎を呼ぶ「なにもかもが究極的」

 主人公ディンクはピザの宅配やスーパーのカート置き場などで仕事をこなしてきた若い男だが、今は"いい就職口"についているという。メルセデス・ベンツに乗ったミスター・シャープトンという男からもらったその仕事には、給与のほかに家と食事、家事をこなすメイド、頼めば何でも届けてくれるサービスなど、何の落ち度もない"究極的"な生活が用意されているのだ。ただメールを送るだけ・・・ディンクが就いた仕事とは一体何なのか・・・?

 とにかく本作はディンクという青年とミスター・シャープトンと呼ばれる謎の男とのミステリアスな関係性が前面に押し出された作品で、ディンクの仕事に関して、どんどん事実が明らかになっていく小気味よさのある一本だ。最後の最後までその仕事の実態というのは明かされることがないため、読者としては先が気になり、次々とページをめくり続けてしまう。

エドガー・アラン・ポーへのオマージュ「L・Tのペットに関する御高説」

 大事にしているペットはいるだろうか? 本作はそんなペットの健気な愛を描くと同時になんとも鬱蒼とした空気が流れる作品である。

 物語の主人公となるL・Tは妻へのプレゼントとして飼うことになった猫と犬があまり好きではなかった。それが原因で妻とは3年間の結婚生活にピリオドを打つことになるのだが、未だ妻の安否の確認は取れていないという・・・。

 エドガー・アラン・ポーの傑作「黒猫」を彷彿とさせる作品である。恐らく動物好き、特に犬や猫が好きで飼っているという方々は、読むのに苦労を強いられることであろう。この作品の結末は、なんとも耐え難いやるせなさに満ちている。

ハラハラドキドキの「道路ウイルスは北にむかう」

 あるガレージセールで心奪われた絵を購入し、それをトランクに積んで帰路についた男の顛末を描く。本書において最も面白い作品の一つで、読んでいて、焦燥感に駆られる一本だ。

 一目見て購入を決意したその絵は不気味な雰囲気を漂わせており、見る見るうちに絵が変化していくまるで、その絵の辿るところに血生臭い匂いが立ち込めているように・・・。

 あまり書きすぎるとネタバレになり、その焦燥感を楽しめなくなってしまうので、書かないが、キングの圧巻の筆舌で、読者をも巻き込んだ一級品のスリラー作品となっている。

キング史上最高傑作と言っても過言ではない「ゴーサム・カフェで朝食を」

 「ティファニーで朝食を」のようなお洒落な作品を連想するであろうが、とんでもない。本作はなんとも不気味で身の毛もよだつ作品である。

 ゴーサム・カフェで待ち合わせをしていた証券会社勤めの男が主人公で、カフェの給仕頭が突如として発狂し、大惨事を起こす。キングらしいおどろおどろしい展開が待ち受ける本作を読んでいて、正直、夜も眠れないほどに怖い思いをした。

 その卓越した情景描写、主人公たちの心理を浮き彫りにした圧倒的言葉使い、とにかく全てのピースが完璧にマッチし、秀逸な物語へと昇華を遂げているのだ。これまで名だたる傑作ホラーを世に送り出してきたスティーヴン・キング作品の中でも上位に入る出来栄えであろう。

 この他に何度も同じ場面を繰り返すループ地獄に陥ってしまう女性を描く「例のあの感覚、フランス語でしか言えないあの感覚」、心霊ライターの男が訪れたとあるホテルの1408号室で起きた悪夢のような体験を描き出した「一四〇八号室」、表題となっている幸運の25セント硬貨を手にしたメイドを描く「幸運の25セント硬貨」といったように実にバリエーション豊かな物語の数々が収録されている。

 時にはユーモアを、時には言いようのない恐怖を、そして時には読者の心を揺さぶるストーリーテラーであるスティーヴン・キング。いつまでも読者の心を掴んだら離さない魅力が彼にはあるからこそ、映画界がこぞって彼の作品を実写化したがるのであろう。

 本書に収録されている作品のいくつかもすでに映画やドラマとなっていて、何本かは観たこともあるのだが、情景描写がしっかりしている分、映像となっても、自らが想像したものと大差ない。それだけ、しっかりとした文章が書き綴られているということだ。

 我々を大いに楽しませてくれるスティーヴン・キングの活躍からこれからも目が離せそうにない。



【この記事の著者紹介】
Sunset Boulevard(書評&映画評ライター):
 映画を観ることと本を読むことが大好きな、しがないライター。オススメ小説の書評や読書感想文を通じて、本を読む楽しさを伝えられたら嬉しいです。また幼き日よりハリウッド映画に親しんできたため、知識に関しては確固たる自信があり、誰よりも詳しく深い評論が書けるように日々努力を重ねています。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。Twitter:https://twitter.com/sunsetblvdmovie


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