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書評「パコと魔法の絵本」関口尚|あらすじ&解説、涙&感動の小説版がオススメ(ネタバレあり)

2017年10月17日 16時55分 参照回数:

 「パコと魔法の絵本」。映画化もされている本書を恥ずかしながら全く知らないと言っても過言ではなかったのだが、今回、ご縁があり、書評を書かせていただくことになった。

 タイトルからして、パコという主人公が魔法の絵本の世界に入り込んでしまい、奇想天外な冒険を繰り広げるファンタジー作品なのかと思っていたのだが、予想を覆される内容の物語が展開される作品で、良い意味で裏切られた次第である。

「パコと魔法の絵本」のあらすじ

 物語の舞台となるのは、とある病院だ。

 心臓に爆弾を抱える老人・大貫は、大富豪であり、会社に人生を捧げてきた。弱肉強食の世界で帝国を築き上げた大貫は「おまえが私を知ってるってだけで腹が立つ」と自分以外の人間を虫ケラ扱いする偏屈クソじじいだ。

 そんな偏屈クソじじいが発作を起こし入院しているのは、奇人変人ばかりが集まる古い礼拝堂を改装した病院。

 消防士であるにもかかわらず消防車に轢かれて怪我をした滝田、壮絶な過去を持つオカマの木之元、何やら重大な秘密を隠していると思われるヤクザの龍門寺、毎日の如く自殺未遂で運ばれて来る元子役俳優の室町、奇行が目立つ堀米・・・各々強烈な個性を持った患者たちがここにはいる。

 何も患者だけが可笑しな連中というわけではない。ピーター・パンの格好をした医師の浅野、口が悪く、患者に対して容赦のない看護師・タマ子、頼りない甥っ子の浩一、その妻でガメツイ雅美・・・などなど、登場人物たちは皆個性が強い。

 その中でも物語の重要人物であるのが、7歳の少女・パコだ。

 彼女は「ガマ王子対ザリガニ魔人」という絵本を常日頃抱え、毎日その絵本を読み続けている。

 彼女が偏屈クソじじい大貫の前に現れたことで、大貫の人生が大きく変わるという物語だ。

キャラクター描写が際立つ一作

 これだけ個性的な登場人物が多く登場すると、一人一人の描写が薄くなるのではないかという心配があったのだが、実に巧妙にそれぞれの人生を描写しており、全員が感情移入を誘ってくる。誰もが自身を投影できるキャラクターを見つけられる仕様になっているのだ。

 読者が登場人物に自らを投影するように、登場人物たちも劇中に登場する絵本「ガマ王子対ザリガニ魔人」に登場するキャラクターたちに自己投影していくという、なんとも感慨深い物語が繰り広げられる。

 交通事故により記憶を保つことのできないパコのために来る日も来る日も絵本を読み聞かせる大貫が引用する一節が大貫の現状を物語っていたり、バラバラだった患者たちが一つのことを目標にすることで、まとまっていく姿も小気味よく、ものすごく感心させられるストーリー構成になっているように感じた次第だ。

 また、顔や名前を覚えられることを嫌っていた偏屈じじいが、名前や顔を記憶させようと躍起になり、心を入れ替えていくという部分は、なんとも皮肉がきいている。

 そういった秀逸なキャラクター描写とともに、どうにかしてパコの心に何かを残そうとする大貫を初めとした患者たちの感動の物語が綴られているのが、この「パコと魔法の絵本」である。

断然、小説で読むことをおススメする

 日本人に好まれやすい作品で、若干、既視感のあるストーリーであるのは否めないものの、最後には涙を誘い、大いに感動させてくれる“涙活”にはピッタリの一冊と言えるだろう。

 正直言って、実写映画の演出や描写はやり過ぎで、全く説得力のない作品となってしまっているため、迷わず小説で読むことをオススメしたい。

 「ファンタジーっぽくて面白そう」という安易な気持ちから手に取った一冊が思いもよらぬ感動作で、いろんな意味で裏切られたが、ページをめくる指が止まらなかったものである。

 劇中で登場人物たちにとって「ガマ王子対ザリガニ魔人」という絵本が特別な一冊になったように、読者にとってこの「パコと魔法の絵本」という作品も特別な一冊になっていくことだろう。


【この記事の著者紹介】
Sunset Boulevard(書評&映画評ライター):
 映画を観ることと本を読むことが大好きな、しがないライター。オススメ小説の書評や読書感想文を通じて、本を読む楽しさを伝えられたら嬉しいです。また幼き日よりハリウッド映画に親しんできたため、知識に関しては確固たる自信があり、誰よりも詳しく深い評論が書けるように日々努力を重ねています。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。Twitter:https://twitter.com/sunsetblvdmovie


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