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【作品紹介】短編集「第四解剖室」スティーヴン・キング|ジャンルの異なる全6編、2018年に待望の実写化「ダーク・タワー」も

2017年10月29日 22時55分 参照回数:

 “モダン・ホラーの帝王”スティーヴン・キング。「スタンド・バイ・ミー」、「シャイニング」、「IT」など、数多くの傑作を世に送り出してきたキングの息をもつかせぬ短編集が存在するのをご存じだろうか。「第四解剖室」と「幸運の25セント硬貨」だ。今回は、僭越ながら、スティーヴン・キング著「第四解剖室」(白石朗他訳)の魅力を紹介したいと思う。

 原書では13編からなる一冊として刊行されているのだが、日本版(文庫)では2冊に分けられ出版された。まずはこちらの「第四解剖室」から読むことをオススメしたい。本書にはジャンルの異なる全6編が収録されており、キングらしい息をもつかせぬ展開へと持ち込んでくれる。

「第四解剖室」読者を世界観に引き込む

 本作は、生きているにもかかわらず、死体袋へと詰め込まれ、解剖室へと運ばれてしまい、今、まさに切り刻まれようとしている男の恐怖を描く。

 意識はあるものの、身体は死に近い状態であるという興味深い一作。近年では手術中に身体は麻酔状態で意識だけが覚醒してしまう“術中覚醒”と呼ばれる状態を扱った作品も数多く存在するが、題材的には類似している。主人公の心中穏やかではない様子と音楽を背景に甘い雰囲気にまで発展しそうな医師たちとのギャップがキングらしいユーモアの効いた部分である。同時に読者を世界観に引き込むスリリングな物語もまた秀逸な一本だ。

「黒いスーツの男」鳥肌が立つほど恐ろしい

 前作がスリラーなのに対し、こちらの作品は完全なるホラー作品。アメリカが第一次世界大戦に参戦する3年前のある日を舞台に、兄を蜂に刺されたことで亡くしてしまった釣り少年が、黒いスーツを着た凶々しいオーラを放った男と出会ったことで、人生が一変してしまう姿を描く。

 本作はまさにキングとでも言うべき、おどろおどろしい筆舌で語り尽くされた作品で、鳥肌なしには読めない一本だ。

 「スタンド・バイ・ミー」を彷彿とさせる蒸し暑さの伝わる情景とこの世のものとは思えない凄まじい"寒気"が同時に押し寄せてくる。久々に読書で迫り来る恐怖を感じさせられた次第である。

「愛するものはぜんぶさらいとられる」想像力を掻き立てられる

 本作はキングらしい"旅する男"を主人公にした一本だ。

 中年のセールスマン アルフィーがとあるモーテルにやって来る。彼は自らの人生を終わらせるためにこのモーテルに立ち寄り、これまでの人生で書き溜めてきた"メモ"の詰まったノートを開く。そこには数々のレストエリアで見かけた面白い落書きが記されており、ユーモアの効いたものから人生を悲嘆するものまでバリエーションに富んだものが多数あるのだった。

 出稼ぎの仕事をしている人間特有の趣味とでも言おうか。日本だと相合傘や意味のない落書きが多いが、アメリカの高速道路沿いのレストエリアやガソリンスタンドのトイレには、ユーモアに富んだ落書きが多数存在する。そういったものを記録し続ける男が主人公。

 落書きをした人間に思いを馳せ、創作意欲や想像力をかき立てられる作品である。また本作は結末が曖昧にされた形で幕を閉じるのだが、それもまたキングらしい部分でもある。

「ジャック・ハミルトンの死」スティーヴン・キングなりの伝記小説

 これまでは主にフィクション要素の強い作品であったが、この「ジャック・ハミルトンの死」は実話をベースに物語を展開させている。

 1963年、"社会の敵No.1"とされたジョニー・ディリンジャーの仲間の一人ホーマーの視点から物語が展開されるドラマ性の高い一本だ。

 正直なところを言えばキングらしいホラー要素というのは皆無に等しく、読む人を選ぶ一作であるものの、本当にディリンジャーと共に無法者として各地を転々としていたのではないかと思わせるリアルな描写が際立っている。フィクションでありながらも、ディリンジャーの史実として捉えてしまいそうになる。伝記作品を放つキングにも可能性を感じてしまう次第である。

スパイ小説さながらの「死の部屋にて」

 本作もまたホラーとは違う一本だ。とある尋問室に連れ込まれたジャーナリストの顛末を描く。尋問室という隔絶された空間で繰り広げられる心理描写が強く、拷問を受ける男の心中を察することができる。読んでいる間は生きている心地がせず、速くこの場から逃げ出したいと思わせるほどに禍々しい。キング作品の中でも異彩を放つスパイ小説さながらの描写が色濃い。

今こそ読みたい!「エルーリアの修道女」

 本作はスティーヴン・キング史上最高傑作の呼び声高い「ダーク・タワー」のスピンオフ的作品であり、"最後のガンスリンガー"であるローランドが道中出会った謎の修道女たちやスロー・ミュータントと呼ばれる異形の者たちとの物語が繰り広げられる。

 「ダーク・タワー」を読んでいないとわかりにくい描写も目立つが、これだけでも一つの作品として完結しているため、楽しめないわけではない。

 西部開拓時代を舞台にエドガー・アラン・ポー作品と「侍女の物語」を掛け合わせたような作品で、ミステリアスな一本だ。血生臭い情景やグロテスクな表現も目立つため、苦手な人は全く受け付けないかもしれない。

 短編というよりも中編に近いページ数を誇るため、読む際には少し気合を要するかもしれないが、2018年に待望の実写版「ダーク・タワー」が公開となるだけに、まさに今、読みたい一作である。

 スティーヴン・キングを読んだことがないという読者にこそ勧めたい一冊で、様々なジャンルの短編が収録されているため、試し読みという点でも十分な力を発揮することだろう。


【この記事の著者紹介】
Sunset Boulevard(書評&映画評ライター):
 映画を観ることと本を読むことが大好きな、しがないライター。オススメ小説の書評や読書感想文を通じて、本を読む楽しさを伝えられたら嬉しいです。また幼き日よりハリウッド映画に親しんできたため、知識に関しては確固たる自信があり、誰よりも詳しく深い評論が書けるように日々努力を重ねています。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。Twitter:https://twitter.com/sunsetblvdmovie


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